帝国滅亡

第22話 幼馴染


この地の領主となって、一年の時が過ぎた…

ホント…たった一年でここまでの都市になるなんてな…スキルのおかげで開拓は簡単だし、人も十分過ぎるほど集まった、これは皆のおかげだ


…この街の噂がかなり広まっているらしい、更に帝国では、今貧富の差がかなり激しく貧しい人々は生き残る為に帝都を出てここを目指すそうだ


楽に来れる距離でもない…街道は伸ばし続けて帝国領内の街々と陸路を繋いでいるが正直帝都方面には作りたくはない

時折、人を送っては難民達を保護しているが、追いついていないのが現状である


いずれ腐るとは思っていたがたった一年とはな、民が減っている事に気が付きもしないとは…どこまでも、自分しか見ていない奴らだ…


「領主様!ウチの畑で採れた野菜、持っていっておくれよ!」


……考え事しながら歩いていたら、農地の方まで来ていた様だ、いつ門を潜った?気をつけないとな


「おーう!ありがとう!でも、後で金は支払うよ」


本格的に我が領地では農業を開始して一年、流石は神の加護がある土地だ、初めての収穫ではあり得ない豊作だった、育てる種類は自由にして貰うのだが、流石に季節もあるので、時期にあった物から選んでもらっている


「何言ってるんだい!生意気だね!」


「イタ!ちょっとおばさん…何するのさ」


強烈な平手打ちを背中に喰らわせてくる彼女はマーサさん、両親が亡くなってからはこの人の世話になった、幼馴染の母だ


「まさか、あんたが勇者様で、領主様になってるとはね、あの事件から中央に連れて行かれてそれっきりで心配したんだよ!」


「だから、痛いって!あと、何度目だよ…その話、心配かけてごめん、あと村の皆がこの街に来てくれて嬉しいよ」


ある程度、この街が形になってきた頃、帝国の動きを警戒して、俺の故郷の人々をこの街へ移住させた

どう説得しようかと思ったのだが、俺が村を離れてからの事を話すと、全員がキレた…


そして、喜んで移住を開始、限界まで村の財産を運び込むと、村長が…


「ジンを、我らが家族を長年酷使し、挙句、ジンが成した偉業すら奪う皇室に最早、捧げる忠誠はない!我等が財産を渡すのも憚られる!」


と言ったので爆破した…それはもう綺麗さっぱり更地とした

今まで住んでいた村を更地にするのには抵抗があったが、せっかく村の皆が切り拓いた土地を奴等に渡すのも癪だったので…一応村の跡地には神水を撒いておいた、暫くすれば森が蘇るだろう


移住後は長年引き継いで来た農家としての知識を活かして、この街の農業の一部を担っている、バエソンの話ではお互いに知識を交換し合えるいい関係だと言っていた


「あー!!ジン、来るなら私の所にも来てよぉー!!」


と大きな声を上げ、こちらに向かって走ってくる少女がいる、彼女はミリー、歳は俺と同じで物心つく頃から一緒に育った幼馴染だ


彼女は一言で言えば元気娘だ、いつも明るくて笑顔が絶えない、それだけではないが強い子だと思う、マーサさんと同じでブラウンの髪と瞳をしている


ガバッと俺に飛び付いてくるミリーを俺は受け止めた…着地なんか考えてないんだろうなぁ…勢いつけ過ぎだろ


「…ぐっ!コラ、ミリー…危ないから飛び付いてくるのはやめろって言ったろ?」


「えへへ、だってジンを見つけたら嬉しくなっちゃって!それにジンなら私を軽々持てるでしょ?勇者様♪」


そりゃ鍛えているからそうだが、危険な事には変わりない、みんなが皆俺の様に鍛えている訳ではないのだから


「そうだとしてもだ、危ないからやるなら人は選べよ?その人もお前も怪我するぞ」


「ぶー……」(ジンにしかしないに決まってるじゃん!鈍ちん!)


「ん?なんか言ったか?」


「なんでもないよ!プンプン!」


怒ってるやん……今はこうして昔の様にしているが、彼女と再会した時には大いに泣かれてしまった…


移住の話をする為に十数年振りに故郷へ帰った俺を、皆は暖かく迎えてくれた、涙を流して再会を喜んでくれた人も沢山いて、ミリーなんかは俺にしがみついて泣きじゃくっていた


「バガ〜ずっど…えぐっ…ずっと、待っでだんだがら〜う"わ〜ん!!!!ジン〜〜」


あの時はあやすのが大変だった…ん?


(全く…漸く再会出来たと思ったらあんな美人な人と暮らしてるなんて…しかも、魔族!…まぁあの人がいい人なのはもうわかってるけど、それにあの自分の事を龍だって言ってるあの子とも仲良さそうにしてるし…でもでも、ジンったらメチャクチャかっこよくなってるし、それは最早致し方ないっていうか、それでも長年一緒に過ごしてきた私の地位も強みがあるし、いやいや、でも油断は出来ない、あのシオンって人は魔族だけどなんだか気品があるし、お姫様みたいな上品さがある、何よりもあの大きさ……)


な、なんだ!?ミリーから何やら圧が出ている…


「な、なぁ…ミリー?何をブツブツ言ったんだ?」


「爆ぜろ…」


「え?」


「え?…あ!う、ううん!何でもないよ!所でジンはこんな所で何してたの?何か用?いつもは執務室に篭って書類と戦ってる時間じゃない?」


何を慌てているんだ?この子は…


「いやまぁ、最近はずっと座りっぱなしだったし、ちょうどひと段落したから散歩でもって思ってな、けど、結局は考え事してしまって気づいたらここにいた訳」


「何それ?危ないよ?」


「ごもっともだな…ん?」


ふと、空を見上げると誰か飛んで来た


「どうしたの?空なんか見て……あ、むぅ…」


ふわりと飛んで来たのはシオンだ


「もう、こんな所に居た…探したわよ……あら?ミリーじゃないの、こんにちは」


「どうも、シオンさん…ごめんね!ジンの事捕まえちゃってて」


急に腕を抱いてくるなよ…ちょっと、シオンさん?何故君まで?


「え?何も捕まってないが…それより2人共一体…イタタタ!!」


何故、2人して足を踏む…?グリグリするな〜!!


「あら?構わないわよ?少しくらい貸すのは、それくらいの度量はあるし、何ならもう少し貸して差し上げましょうか?」


腕を組んで胸を強調しながら笑うシオン…目がひくひくしてる…

対してミリーも笑顔だけど口先がひくひくしてる


「相変わらず仲良いな、お前ら」


「アンタも相変わらずだねぇ…ホント、そういう所は両親にそっくり、あいつらも夫婦揃って大概鈍かったからね、あの2人を結婚させるのには私らも苦労したもんさ…」


な、なんだか、おばさんが遠い目をしている…


「ふ、ふっふーん、別に私だって超余裕ですけど?いつでも私の物に出来るんだし?」


「あはは、おかしな事を言うのね?既に人の物を自分の物に出来ると思っているの?弁えるべきじゃないからしら?」


「はいはい、いつまでも戯れあってないで、2人とも」


「「誰のせいだと思ってるの!?ジンは黙ってて!!!」」


な、何だよ……


『マスターは一度馬に蹴られればいいと思います』


なんでぇ?…

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