第20話 自由都市


咲が改めて街の住民になり、半年くらいの時間が過ぎた、初めは警戒されていたけど、彼女の人柄は元は明るく素直な為、皆にはすぐに受け入れられた、クレアとバエソンにはキチンと謝ってたし、2人も許したが


「私は別に構わないけど〜でも、ちゃんと手綱は握っておいてね〜」


「事情は理解しました、貴方の意思でないことも、しかし、周囲に危険が及ぶならば貴方は今後の身の振り方を考えなくてはなりません、それを肝に銘じてください」


更に他の者からも


「いいのか?爆弾を抱える様なものだぞ?制御できない力ほど危険なものはない、後悔しない様にするのだな」


「正直、彼女の事を目撃した人々からはいい感情は向けられないでしょうね、ここで暮らすならそれと向き合う覚悟と貴方自身と向き合う必要があるわ」


「私はここを気に入っておるのだ、ムカつく奴はいるがな…ここを壊すというなら容赦はせん、覚えておけ」


中々にキツイことを言われていた、へこたれると思いきや


「バエソンさん!心を落ち着かせる方法を教えてください!」


「セイさん!私のスキルについて何かわかりませんか!?」


なんとか自身のスキルと向き合おうとしているようだ


それからはひたすらに街の整理だ、住民たちの残ったパスの発行、要望を聞いて住居の改築、商店の申請の精査、研究所の研究内容の審査、街道建設の計画、流通、公益の取引、種族間の蟠りの解決、やる事は満載だ


この街の重役として、魔族のザクソン、クレア、エルフのバエソンともう1人彼の息子のタミック、更に人間から、咲と難民の中からエドワードという青年が抜擢、獣人からは月熊族の長のナルムと九尾族のツクヨが選ばれた


それぞれの種族の代表を決めて監督してもらうことにする


そして、商業組合を設立、代表はなんとシオンだ、この街の流通、公益、商人達の取り締まりを担う、補佐にルーを付けた、普段は本能で行動する彼女だが、知識は豊富だ、まだ研修中ではあるが2人なら問題ないだろう


技術、研究の責任者にはセイを抜擢、人間やドワーフ、エルフの職人達も彼女の才能を認めた上で納得してもらった

しかし、基本は研究一筋な為、セイの監督をザクソンに任せた…頼んだぞ!ザクソン!


街の治安維持の為に、衛兵を募集した所、結構な数の希望者がいた、なので俺が自ら選抜して凡そ100名程の衛兵隊を結成…少ない?試験をキツくしすぎたか…


その指揮を取るのは、なんと龍人族のアグニだ

彼は流浪の身だったのだが、多種族の街の噂を聞きつけてやって来た、そして、この街を気に入ってくれたので、住居を与えて街の一員になったのだ、流石は龍の血を引く一族、その強さは一目置けるものがある、なので衛兵隊を任せることにした、彼の人柄…いや、龍柄も住民からは好評があったからね


俺の故郷の人々は3ヶ月くらい前からこの街で暮らしている、元が農村だった為かバエソン達と共に畑仕事をやっている、他の仕事も沢山あったのだが慣れ親しんだ事の方がいいと言っていた、相変わらず自分に正直で自由な人達だ


そして俺は今、街から上がってくる書類の処理をしている…領主の仕事なんて、街を作り終えたら、書類を見て認否を判断するだけだからな…偶に問題が生じるのだが、皆、優秀だから俺が行く必要もないし、ここ1週間はずっと書類と睨めっこだ


かと言って、これも大事な仕事…一枚一枚しっかりと読んで判を押す…


何々…新しい店の出店要請…内容は、仕立て屋か……うん、不備はないな、許可っと、次は…


これは…居酒屋か…もう何軒目だ?こんなには要らないだろう…しかし、頭ごなしに否定もできない、この街ではルールに反しない限り自由に商売ができるのだから…人を送って聞いてみるか


なんだこれ?…おもちゃ屋か?へぇ、子供を連れた家族も多いしいいんじゃないか、許可っと


研究所から…なんだ?この用途がよくわからない研究内容は…ダメ…却下


お、通信装置の量産計画書だ…………納期がこんなに短くて大丈夫なのか?もう少し余裕を持ってやるべきだと思うが…今度セイに聞いておくか


アグニから…逮捕者のリスト…これだけ人が居ればルールを守らない者も出てくる、衛兵隊の設立は間違ってはいなかったな…しかし、多いな…対策を練らないと


バエソンからだ…彼には食糧事情を任せている、畑や作物の報告書だ……うん、上手くいっているようだ、もう半年もすれば収穫が出来るそうだ


これは、シオンからだ…新たな取引か…帝国西部にある街の商会とのものだ…これは、任せても良さそうだな、認可っと


コンコンコン


「ん?はい、どうぞ〜」


ノックが聞こえたので入室を許可する、入って来たのはシオンだ


「シオン、ちょうど君の申請書を読んでいた所だ」


「そうだったの、どうかしら?結構、利益が見込めると思うのだけど…」


今じゃやり手の商人だな、箱入りだったお姫様がな…まさかこんな才能があるとはね


「あぁ、問題ないだろ、ルーと行くのか?」


「いえ、今回はこの街に来るみたい……ねぇ、ジン、帝国に動きはあった?」


「いや、今の所こっちに手を出してくる気配はないな…ザクソンが連れて来た、影達もそういった動きは見られないと報告が来ている」


影とはそのまま意味で、影に潜むことのできる能力を持った魔族達である、種族名もまんま影人族、見た目は普通の人間…にしては肌は白いし、目も真っ赤だ、彼等は影の中を移動できるようなので情報収集を任せている、帝国の動きは随時入ってくるので見逃さない


「変ね…私達はこの半年かなり大規模に動いたわ、交易や住民の移動もそうだし、何よりこの地に加護が降りたことも気が付いてないとは思えないけど…」


「確かにな…だが報告ではこちらは全く見向きもされていないようだ…何かこちらに目が行かないほどのことがあるのか、興味がないのかはまだわからないがな…なんにせよ、今のうちに打てるだけの手は打っておくのがいいだろう、帝国がどのように動いても対処できるようにな」


「そうね、その為にも私は財源を増やす事にするわ、あ、それとね、私達重要な事を忘れているのよ、どうして誰も気が付かなかったんだろう…?」


「何が?」


「名前よ!な・ま・え!!この街の名前がないのよ!」


「あぁ…そう言えばそうだな」


忙しくてそんな事考える暇もなかった…名前か…いる…よな?


「名前かぁ〜どうするかな…」


「シンプルにカルバードにする?」


「流石に領地名と同じじゃなぁ…」


この街を作ったのは帝国から逃れる為と魔族が他の種族と手を取り合う為…この街の人々には自由な心で居てもらいたい…自由…


「フリーダム…」


「え?」


「フリーダム、自由の街ってのはどうだ?」


「ふふ、いいんじゃない?貴方らしくて」


「決まりだな、この街の名前は【フリーダム】だ!」

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