第21話 醜


煌びやかな灯りを灯す繁華街、そこ行く人々は皆笑顔だ、商談が上手くいった商人、高ランクの依頼を達成した冒険者、賭博が乗った者、結婚を控える男女、金、酒、女を手に街を練り歩く貴族、人々の笑顔は絶えない


これらは全て、皇室のおかげ…引いては平和をもたらした勇者の功績


勇者パーティが魔王を討伐し、世界に平和が訪れた、帝国はこの功績で諸外国よりも発言力を増し、様々な政策を実行、その結果国の利益は莫大な物となった


しかし、光が強くなるとより深くなるのは影、それはこの世の理とも言える


同じ帝都…そこ行く人々はマトモな服すら着ておらず、全ての者が痩せ細っている、薄暗く汚れた場所にはフラフラと彷徨う人、道端に倒れて動かない子供…ここは貧民街


国が得た利益は、万民に渡ることはなく、より力を持つものが搾取する


貧富の差はより広がる、それは誰にでも手を伸ばす


ある商人は信頼していた取引相手に嵌められ借金を背負わされる、家族は彼を見捨て、全てを失った


ある文官の父は身に覚えのない罪で斬首、母も貴族に連れて行かれ、幼い少女は1人きりになる


婚約者を持つ女性は貴族に見そめられ、愛した男を殺された…その後、貴族の玩具となり、絶望する


理不尽は弱い者に降りかかる、誰も助けはしない


優秀で人格ある人物はこの国では居なくなる、無能で外道な者ほどこの国ではその魔の手を広げる


ある者は願う、神に…帰ってくるのは沈黙


ある者は助けを乞う、勇者に…帰ってくるのは暴力


勇者はこの国の皇太子、彼もまた理不尽な不幸を撒き散らす悪である


気に入らない事があると暴力を振い、むしゃくしゃしたと言って人を殺す、気に入った女が居れば本人の意思を無視して弄ぶ…


帝国の民は気付いている、彼が勇者ではないと、しかし、誰も声には出さない…出せないのだ、何故なら彼は皇子だから


帝都では頻繁に人が死ぬ、飢餓、病、殺人、自殺…最も多いのは殺人である、殺された人々の大半は罪のない理不尽に殺された者達であった


帝国民は人知れず数を減らしている、殺される事を恐れて国を捨てるのだ


噂を聞いた、帝国の端には楽園があると…そこでは皆が自由に暮らしていると


魔王を討伐してから半年ほど…たった半年である、にも関わらず国民の4割が消えている、更にそれは止まる事がない


しかし、皇帝を始めその事実に気づく者はいない、己の欲望を満たす事で他に気が回らないからである、上司に進言した者は次の日には帝都からは消えている


帝国の滅亡は近い…が


そんな中にも希望の種はある、皇室の末端である、1人の少女が…


「ジン様…」


              第一章  完

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