第35話 スタミナ焼き

 機械メイド皇帝が、機械ミニスカメイド皇帝になっている。


「クールビズデス」


 クールビズらしかった。

 今日暖簾をくぐったのは、クールビズの機械メイド皇帝と、ゴスロリドレスの幼女魔王である。


「うらやましい」

「魔王も、それ脱げば良いデス?」

「それはまぁー……そーなんだけどぉー……」


 この辺では、ゴスロリはサラリーマンのスーツのようなものである。

 幼女魔王は一応魔王、社長とか会長枠なので。

 着崩すのは、ちょっとアレらしかった。


「不健康デスネ」

「しごとなんて、ぜんぶ、けんこうにわるいからね」


 仕事は全部健康に悪い。

 至言である。


「フム……では、ご主人サマ」

「へい」

「スタミナを」

「へい」


 ちょっとだけ、機械メイド皇帝が悪魔に見えた。


「……すたみな?」

「元気とガッツがつく、魔法の料理デス」


 嘘ではない。俺はちょっとだけ質問しておく。


「明日は、お仕事はないので?」

「魔王は休ませマス。ワタシは消化器パーツを付け替えればよいノデ」

「へい」


 なら良いか。と思った。


「たいしょーそれ……ほるもんと……しょうゆと……たまねぎ……にんにく!? にんにくおおい、にんにくー!」


 焼いていく。

 醤油とにんにくとみりんと砂糖と、定番勝負である。

 にんにくの芽もぶち込んでいく。緑は彩であり、彩は健康である。


「あくまてきなにおいだ」


 悪魔的な臭いである。俺も食べたい。

 と、いうことで。


「へい、おまち」

「わほー!!!」


 スタミナ焼きである。

 正式名称かは知らないが、ホルモンとにんにくと醤油と砂糖と、とにかくガッツなメニューとして、メニュー石板の端っこに書いてある。

 夏の夜に出ることは、あんまりない。

 と、いうのも。


「……おさらが、いわ……!」

「地獄溶岩デスネ。良い質と熱デス」

「へい」


 溶岩プレート的なあれで、とても熱いのである。

 ごくり、と唾をのむ幼女魔王。


「ふふん」


 幼女魔王をよそに、ぱくつく、機械メイド皇帝。

 青い目のパーツを気持ちよさそうに細め、ホルモンをもにょもにょしている。


「……ゴッゴッゴッ」

「あわわわ」


 ホルモンの脂をハイボールで流し込む、機械メイド皇帝。

 氷がカランとした。


「……っふー……」


 幼女魔王に流し目を送る、機械メイド皇帝。

 機械なのだが、お肌に汗が浮いている。

 美食を楽しんでいる人間特有の、あの、妙に羨ましい汗である。


「…………うおー!!」


 幼女魔王、食べる。


「あぶっあまじょっニンニクの芽ぇー!!!」


 顔が赤くなる、幼女魔王。ビールで流せど流せど、可愛いでこに汗が落ちる。

 うなずく、機械メイド皇帝。

 幼女魔王に、耳打ちをする。


「……魔王」

「もにゅっごくっ」

「…………今、脱いだら……」

「ごくごくっ!?」


 良い笑顔の、機械メイド皇帝。


「きっと、すごぉく気持ちいいデスヨ……?」


 幼女魔王は、脱いだ。

 魔王城にクールビズが正式導入された歴史的瞬間である。


「ぱはぁ!!!」

 

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