第36話 ポテトチップス

 午後3時。

 まだ暖簾をかけていない店の玄関から、魔界の日差しが入って来る。

 魔王城の地下なので日光は普通入らないのだが、俺は日光がないと困る人間なので、ちょっと時空を弄って入るようにしていた。


 良い天気。

 明るい玄関が、ガラガラと開けられた。


「たいしょー、やってる~?」


 まだ店は開いていないが、幼女魔王は来た。


 クールビズの、幼女魔王。

 マントは無く、ゴスロリも半袖で、ミニスカである。

 ツインドリルも熱くないようにするためか、間隔が広がっている。

 昼休憩の魔界サラリーマン、といった風体だ。


「やってませんが、何かありましたか」

「ごそーだん。おじかんよろし?」

「へい」


 なにか相談らしい。

 魔王城内会関係の何かだろうか。魔王城の一部というテナントを借りている身としては、断れない。

 俺はカウンター上の3時のおやつを片付けることにした。


「……? なぁに、それ」

「へい?」

「ちゃいろ」


 幼女魔王は、きらきらした目を、カウンター上に向けていた。

 まだ片付ける前のおやつである。


「ポテチです」

「ぽて」

「ポテトチップスです」


 正式名称は、魔界ポテトチップスである。

 芋を薄くスライスしたものを揚げ、塩を振ったりコンソメ風味の塩を振ったりノリ入りの塩を振ったりした、あれである。


「先日、3階の闇コンビニで見かけまして」

「しんしょーひん!?」

「恐らく」


 機械メイド皇帝が経営している魔王城内の休憩スポットである。

 異世界にもコンビニはある。良い時代になったものだ。


「あー そいえば、たいしょーが、まえからたべたいっていってた……」

「へい」


 自分で作れないこともないが、大量生産のポテチは良いものである。

 美味しいし。


「……ちら」


 ちらっ。と口で言う、幼女魔王。


「へい」


 俺は、魔界ポテチを差し出した。


「くるしゅうない……あーんむっ!」


 ぱくっと行く、幼女魔王。

 その食べ方は、少々デンジャラスだった。


「ん~ぱりさくしょっぱ……くちんんひゃかさしゃったぁ!!」


 口の中に刺さったらしい。

 哀れ。幼女魔王ほどの年齢になると、ポテチが口の中に刺さるのだ。

 子供のころは刺さった記憶が無いような気がする。

 老いだろうか。


「なにか、飲みますか」

「いつもにょ」

「仕事中では?」

「…………おちゃちょーらい」


 出す。飲んで口の中のポテチを流す、幼女魔王。


「っふー…………」


 一息ついた。口の中の傷は魔王再生力でなんとかなったらしい。

 良い笑顔でうなずく、幼女魔王。


「びーるほしい」


 昼から飲まない方が良いよ、と思った。

 さておき。


「相談とは」

「あ、そうそう」


 ポテチをぱくぱくしながら告げる、幼女魔王。


「てんくーとし、とったので、おまつりします」

「おぉ」


 宴会の予約だった。 

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