第9話 シャミと申します
「はぁ…」
私の名前はシャミと言います
この名もない村の娘です、実は獣人です、耳や尻尾は隠しています、親はいません、小さい頃に魔物に殺されたと聞いています、ここではよくある事です
身寄りが無くなった私をこの村のまとめ役であるホロ爺が面倒を見てくれました
この土地では自分の食べ物すら手に入れる事が困難です、1日に食事にありつけるかどうかという程です
それでも、ホロ爺は決して多くはない食糧を手に入れて私に恵んでくれました、帰る前に食べたと言ってはいましたが、自分の分まで私に回しているのはすぐに気づきました
ホロ爺には恩があります、だから成長した私は今度はホロ爺の為に食糧を探してなんとか食い繋いでいました
そんなギリギリの生活の中、突然、人間が訪ねてきました、こんな何もない村に人が訪ねてくることすら驚きなのにこの人はこの土地の領主を名乗りました
最初は警戒しました、嘘をついて村人を攫っていく人攫いもザラにいるからです、けれどその警戒心はすぐに消え去りました
この人は悪い人じゃない、何故かはわかりませんが、そう感じました、目が優しいからかな?
ホロ爺もやってきてこの村の現状を説明すると考え込んでしまいました…随分と真剣に悩んでおります
今日初めてやってきて、初めて会った私達の事をこんなにも真剣に考えてくださるこの方に私はとても興味を惹かれました
けれど、流石にすぐにはこの村の改善は出来ないようで、一先ず空き家へと案内をしてそこで寝泊まりをしてもらうことにしました、村の住人と話し合って今後の事を考えるそうです
領主なのに、我々の声に耳を傾けてくださるようなのです、領主という事は貴族様であるはず、私の貴族のイメージは私達の事など気にもしない、自分達がどれだけ贅沢をするかを常に考えている人達だと思っていましたが、それは思い違いなのでしょうか…
次の日、私は、いえ、私だけではありません、ホロ爺も他の村人達も朝目が覚めると驚愕することになりました
なんと、一面荒野だったこの土地に、突如として草木が生い茂り、枯れかけていた川からは水が溢れて流れているではありませんか、まるで大地が蘇ったような光景です
私は急いで領主様の元へ走りました、家の扉を叩いてあの方を呼びますが、まだ寝ているようです、私は叫び続けるとようやく起きてくださいました
そして、外に出てこられると我々と同じ反応をしています、驚きで空いた口が塞がらないようですね、面白いです
それから、何やら思い当たる事があるようで、村人を全員だ集めるよう、言われたのでその通りにしました
指示に従い皆を集めました、すると領主様はなんと勇者様だったのです、そして世界を救った褒美として勇者様が治めることになったこの土地に神のご加護が宿りこのようになったと仰いました
更に、ここへ来ることになった経緯もお話になったのですが、なんという事でしょう、帝都の皇族や貴族は世界を救いし勇者様にあってはならない対応をしているではありませんか、勇者様の功績を奪い、挙句追放など…人の所業ではありません!
勇者様はそんな人々に愛想をつかせ、これ幸いにとこの土地へとやってきたそうなのです、そしてこの土地は蘇った故に帝国に狙われる事になる事を防ぎたいと仰いました
それを防ぐにはこの村を大きくして帝都に対抗できるほどの都市にする必要があると仰せです、それに協力して欲しいと頭を下げて頼まれました、我々はそれを快諾し、勇者様の力になると決めました
すると、勇者様は神から与えられた力があると言い、手をかざすと突然家が現れたではありませんか!それも見た事ないような形のものです!中を見せていただきましたが、私では理解しようのない造形をしており、取手を捻るだけで水が出ます!調理場はよくわからない物が沢山!お風呂まであるではありませんか!お風呂など貴族の屋敷にしかないと聞いた事があります!そんな豪邸とも言える物を一瞬で…凄いです!
領主様…いえ、ジン様は元々は農民の出らしく、敬ったり畏まったりされると困ると仰いました、貴族ではなかったのですね…友人のように普通に接して欲しいとお願いされましたが、勇者様である事に変わりはなく、私達なりに敬意と親しみを込めてジン様と名前で呼ぶ事にしました
それから、村人全員の家をあっという間に創り出してしまいました…ですが、この家の機能を全て利用するには魔鉱石が必要だそうです、それを採取する為に魔王領へ赴くと、魔王領など、恐ろしい魔物が多く棲息しており、とても危険です、しかし、勇者様はなんて事ないように行ってくると軽く仰いました…カッコいいです!
ですが、その前に我々の食糧を調達してくれるそうなのです、その獲物を狩にあっという間に走って行ってしまいました、私達の安全を考え、村を分厚い塀で囲んだ後で…私達のために…ありがとうございます!
それ程時間もかからず、お戻りなられたのですが、お連れがいるようでよく見ると頭に角があり、魔族とわかりました
私を魔族は恐ろしい存在だと思っており、初めは怯えてしまいましたが、ジン様とのやり取りを見て、更にはホロ爺が全く気にせずに接していたので…いえ、あれは美人に鼻の下を伸ばしているだけですね、スケベ爺です…
どうやらこの魔族さん…シオン様はジン様に好意があるようです、勿論異性として、それはもう一目でわかりましたとも!私も女ですから…ですが、ジン様は気づいてらっしゃらない…意外と鈍感なようです
シオン様がジン様と共に暮らすと言い出した時に胸の奥がチクっとした気がしましたが気のせいです
シオン様も村の発展に協力していただけるようで、交易の手段を手に入れる為にお二人で魔王領へと行ってしまいました、きっと先日のようにすぐに帰ってこられると思い、皆で村の整備を続けていると、その日の夕暮れにお帰りになりました…しかし、その方法が我々の度肝を抜いてしまったのです
ジン様…ドラゴンを連れてくるなんて聞いてませんよぉーー!!
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