幼女魔王にツマミとビールを捧げるだけの簡単なお仕事です

@syusyu101

第1話 生ビール・ジョッキ

「たいしょー、いつもの」

「へい」


 暖簾をくぐって現れた幼女魔王に軽く返事し、冷えたジョッキに生ビールを注ぐ。

 幼女魔王の最初の注文は、いつもこれである。


「どうぞ」

「たすかる」


 ジョッキをうやうやしく両手で受け取る幼女こそが、幼女魔王。

 ピンクの髪がツインドリル。

 曲がりくねった禍々しい角が2本。

 まつ毛が長くて肌が白くて、ルビーみたいにきらきらした瞳の、ゴスロリドレスの美少女幼女。


「……っぱはぁ……このためにいきてる……」


 幼女魔王の晩酌は、いつも俺が注ぐ生ビールから始まるのだ。


 口に泡でおひげを作る、外見年齢12歳実年齢1万5千歳の幼女魔王。

 カウンター席に飲み干した大ジョッキをドンとおいて、あごを乗せ、上目遣いで俺を見上げる。


「……どうだい? たいしょー」

「へい」

「魔王城には、なれた?」


 舌ったらずに俺を気遣う、幼女魔王。

 俺を見上げる愛らしい瞳は、アルコールによってもう潤みはじめている。


「今日でちょうど、三年になりますからねぇ」

「そっかぁ」


 “大将”と呼ばれた俺がそう答えると、幼女魔王は満足したように、カウンター上のメニュー石板を確認する。

 そして、潤んだ瞳がまたきらりとした。

 なにか見つけたらしい。


「たいしょー」

「へい」

「えだまめがいいな。今夜は」


 枝豆、とくに特別なメニューではなかった筈だが、幼女魔王はそれをご所望らしい。


「へい。すぐに」


 選んだ理由が分からないまま、枝豆を茹でようと準備を始める。

 すると、幼女魔王はにへへと微笑みながら、また嬉しそうな声をだした。


「おまえが異世界から魔王城に来たときと、おんなじやつだ」


 そういえばそうだったな、と思った。


「異世界転移3年目をしゅくして……かんぱぁーい」


 空になったジョッキを掲げて、嬉しそうににへらっとする幼女魔王。

 俺は、それを見て少し苦笑した。




 俺は“大将”。

 現代日本から魔王城の居酒屋に就職した、いたって普通の人間である。

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