第16話 受け入れに向けて


バエソンからの打診は彼の故郷のエルフを全てこの町に受け入れて欲しいというものだった

こちらとしては住民が増えるのはありがたい、けど、エルフ達は大丈夫なのだろうか?

元々は森の中で暮らしていた彼等がいきなり町で生活出来るのか?


というかいきなり住民が増えすぎだろ…魔族にエルフ、それも数百人…家ももっと増やさないとな


「聞けば勇者殿は住まいを自由に作ってくださるという、我々は大木の上に家を建てておりましたが、そういったものも可能なのでしょうか?」


ツリーハウスみたいなものか?…でも、この町に大木なんてないぞ…


『マスター、町の南部に該当する大木が数十本あります、町をそこまで拡張しては如何でしょう?』


あるんだ…なら、大丈夫か…住民が住む前に拡張しないといけなくなったな


「町の南部にそれらしい木があるはずだ、確認してもらって大丈夫そうならそこに決めよう」


「おお、ありがとうございます」


「おいジン、エルフ達を既に受け入れるかの様な物言いだな?いいのか?」


ザクソンがそんな事を言ってくる、確かに完全には信用しきれないと言えるが…


「ここで拒絶して彼等が奴隷となっている事を後から知ったら俺は後悔すると思う、だから、今できる事があるならやっておきたいんだ」


「勇者殿…感謝する」


立ち上がって頭を下げるバエソンにザクソンも諦めたかの様に


「はぁ、この町はお前が長だ、お前の決めた事なら受け入れよう…だが、警戒はさせてもらう、いいな?」


「あぁ、ありがとうな、ザクソン…バエソン、難民の方はどうするんだ?その難民はそもそも人間か?それとも皆エルフなのか?」


「いえ、先程の話と難民達は無関係です…難民達は殆どが人間です、あとは獣人が少しおりましたな、勇者殿とお会いするためとは言え、彼等と共に数日間行動したのも事実、今更捨ておけはしません、どうか彼等も受け入れていただきたい」


「元々、彼等を受け入れるつもりだったからな、勿論いいんだが…そうすると何名だ?」


「そうですな…難民は凡そ600人、エルフは凡そ100人程です」


総数、700人か…うん、全然家も土地も足りない…最早町規模では追いつかない、街まで広げなくては、拡張をして、転移門の設置、難民、エルフの受け入れ、それが終わったら皆の生活基盤を作らないと、ここまで多くなると通貨も必要だ、故郷の皆の事もある、やる事が山積みだ…とてもじゃないが、俺1人じゃ捌けないぞ


『御安心をマスター、私がサポート致します、マスターと私が本気になれば街の拡張と転移門の設置は1日で終わります』


おお!流石は頼れる相棒だな!


『但し、マスターの魔力消費がかなりの負担になる事が予測されますが、宜しいですか?』


この際、仕方ないだろう、街と転移門は急務だ、早速始めよう!


『了解しました、マスター、ザクソンに必要な物資の手配を頼んでください、主に魔鉱石が不足します』


わかった!


「皆、いきなり住民がかなり増えるがまずは街を大きくする、今の状態では全て受け入れられないからな、とりあえず今日には街の拡張と転移門の設置は終わらせる、ザクソン、魔鉱石を大量に仕入れてくれないか?今まで狩った魔石を売れば何とか足りるはずだ、ホロとシャミはザクソンを手伝ってくれ、セイとバエソンは今いる者達で蟠りなく街で過ごせる様に擦り合わせをしておいてくれ、皆頼むぞ」


こうしてそれぞれが行動を開始した


メティスにマップを見せてもらいながら街の構造を考える…

上から見ると円を描く様に幾つかの区画を作るか…エルフ達がいるなら緑は多い方がいいだろう、商業区、産業区、住宅区、娯楽施設も欲しいな、流通が増えると訪れる商人や旅人なんかも増えるだろうから宿泊区も必要か…


とりあえずは住宅区からだな、他は人がいないと機能しないし、後から意見や要望を聞いて作ろう


ここまで大きいと幾つかのルールが必要だな、帝国法は使うつもりはない、あんなのは貴族の都合によってコロコロ変わるからな


ある程度は自由にしてもらって、殺人、傷害、窃盗、差別…今はこんな所かな、細かくし過ぎても機能しないだろ


メティス配置はどうだ?


『問題ありません、それぞれの区画整理は終了しました、いつでも実行可能です』


よし、ならやるぞ………うっ!かなりの魔力が減っている…こ、これはキツイな…


『マスター、完了しました』


これで住民の受け入れが出来る、次は転移門だな


門は町の中心に置くか、転移門は門に登録されたパスが必要になるこれが無いと門はただのオブジェだ、住民にはこれを自身の証明書として扱ってもらう、正門からの出入りにもパスを検査して貰うつもりだ、既にセイには頼んである


「さて、シオンが転移門のデザインを考えるって言っていたが…もう、出来てるかな?」


街の中心の広場に行くとシオン、ルーセルス、ザクソン、クレアが待っていた


「お疲れ様、あっという間に街になったわね、すごいわ」


「本当に規格外だな、お前は…ここまでの規模を一瞬で創り出すとは…」


「まぁ、神のスキルだからな、これくらいなら出来てもらわないと、それで、シオン、デザインは出来たか?」


「ええ!ザクソンが何度もやり直させるから大変だったわ!でも遂に完成したのよ!」


「どれどれ………うん、いいじゃないか、これでいこう」


シオンが描いたデザインの通りに門創造する、ここはもう一つの玄関口になるから見栄えのいい物を頼んだ


「よし、ザクソン、セイに問題ないか確認をする様に頼んでくれ」


設置を終えたので専門家に確認を取ってもらおう


『私が調整したので問題など皆無ですが?』


そりゃ俺は信じてるけど、他の皆はそうはいかないだろ?だったら信用してもらうためにも必要なんだ


『…………承知しました』


これで門の調整が終わればいよいよ受け入れだな


「ねぇ、ジン、大丈夫なの?いきなり数百人を受け入れて、しかも種族がバラバラよ?問題しか起きなさそうだけど…」


シオンの心配も尤もだ、けどそれについても考えはある


「バエソンとザクソンに頼んで何名かのまとめ役を挙げてもらった、彼等にそれぞれの地区の管理を任せようと思う、最初は衝突もあるだろうから、戦闘能力が高い者を付けるつもりだ、力で解決はなるべくしたくはないが、ないよりマシだろう」


「こちらも種族間を気にしない者を選んだので差別的な事はしないだろう、真面目な奴なので取締役にはもってこいだ」


「ということだ、さ!いよいよ受け入れだぞ、皆まだまだやる事はあるんだ、しっかり頼む!」


「「「「「おーーーー!!!!!!」」」」」

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