第42話 全員の能力把握
淡く、あたたかな光が、勇者の体を包みこんでいく。
それは、全身にまで及ぶ輝き。そして、みるみるうちに勇者の外傷が、塞がっていく。
これが、回復能力……私も、実際にその能力をこの目で見るのは、初めてだ。少なくとも、こんな怪我を治すのを見るのは。
「……ふぅ。どうですか、勇者様」
「……うん、すっかり元通りみたいだ。ありがとう、リミャ」
「! いえ」
立ち上がり、腕を回して、腰も回す。
その効力を実感した勇者が、すっかり元通りだと確認。回復してくれた王女に、お礼を言う。
お礼を言われた王女の、なんと嬉しそうな顔だこと。
「それが、王女様の力か。これは、驚いた。回復能力持ちが希少なのに、その精度も高いと見受けられる」
「できるのは、回復だけですよ。他のことで、お役には……」
「その、回復能力が重要なのです。他の誰にも、できることではありませんから」
王女の力を見て、ナタリが素直な感想を述べる。それは、お世辞というわけではないんだろう。
回復能力が重要だというのは、同意見だ。どんなに強靭な肉体にも、傷はつく。
魔王退治の旅なんて過酷な環境下で、回復能力を持った人がいることは、とても心強いだろう。
「あぁ、折れた骨も元通りだ。もう痛みも、ない」
「回復能力には、集中力を使うので使用の間、皆さんには頼り切ってしまう形になりますが……」
「任せてください」
勇者とガルロの組手から、思わぬ形で王女の力も見ることができた。
それを見て、メンバー同士の仲も、さらに深まる。
……ガルロは、ちゃんと溶け込めるといいんだけど。
「……正直、侮っていたよ。まさか、俺があんな一方的にやられるとは」
「一応、武闘家なもんで。肉弾戦で勇者様に遅れを取っちゃあ、俺の立つ瀬がないんでね」
回復した勇者は、改めてガルロに向き合う。
意外にも、ガルロの力を素直に認めているようだ。てっきり、難癖つけて今の戦いをなかったことにしようとしているのかと、思った。
素直に称賛されたガルロは、相変わらずの態度だけど……自分の能力には、自信があったってことだ。
勇者はオールラウンダーだけど、一つの分野を秀でた者には敵わない。
これが、その最たるものだってことだ。
「そうだな。戦力としては、キミも勇者パーティーに必要な存在だ」
「そらどーも」
「ただ……それでも、キミがリィンにしたことは……」
「ちょっと、それはもういいですから。私は気にしていないんですよ」
勇者が、ガルロを認めた……とは、残念ながらならない。
理由は、やっぱりというべきか……私の、ことだ。
ガルロが私に言ったことを、勇者は気にしている。
けどあれは、悪意あるものじゃないし……それに、あれのおかげで私自身、助かったところもあるし……
「……リィンが、そういうなら」
私が必死に止めるものだから、渋々と言った感じだけど勇者は、納得する。
私の問題で怒っているのだとしても、私が気にしていないと言えばこれ以上怒るのは、お門違いというものだ。
それから、ガルロの視線が私に向く。
「じゃあま、勇者様の実力はみんなわかってるだろうとして……残るはあんただな、"
「リィンです」
ガルロのことは嫌いではないし、むしろ人としては好きな部類に入るけど、それはそれとして呼び方をどうにかしてほしいよ。
まあともかく。残ったのは、私の能力。
猛獣使いのその力は、モンスターや魔物に触れることで発揮される。
なので、それらがこの場にいれば、手っ取り早く証明できるんだけど……
「誰か、モンスターとか魔物持ってる人いません?」
「さすがにいないと思うぞ」
まあ、そりゃそうか。
ただそうなると、どうやってこの能力のことを証明するかって話だけど。
「猛獣ならここにいるじゃないか。リィン、触ってみるといい」
「誰が猛獣だ、しばき倒すぞ」
「あはは……」
勇者とはまた違った意味で、ナタリのガルロへの当たりが強い。
真面目なナタリは、不真面目なガルロの態度が我慢できないってところだろう。多分私の件がなくても、ガルロに対する印象は変わらないんだろうな。
言い争いを始めそうな二人の間に仲介に入っていると、恐る恐ると手を上げるミルフィアの姿が目に入った。
「なら、これから国の外へ出て、モンスターを見つけるっていうのは」
「……それが一番、効率が良さそうだ」
そんなわけで、私たちは国の外へ。モンスターは国の外にはたくさん生息しているので、探すのには困らない。
警戒させないように狼型のモンスターに近づき、そっと触れる。
すると、モンスターが私にすり寄り、ぺたんとその場に座った。
私は、モンスターの頭を撫でる。
「おぉお」
「そいつ、モンスターの中でも結構獰猛な部類なのに」
「へぇー」
私の能力を初めて見る三人は、モンスターが私に甘えている姿に感心しているようだ。
他にも、走れとかジャンプしろとか、背中に乗せて遊ぼうとかお願いすると、そのとおりに動いてくれた。
野生のモンスターはそもそも、人の言う事を聞かない。だから、こうして私の言う事を聞いてくれるのが、能力の証明になる。
それから、私はモンスターを解放して、野に帰してあげた。
「へぇ、モンスターを操ることもできるし、解放することもできるのか」
「はい。あと、一度に操れるモンスターは五体まで……それ以上は、最初から触った順に、能力が解放されてしまうみたいです」
これも、私が見つけた自分の能力だ。
一度に操れるモンスターの数には、限界がある。これも、気をつけないといけないだろう。
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