第23話 来訪者
「あ、そうだわ!こんな子猫ちゃんと戯れあっている場合じゃないのよ」
「むぅ!誰が子猫よ!……可愛いって事?」
「はいはい、ミリーは可愛いよ…それでシオン、何か急な案件か?………おい、シ、シオン?」
ど、どうしたんだ!?目のハイライトが消えているぞ!怖い!
「……何でもないわよ(後でちゃんと償って貰うわ)、ジン、貴方に客人よ」
客?ここ最近はザクソンがそういった対応をしていた筈だ
「ザクソンはどうしたんだ?」
「ザクソンが貴方を呼んでいるのよ、彼では対応しきれないって」
あの万能苦労人のザクソンが?
「誰だ?シオンわかるか?」
「私は頼まれただけで、その人の事見てないのよ、人間だって言ってたわ」
彼が俺を呼ぶならこの街にとって重要な事なのだろう
既にザクソンはこの街にとっては欠かせない人物になっているな…今、思い出したけどザクソンもクレアも七大罪としての仕事はいいのだろうか…?
「わかった、すぐに行く…ミリー、おばさん、俺は戻るよ、また顔を出すから」
「しっかりやりなよ!疲れたらいつでもおいで」
「…頑張ってね(私にも何か力になれたらいいんだけど)」
「…………行きましょう」
街が大きくなり、領地の運営をするにあたって領主の屋敷を創った
ここで、主に街や領地の事を話し合ったりしている、俺の仕事部屋もここにある…書類で埋まりそうだがな
勿論、客人用に応接室もある、シオンに言われてそこに向かう
扉をノックして入るとザクソンが居た、その向かいには……誰?このふっくらした白髪の爺さんは
なんとなく見たことがある気が…しないでもない
「お待たせしました、領主のジン・カルバードです」
「いえいえ、急に来たのはこちらですので、寧ろ此方こそ約束も無しに」
物腰の低い人…いや、狸だな
「それで、今回はどの様なご用件で」
「はい、其方の方にはお話ししましたが、私は帝国第4皇女ミリアム殿下の使いとして参りました、セバスと申します」
!!なるほど、ザクソンが俺を呼ぶわけだな
しかし、第4皇女の使い?皇帝じゃなく?
確か第4皇女は皇族の中では地位が1番低かった筈だ、それにかなり冷遇されていると聞いたことがある
「警戒なさるのも無理はありませんな…我々は貴方様には償いきれないほどの事をしましたから…私如きの頭では足りないのは承知の上ですが、申し訳ありませんでした」
「……正直、思う所がないとは言えません、しかし、貴方にはなんの関係もない事だ、それにミリアム殿下にも…殿下には何も知らされてはいなかったのではないですか?」
「……はい、その通りです」
やはりな…だが、なら何故?
「…実は私は使いと申しましたがミリアム殿下には何も命じられてはおりません、ここへ来たのは私、我々の独断です、殿下はお望みにはならないでしょうから」
「?話が見えないのですが…」
突然立ち上がって、床に頭を打ちつける勢いで下げる、てか打ちつけた!鈍い音がしたぞ!?
