第2話 若鶏の唐揚げ

 魔王城は夜が遅いので、店を開けるのは22時くらいである。

 暖簾を出して10分くらい待つ。


「たいしょー、いつもの」

「へい」


 と、幼女魔王がくぐってくる。

 いつも通りのカウンター席に座る、ゴスロリ幼女魔王。

 この世界ではゴスロリはスーツみたいなものなので、俺はもう気にせず、いつも通りに生ビールをジョッキで出した。


「ぱはぁっ…………ねーねー、たいしょー」

「へい」


 いつも通りなら、ここでツマミの注文が来る筈だ。

 が、今日はどうも違うらしい。


「きいてよぉ」


 カウンターにもたれかかり、うるうるした目で見上げてくる幼女魔王。


「へい」

「しんじんがさぁ、言う事きかないんだよぉ」

「はぁ……」


 会社……もとい、魔王城の愚痴のようだった。


「そりゃまた、大変ですな」

「たいへんだよたいへーん……えっとね、んっとね、闇落ちした女騎士なんだけど」

「はぁ」


 もう女騎士が闇落ちする季節らしい。そういえば、城前の街路樹にも、枯れ葉が舞っていた。


「そいつがさぁ、王国流? のね、決闘方法にこしつするのー」

「はぁ、前の職場のですか」

「そーそー」


 空のジョッキを差し出してくる、幼女魔王。おかわりらしい。


「んまー……なれない場所でたいへんなのは分かるけどねぇ」


 注いだジョッキを受け取り、またぷへぇとする幼女魔王。

 幼女魔王も、上司歴何百年とかである。

 慣れてはいるのだろう。


「こんかいの子はねー? とぉくにごーじょーでねー……?」

「へい」

「んむー……」


 むむむ、となる幼女魔王。

 俺はただの居酒屋大将なので、あまり言える事はない。

 魔王は大変だなぁ、と思った。


「きめた」


 メニュー石板を手にとり、にやりとする幼女魔王。


「きょうはね、あぶらっこいものいっちゃう」

「へい」

「若鶏のからーげ!」

「へい」


 そんな気がしていた。

 愚痴が始まったあたりで用意していた鶏むね肉を、高温の油に落とす。

 幼女魔王はきらきらした綺麗な瞳で見つめていた。


「わひゃあ」

「油、跳ねますよ」

「そのていど、きかないもーん」


 いいなぁ。


「おまち」

「いただきまー」


 ぱくつく、幼女魔王。

 そのあとレモンをちゅっとする。


「……たいしょー」

「へい」

「たいしょーの、あじこくてすきー」

「へい」


 中々うれしい、お言葉であった。

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