第33話 中華オムライス
今日は一人で暖簾をくぐった、幼女魔王。
「ねんどはじめって、ごみ」
「へい」
『いつもの』宣言より先に愚痴が出たので、今日はたいへんそうだった。
心なしか、ピンクのツインドリルが鋭さを増している。
ねじくりまがった二本の角は、平常運転だった。
ツインドリルの方が角なのかもしれない。
「……いつもの!」
「へい」
キンッキンに冷えたジョッキに、生ビール。大ジョッキ。
幼女魔王は、一口で空にした。
「いきかえる」
ツインドリルの鋭さが、ぽわーんっとなった。
めでたい。
「っふ……たいしょー、きづいたんだよ」
「なににでしょう」
うなずく、幼女魔王。
「おなかへると、いいこと、ない」
「お腹、減ってたんですか」
「うん」
こくんと頷く、幼女魔王。
年度初めのもろもろで、お昼を抜いていたらしかった。
たいへんである。すきっ腹に酒は、よくない。
「んむー……」
酒でどうにか心のうるおいを取り戻したらしい、幼女魔王。
メニュー石板をなぞり、心の空腹を埋めようとしている。
が。
「もーだめだぁ……おしまいだぁ……」
石板をなぞる途中で力尽きる、幼女魔王。
夕食のメニューも決められない辺り、ほんとうに疲れているらしかった。
どうしたものか。
カウンターに突っ伏して、幼女魔王はうめいている。
「……あぶらとこめ、こう……あぶらと、おこめ……」
「へい」
うめき声は、欲望にまみれた注文だった。
中華鍋に、ドン引きする程度に油を投入する。
ぶちこむのは米、コショウ、ケチャップ、
「おこめが……おどっている……?」
じゃっじゃっとして。
いっかい皿に置いて。
またたっぷりの油で卵を焼いて、米にのせ、またケチャり。
「あぶらのうえで……きいろが……すいみんぐ…………?」
「へい、おまち」
中華風オムライスである。
俺が知る限り、油+米の最適解だった。
「あむ」
もそっと、食べる、幼女魔王。
もにゅもにゅする。
「……ねぎ……ちゃーしゅー……ちょっとかためのらぁいす……」
ごっくんした、幼女魔王。
「たいしょー」
「へい」
「これ、おひるごはんに、たべたかったなぁ」
……。
まぁ、夜に油と米は、重いものである。
「たいしょーさぁ、ごくごく」
「へい」
「わたしもね、いちおうはふはふぱくっごくごっきゅごきゅ」
「へい」
「もうね、もにゅ。とし、ごくごく、なんだから」
「へい」
「よるにこんながっつり……」
動きを止める、幼女魔王。
中華風オムライスは、残り三分の一。
生ビールの大ジョッキは、空になっていた。
「たいしょー」
「へい」
「おかぁり」
「へい」
油と米、ビールのループに飲み込まれる、幼女魔王。
「まぞくどっくが、こわい」
満面の笑みで、完食なされた。
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