「ジン様…どうか、どうか!ミリアム殿下をお救い頂けないでしょうか!」
「………落ち着いてください、まずは訳を」
セバスが言うには、帝都はかなり酷い状況の様だ、金や権力を持つ者が好き勝手にやっているらしく、その配下や手下達も自分達の背景を匂わせて、やりたい放題
そんな現状を憂いたミリアムがなんとかしようと声を上げるも、なんの権限も持たない彼女にはどうすることも出来ない
せめて父である皇帝に進言するも適当にあしらわれたそうだ、他の兄妹にも頼れずに途方に暮れていると
「我々としては皇族の中で唯一、真に民達を思っているミリアム殿下にこそ、この国を導いて頂きたいと思っておりましたが…最早この国は手遅れです、それは貴方様にもお分かりでしょう」
そう、この国は既に滅亡は確定なのだ、財政の破綻に国を捨てる民衆、帝都だけではない…帝国のほぼ全土で同じ事が起こっている、無事なのは心あるマトモな領主のいる領地くらいだ、その数は多くはないがこのカルバードと交易をしているのそういう領地を選んでいる…解決するためには皇帝が動かなくてはいけなかった、皇子や貴族を正し、民を救う、だが現皇帝は己の欲を満たす事しかしなかった、国を治める者としては最悪だ…寧ろ今までよく何事も無く国を治めてきたと不思議に思う
「……ジン、帝国の現状はお前がきっかけだ」
「は?俺?」
「ザクソン殿!これは我々の所為です!決してジン様に責任があるわけでは無く」
「そんな事はわかっている、愚かな人間達が勝手に自ら滅んで行くのだ、だがギリギリで保たれてきた均衡が崩れたのは、ジンが魔王様を倒したからだ」
「結果として、お前は追放されここへ来た、そしてお前が成し遂げだ偉業は他の者が担う、その担った者に問題があった、この国の皇太子だ」
「えぇ、第一皇子のセドリック殿下、あのお方は皇帝と同じく己の欲に忠実で他者を顧みない性格の持ち主でした、その様な者に貴方様の功績を与える皇帝もどうかしていると思いますが、その功績がいけませんでした、彼の方を担ぐ事でその恩恵を受けようとする貴族たちが動きました、その結果が今の帝国の現状なのです」
「お前達は滅びる帝国からその皇女を救い出してほしいと?」
「はい、ミリアム殿下は心優しいお方です、我々がお願い申しても、最後まで帝都に残った民達を案じてご自身も動きはしないでしょう」
帝国は近いうちに民衆からの暴動によって滅びるだろう…民が去って行っているとは言えまだ人口は数万といる、帝都にいる軍では抑えきれないだろうな
「………態々、皇女を救い出さぬとも簡単な方法があるではないか、皇女が民衆の矢面に立ち皇帝や他の皇子皇女を退かせればいい、その心優しき皇女が貴殿の望む通り帝国を導く事が出来るぞ?」
「…殿下は争いを望まれません、自らの意思と行動で民達が傷つく事は耐えられない、そんな方なのです」
「甘いな、そんな事で理想を語るとは夢見がちな少女の相手をしてやれるほど我々も暇ではない」
「わかっております、ですが!彼の方の理想に心動かされた我々はあのお方を失いたくはないのです!お願い致します!ジン様!身勝手なのは百も承知!何卒!何卒、殿下をお救いして頂けませんか!?このセバス、この老耄の命をかけてお礼はさせていただきます!これはミリアム殿下に忠誠を誓う者達の総意です、何卒!その勇者のお力をお貸しください!」
「……その勇者を捨てたのは貴様らだ、例え、お前や皇女にその意思が無かったとはいえ、コイツにした事を考えれば許せる筈もない!この街にいる者は皆コイツを慕って集まった者達だ、協力は得られるとは思わない事だ」
「わかった、やるよ」
「ジン!?俺が今言った事を聞いていたか!?姫様なんか絶対怒るぞ!?」
「それも、わかってるから内緒にしといてくれ、俺は1人で行く」
「よ、よろしいのですか!?あ、ありがとうございます!」
わかった、わかったから…泣きながら擦り寄ってくるな、爺さんの泣き顔なんて近くで見たくない…
「おい!巫山戯るな!姫様にバレたら俺が危険だろ!?だいたいどうやって秘密にするのだ!お前がいないとなると1日待たずとバレる!」
「………よし、ザクソン、一緒に行こう、幸いこの話は俺とお前しか知らない、セバスさんと今すぐ出発すれば誰にも気付かれずに行ける…筈だ!」
「待て!待て待て待て!今すぐだと!?俺も!お前も!仕事が山程あるんだぞ!ただでさえ人手は足りてないのだ!数日空けてしまったら街の運営が滞るぞ!」
「……なぁ、セバスさん、殿下の配下ってどういった人達なんですか?」
「え?あぁ、財務省や外務省など様々な省の若手達で皆優秀だ」
「よし、すぐに行くぞ」
「よし!人財発掘だ!」
「あ、あの…殿下を最優先に…」
こうして、皇女救出並びに人財確保へ帝都に向かうことになった
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