第12話 フライドポテト
この日、3人が暖簾をくぐった。
「へい、おまち」
カウンター席の奥、座敷に俺が運ぶのは、生ビールのジョッキと、濃い目のレモンサワーと、日本酒・辛口。
「それじゃあ、いっせぇの……」
座敷の影は3つ。
幼女魔王と、新人闇落ち女騎士と、クラーケン賢者。
「「「かんぷぁーい!!!!!!」」」
……打ち上げ兼・女子会らしかった。
「この店、こんな広いお座敷あったんですね」
「時空を弄ってるんだろうね。外観とはサイズが違う」
この店のカウンター席は、広い。
というのも、オーガとかドラゴンとか武者鎧を着たスケルトンとかが並んで座るため、物理的に広くなければ魔力汚染がつらいのだ。
だから、3人以上の来客には、それぞれの距離が近い座敷を案内していた。
「つよかったねぇ、てんくうのゆーしゃたち」
「ですねぇ」
「キミが闇落ちしてくれていなかったらと思うと、ゾッとするね」
「やめてくださいよ賢者様。そんな大したことはしていませんから」
酒を片手に盛り上がる、三人組。
今日のMVPは、新人闇落ち女騎士らしい。
「賢者様の全感覚遮断魔術が無ければ、危なかったのは私の方です」
「いやいや……」
「ふたりともだいかつやくだったよ!」
わはー! と、MVPは2人ともだと言い切る、幼女魔王。
「なので、きょーはわたしのおごりです」
「わひゃあ」
「やったね。それでこそ魔王陛下だ」
幼女魔王の財布は国庫そのものなので、とても頼もしい台詞だった。
「たのしんじゃえー!」
「祖国裏切った身で楽しむのはちょっと……」
「心苦しいかい?」
「最高です」
酔っ払いの会話を盗み聞きしている間に、今夜のツマミを準備する。
メインディッシュは予約があったので、少し時間はかかるが、後は焼き上げるだけ……だが、酔っ払いに酒だけ与えて放置する訳にもいくまい。
「へい、おまち」
「たいしょー!」
持っていったのは、フライドポテト。
大盛で、レモンとケチャップの皿もある。塩と油が照明に輝く、良い出来だ。
「……大将、マヨネーズはあるかい?」
出した。
「これはまた……金色に輝く食べ物ですね?」
「芋を揚げたものだよ。だが、これが奇妙に美味なんだ」
「ほー」
クラーケン賢者の博識に感心している、闇落ち女騎士。
「けっきょく、あぶらとしおとたんすいかぶつなんだよねぇ」
……を無視して、もうぱくつき始めている、幼女魔王。
「ってまーた魔王様が私の分まで!」
「諦めたまえ。魔王陛下は強欲の化身だ」
「まぞくどっくがこわくてまおうがやってられっかゃあー!!!」
「……今日は特にひどいな」
大きな案件が終わって、管理職である幼女魔王の気も緩んでいるらしい。
今夜は、また賑やかになりそうだった。
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