第37話 お祭りの焼きそば
今日は、暖簾の外にいる。
魔王城前の広場だ。
空に禍々しい7つの月が浮かんで、タクシードラゴンとイビルドラゴンで駐ドラゴン場が渋滞している。ワイバーンも多く、『ここは駐ワイバーン場ではありません』という魔王城城壁のちょうどいい凹みの表示を見て右往左往していた。
ウィル・オ・提灯が並んで、人が多くて。
異世界でも、お祭りはとても混むのだな、と思った。
「お、いたいた。たいしょー!」
「へい」
暖簾……屋台の瘴気防止魔法ビニルカーテンをくぐる、幼女魔王。
かっちりしたゴスロリである。
「しゅってん、ありがとね」
「へい」
挨拶周りらしい。
が。
既に、そのまがりくねった角には呪われたお面が貼られ、片手にはビールと邪聖水風船がびよんびよんしている。
楽しんでいるようで、なによりだ。
「いつものが出せませんが、すいやせん」
「んにゃんにゃ。おまつりびーるはね、こういうので、いいのさ」
屋台で出される、クリスタルプラスチックコップのビールを掲げる、幼女魔王。
表面がぎざぎざして、結露がつめたそうだった。
たしかに、良い。
「おきゃくさんのいり、どーお?」
「へい。上々です」
「めでたい」
天空都市陥落を祝うお祭りは、大盛況だった。
いくつか出店も出ている。
「いそがしいとこ、ごめんねぇ」
「魔王様のお誘いですから」
「たすかる」
先日出された宴会の予約は、これであった。
魔王城としての公共事業であるため、ああして休みの日に、時間をとって話にきたのである。
ので。
今日は居酒屋ではなく、出店の大将が、俺であった。
「んじゃ、ひとつ。ちょーらい!」
「へい」
店でカットしてきた野菜と、生めんと、特製ソースを、がつがつと鉄板の上でがつがつする。
「じゃっじゃっじゃっ!」
じゃっじゃっじゃっ……と、いうことで。
「へいおまち」
「わぁい!」
焼きそばである。
異世界で野菜が安いので、地球の縁日に出るような具の少ないものではない。あれも嫌いではないが、魔界の人間は「けちー!」と思った相手には絶命魔法をかけてくることもあるため、全力を出した。
具体的には、牛ホルモンが入っている。
牛ホルモン野菜ごろごろ焼きそばである。重い。自分では食いたくないと思った。
「ふぉっふぉー! ごうか!!」
「800イビルドルです」
「…………ぶっか、あがったねぇ」
物価は上がっている。悲しい。
「へい。好景気の証です」
「それもそう。くらえーっ!」
「へい。たしかに」
千イビルドル札を受け取り、百イビルドル玉を2個返し、一緒に、パックを開いたまま、ドカ盛りにして、幼女魔王に渡す。
「? しめてくんないのー?」
「へい。おてもとをごらんください」
鉄板の前をみる、幼女魔王。
「……あげだまと、あおのりと、べにしょうがと、マヨがあります」
「お好きなだけどうぞ」
「……」
俺を見る、幼女魔王。
「…………好景気って、いいね」
好景気は、良いものである。
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