第33話 三人の勇者



「国王様、神紋しんもんの勇者様方三名を、お連れいたしました」


「うむ、ごくろう」


 先行していた兵士たちは膝をつき、その後ろに立つ三人の人物……

 彼らが、残る神紋の勇者か。聞いていた通り、女が一人で、男が二人。


 確か、魔法使いが女で、武闘家と弓使いが男って話だったな。

 ってことは、ああやって突っ立っている女が魔法使いで、立ったままの男と膝をついている男どっちかが武闘家と弓使いか。


「そうかしこまらずともよい。面を上げてくれ」


「はっ」


 ……とはいっても、かしこまって膝をついていたのは、兵士を除けば男一人だけだけど。

 残りの二人は、立ったまま……あ、微妙に態度が違うな。


 魔法使いの女は、落ち着きなくそわそわしている。対してもう一人の男は、だるそうに立っていた。


「さて、はるばるごくろうであったな。神紋の勇者よ」


「いえ。国王様のためとあらば、どこへなりとも参上する次第」


 面は上げても、膝はついたままの男は……見るからにくそ真面目って感じの顔してる。なんかお堅そう。

 実際、その言葉遣いは堅く、暑苦しかった。


 私あの人苦手だな……だからって、後ろの二人がいいとも言えないけど。


「お主は……」


「はっ。この度、神紋の勇者の弓使いとして選ばれました。

 ナタリ・カルスタンドと申します」


「カルスタンド……」


 まず自分の役職と名前を告げるのは、膝をついたままの男だ。

 声も大きいな……よっぽど、国王に対しての忠誠心が高いと見える。


 その名前を聞いて、王女がぽつりとつぶやいた。


「どうかしたか?」


「この国にも届いているくらい、有名な貴族の名前ですよ、カルスタンド家というのは」


 それを気にした勇者の問いかけに、王女は答える。

 元々、神紋の勇者ってのは各地から集められた人たちのこと。異世界からの勇者や、元々この国の人間の王女。それにカロ村はこの国の領土に入っているらしいので、私もこの国の人間だ。


 残る三人は、他国の人間。

 その中でも、あの真面目くんの家はかなり有名ってことだ。


 有名ってことは、それなりに礼儀もわきまえている……って認識でいいのかな。


「あのカルスタンド家のご子息に尽力いただけると。ありがたいことだな」


「こちらこそ、光栄の極みであります」


 ははぁ、これが政治のやり取りってやつか。

 正直、つまらない……そして、それを感じていたのは、どうやら私一人ではないらしい。


「ちっ。おい、いつまでやってんだ。かったりいな」


「! おい、国王様の御前だぞ」


「他国の王様なんざ知ったことかよ。そもそも自分の国の王であろうが敬うつもりはねえけどな!」


 わかりやすく舌打ちをする男は、だるそうに立っていた男だ。チンピラかよ。

 その反応に、真面目くんは振り向き睨みつけるが……チンピラは、気にした様子はない。


 よく見れば、目は鋭いし髪はつんつんだし……私と同じく細身なのに、なんだろうあの圧迫感は。


「貴様……それでも貴族か!」


「よい。無理に連れてきたのは我らのようなものだ。不服もあろう」


「あぁそうだ。突然こんなわけわかんねえもんが表れて、世界を救うために戦えだ? なに勝手なこと言ってんだって話だ」


 ……口も態度も悪いけど、あのチンピラの意見には同意だな。

 いきなりこんな神紋なんて刻まれて、世界のために戦えなんて……意味が分からない。


 まあ、私がそう思っているのも、二度目の人生だからだ。

 前の時間軸では、むしろ神紋が刻まれたことを光栄に感じていたもんな。


「返す言葉もないな。お主は、ガルロ・ロロリアスであったな」


「あぁ、そうだ」


 国王からの言葉に、チンピラは頷いた。真面目くんが弓使いってことは、彼が武闘家ってことなのだろう。

 さっき真面目くんが言っていたけど、あれも貴族なのか。貴族ってのは、みんな上品なものだって思ってたけど。


 ……いや、人間の本性なんて、どんなもんかわからないよな。


「……ん?」


 ただ、妙なことが起こった。彼の名前を聞いた瞬間、場が少し乱れたのだ。

 ざわざわと……陰口をたたいているような、そんな空間へと変わる。


 というか、実際にたたいている。これは、私の髪の色を見た時の、周囲の反応と同じ……


「みんな、どうしたんだ?」


 その変化に気付かないほど、勇者は鈍感ではなかったらしい。


「……ロロリアス家は、貴族の家柄なのですが……ある国で、没落貴族だと、噂になっているんです」


 王女は、小声で答え……私は、それを聞き取る。

 没落貴族……なんらかの理由で、貴族としての地位を剥奪された、もしくは返上した貴族のことだっけ。


 その理由は、よくわかっていないらしいけど……あの横柄な態度を見ていれば、あながち間違いでもないらしい。


「ちっ。言いたいことがあるなら、直接言えや。確かに俺の家は落ちぶれたが……人様の事情をこそこそと話の種にするなんざ、さぞご立派な教育をしているようだなぁ国王様よ」


「……すまない。他の者には後々、注意しておこう。そなたの家を侮辱するつもりは……」


「別に家のことなんざどうでもいい」


 このチンピラ……言っていることは、実に私好みだ。言いたいことをはっきり言うし、陰口なんかたたくんじゃねえくそ野郎って感じだ。

 なんとかして、話してみたいな。


 それから、チンピラは周囲に睨みをきかせて、メイドたちを怯えさせた。

 そして、その視線は……私へと、向いた。


「……あぁ? なんで、"びと"がこんなとこいんだよ。気持ち悪い」


「……」


 あ、ちょっとぶん殴りたいかも。

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