第12話 芽生えと宴


『マスター、シオン達が帰投しました』


もうそんな時間か…悩んでいたら時間はすぐに経っていた、シオンにも相談しよう


「じゃあ、出迎えますか」


シオン達を出迎えに家を出る、町の入り口である門へと向かう、歩いていると改めてあの小さな村からよく出来たなと思う、スキルに頼りきりではあるが、現状ただのハリボテではある…結局は住む人がいなければ家も存在価値がない…仮に在住してくれても、その人が満足のいく一生をここで過ごして貰えないなら…そう考えてしまうと自信がない…


「俺だけで考えてちゃいけないな…」


暫く歩いていると門が見えた、少し開いているので既にシオン達が帰ってきたのだろう

何人か人もいる、どうやら難民を引き連れてきたようだ

近づくとシオンの姿が見えた、手を振って声を掛けようとすると、知らない男がシオンに近寄った、彼女の手を取り手の甲にキスをする、その場面を見た瞬間、胸の奥がモヤッとした

不思議な感覚に頭を傾げていると、その男がシオンの腰に手を回そうとして


「触るな…」


一瞬でシオンの元に移動して、男の手を掴みもう片方の腕で彼女を抱き寄せる

そして、自分でも疑う程低く冷たい声が出た

あれ?なんで俺、こんな事してんだ?


「……え?ジン?」(あ、私…もう死んでも良いかも)


顔を真っ赤にして、頭から湯気をだし、満足そうな顔をして昇天しているシオンに気づかずにジンは男を睨む


「な、なんだ!お前は!」


喚く男をよく見ると何やら豪勢な服を見に纏っている、イケメンだ、潰そうかな


「この町の責任者だ…君達をここまで連れてきてもらうまでが彼女達の仕事だ、ここからは俺が対応する」


男を睨みながら、そう言い放つと周りの数人が素早く動いた、が…


「もう〜姫に会いに来たのに随分と物騒ねぇ〜遊びたいならお姉さんと遊びましょ〜」


「ふん、姫様の前での狼藉は許さん…あぁ、安心しろ傷ひとつなく制圧してやろう」


いきなり現れた七大罪の怠惰と強欲に絡め取られてしまった


「な、なんだ!?」


「う、動けない…」


「い、息が…」


あっという間に数名を無力化する二人に男が指を刺して喚く、それもそのはず本来ならこの2人は魔王軍の幹部だ、それこそ英雄級の強さがなくては立ち向かうことすら出来ないほどの強者、動きを封じられた数名は実際に何かをされているわけではない、2人が放つ途轍もないプレッシャーに恐怖で動けないのだ


「な、なんなんだよ!お前ら!俺の邪魔をするな!俺は王子だそ!こんな事してどうなるかわかっているのか!?」


王子?さっきから腕の中で一言も喋らないシオンに視線を移すと


「……………………」スッ


目を逸らされた…コイツ、何を連れてきたんだ!?というか本当に王子か?どの国の?


『マスター、鑑定スキルの使用を提案』


鑑定スキル?そんなの持ってないぞ?


『神からの創造スキルの中に組み込まれていますので使用は可能です」


…なんだよスキルの中って…そう言えば堕女神に会った時にそんな事を言っていたような?でも、創造の中に鑑定って統一感は!?ないじゃん!


いや、今はそんな事どうでも良いか、よし鑑定!


うわぁ…名前、年齢、体重、身長、スキル、色々見える…本当に王子じゃん!なんでここにいるの!?しかも帝国の隣で戦争してる国だ!

面倒な予感しかない…


「あー二人とも引いてくれ、大丈夫だから」


「はーい」「む?そうか」


「ちょっと!なんでアンタ達がここにいるのよ!」


「ヤッホー姫、よかったね〜」


「ふふ、取り繕えていないぞ姫様!」


「にゃ!にゃにいってるのよ!」


騒がしいな、もう少し静かにして…さて


「とりあえずはそれぞれ家に案内します、家の設備については後程説明するのでまずは休んでください、シャミ後は任せる」


シオンを離してシャミに指示を出す、彼女とギースとアーコが町を案内する手筈だ、3人とも誰に対しても物怖じせずに役目を果たせるだろう


「おい!無視するな!」


「うるさいなぁ…なんだよ」


まだ絡んでくる鬱陶しい王子に俺は呆れつつ、返事をする


「お前!俺が誰だか「知らないし、興味ない」べふ!…」


「さっさと連れて行ってね?」


面倒になったので掌底で意識を狩り、連れに運ばせた、コイツの相手をするよりコイツを連れてきた者に話をせねば


「さて、シオン、ルーセルス話をしようか」


「わかってるわ、ちゃんと話すわよ…」


「な、なんだ!?また説教か!?私は何もしないぞ!イダダダダダ!!」


ルーセルスが即座に逃げようとするので後ろからアイアンクローで捕獲、取り敢えずザクソンとクレアもいるから皆で、俺の家に向かった


「え!?姫ってばジン君と一緒に住んでるの!?」


「そ、そうよ!悪いの!?」


(ちょっと!私は全然進展しない事を揶揄うつもりだったのに、何いきなり同棲始めてるのよ!ど、どこまでした?…もうヤッタ?)


(なななななななんてこと聞くのよ!?まだよ!まだ!ただ一緒に住んでいるだけよ…普通は男と女が同じ屋根の下で何もないはずないのに…ここに来てから結構忙しくて、ジンも町の建設やらであまり帰ってこないし、私も食糧調達とか、ここの人達の手伝いなんかをしてるからそんな暇なかったのよ!)


少し離れた所でシオンとクレアが話している、会話の内容は聞こえないが、久しぶりの再会で話が弾んでいるのだろう、するとザクソンがすすっと近づいて


「ほう、意外にも姫様はちゃんと働いていたのだな、関心関心」


「ザクソン?乙女の会話に入ってこないで?失せなさい?」


「む?そ、そうか…すまんな」


なんだ?クレアに何か言われたのか顔を青くして戻ってきた


「どうした?顔色悪いぞ?何か怒らせたのか?」


「まぁ、そのようなものだ…」(あんなに恐ろしいクレアは久しく見ていないぞ)


「おい、人間、腹が減ったぞ」


コイツはマイペースだな…でも確かに夕食時だ、今日は客もいるからな…何作ろうか


「ん?食事か?ああ、そうだジン、これを渡しておこう」


ザクソンが小瓶を数個渡してきた、なんだ?中には黒っぽい液体とか透明な液体が入っている、こっちは粉?みたいなものが…!!


「ま、まさか…これって!」


「ふふ、以前、お前が教えてくれた調味料だ、最近、やっとのことで完成した!量産計画も進めているから定期的に各地に販売していく予定だ!そうそう、ある程度の食材も持ってきてあるぞ」


この世界にも日本と全く同じではないが似たような物はある、調味料も原材料は異なるがある程度は同じだ、記憶が戻ってから分かったことだが


「おお!!すげぇな!これで料理の幅が広がる!今夜は期待してくれ!」


これだけあれば味噌汁や生姜焼きなんかも作れる!日本の味だ!


「ふふ、お前の飯は美味かったからな、楽しみだ」


そうして、貰った調味料を駆使して豪華な料理を作った、皆には大絶賛だった…この日の食事は大いに盛り上がったのだ…


あ、話聞くの忘れた…

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