第11話 チョリソー

 久々に一人で暖簾をくぐってきた、幼女魔王。


「たいしょー、いつもの」

「へい」


 いつも通りキンキンに冷やした生ビールを用意し、カウンターで迎えた。

 早速ジョッキ片手にうきうきとメニュー石板を手に取り……笑みで緩んでいた表情を、きりっとさせる。


「きょう、めにゅーすくないね?」

「へい」


 よくお気づきで。


「……仕入れに行ってきたので、一部のメニューの仕込みが出来なかったんです」

「おー もぉそんなじきかぁ……じきだっけ?」


 首を傾げる、幼女魔王。

 たしかに、今月の仕入れ作業はいつもより早い時期に行った。

 いつもなら月末に一気にやるのに、今月はまだ半月経つか経たないかである。


「ほら、今月はお客さんが多かったでしょう」

「あぁー……おんなきしちゃんに、くらーけんちゃんに……むしゃどくろは?」

「武者髑髏さんは出張中でしたが、女騎士さんが元気に食べてくれるものですから」

「……わかいって、すてきね」


 若いって素敵だ。


「とーなーるーとー……」


 と、頭を揺らしながらメニュー石板とにらめっこする、幼女魔王。

 ピキーンと、何か閃いた音。

 幼女魔王のきらきらした瞳が、パッと俺を見た。


「じゃ、いつもなくなっちゃう、あれ……ある?」

「へい」


 目ざとい幼女魔王である。

 早速、例のブツを取り出して、さっとボイルする。

 鍋の中でふっ……とするそれを覗き見て、幼女魔王はほくそ笑んだ。


「ふっふっふ……こぉいうとこは、にんげんにかんしゃだね」

「へい」


 魚や獣は討伐しに行けばいいが、加工食品は中々そうはいかない。

 ということで、低温でじっくり焼いてから、出す。


「へい、おまち」

「あいしてるぜ……」


 でかいチョリソーである。

 豪勢に、4本。茹でてから焼いた関係で、ぷっくら艶々としていた。


「この……にくじゅーがつまってるとしかおもえない、まるみ」


 ふぉぉ……と、息を漏らす、幼女魔王。

 生ビールとチョリソーが似合う幼女魔王である。


「ぱりっ」


 良い音と共に、ぱくついた。


「っぱはぁ……!」


 そしてジョッキを傾ければ、もう表情は真赤である。


「……あげものじゃないから、せーふ。せーふ……」


 もう3本ぱりっと行ってしまった、幼女魔王。

 残りは1本。

 幼女魔王が、ぐぬぬ、となった。


「まだありますよ」


 おかわりかな、と思って俺は準備を始める。

 しかし、幼女魔王の「まぁ待たれよ」と言いたげな手が、それを止めた。


「まぁ、またれよ。たいしょー」

「へい」

「とりあえずおかわり」

「へい」


 とりあえずで大ジョッキを増やす、幼女魔王。


「ふっふっふ……くじゅうの、けつだん」

「へい」

「くじゅーのけつだんなのよ、たいしょー」

「へい」


 苦渋の決断らしい。


「……あしたに、とっといてあげる」


 がんばって我慢した、幼女魔王。

 苦渋の決断らしかった。

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