第11話 お茶会へのお誘い



 コンコンコン



「んぅ……」


 扉がノックされる音に反応して、私の意識が目覚めていく。

 こんな小さな音で目覚めるなんて、以前は考えられなかった。


 ……前の時間軸では、牢屋に入れられ、寝食を過ごしていた。その際、心細さもあって私は、小さな音にも敏感に反応するようになってしまった。

 それは、時間軸が違っても変わらないらしい。


「ふぁ……」


 私は、どれだけ眠っていたんだろう。

 窓の外を見ると、空はオレンジ色だ。結構寝てたんだな。


 大きなあくびをしてから、私は部屋の扉をノックした人物を迎えるために、扉を開ける。


「はい」


「リィンさん、もしかしてお休みでしたか?」


 扉を開けると、そこにいたのはこの国の王女……リミャ・ルドルナ・ロベルナだった。

 にこっと笑顔を貼り付けて、私は人畜無害ですって顔をしている。


 ちなみに彼女の後ろには、長身のメイドがいる。


「えぇ、少し……」


「まぁ、旅の疲れが出たのですね。ごめんなさい、起こしてしまって」


「いえ、気にしないでください」


 私を心配する素振りだけど……おかしいな。

 前の時間軸で、この時間帯に王女が部屋にやって来たなんてことは、なかったはずだけど……


 ……しまった。やってしまった。


「どうかしましたか?」


 前の時間軸で私は、このお城に来た後、勇者に連れられて王都を回っていたのだ。

 外に出たことがない私は、部屋を訪れた勇者に連れられて、町に繰り出していた。

 だから、この時間部屋にはいなかった。


 まずった……できるだけ、前の時間軸の行動をなぞるつもりだったのに。

 勇者と二人きりになりたくなくて、さっき追い返す形になったのが悪かった。本当なら、あのとき彼に誘われて王都を回るはずだった。


 それに、前の時間軸では疲れもあったけど、王都への好奇心が疲れを上回っていた。

 今回は、その好奇心が薄れていたのも原因だ。


「あ、す、すみません。王女様、近くで見るとさらにおきれいで……」


「ま、お上手なんだから」


 同じ時間を繰り返しても……私の心は、繰り返していることを覚えている。

 初めて見る景色と、二回目に見る景色との感動が違うのは、仕方ないこととはいえ……


 とにかく、今は怪しまれないよう、適当に話を合わせておこう。


「それで、王女様は私に御用が?」


「用というものでもないのだけれど……せっかく、旅を同じくする仲間なんですもの。

 二人きりで、お茶でもどうかと思って」


 ……私の不注意で、今回は前回にない展開が広がっている。


 ただ、私の記憶では、お茶会というものは確かにあった。

 でも、それは今日ではなく……明日の、朝だったはずだ。


「二人きり、ですか。勇者様は?」


「あの人ったら、どこに行っても見当たらなくて」


 この時間からの、お茶会……なるほど、それは勇者不在によるものか。


 私と親睦を深めたいんじゃない。勇者が見つからないから、暇つぶしに私を誘いに来たのだ。

 ってことは、前の時間軸で誘われた明日の朝も、勇者がいない暇つぶしだったってことか。


 本当なら、私はこの時間に勇者と王都を回っていた。でも、今私はここにいて、勇者はいない。

 どうやら、私がどう行動しても、勇者はこの時間にお城にはいないらしい。


「そうでしたか。私でよければ、ぜひお付き合いさせてください」


「ふふ。女同士、仲を深めるのもいいわよね」


 ……それから私は、王女に連れられて部屋を出た。

 私はこの城で過ごすのは二回目……日にちで表すなら五日前後ってところだけど、たったそれだけでお城の構造は把握できない。


 それに、ほとんどがお城のメイドに連れられての移動だったから、どこをどう通ったか覚えていない。


「さ、こちらに」


「ここって……」


「私の部屋よ」


 案内されたのは、王女の部屋。

 時間が変わっても、お茶会の場所までは、変わらないらしい。


「そんな、恐れ多いです」


「気にしなくていいのよ。さ、入って入って」


 王女に続けて、私は部屋の中へ足を踏み入れる。

 最後にメイドが部屋に入ってから、扉を閉める。


「わぁ、かわいらしい部屋ですね」


 部屋の中は、私に与えられた部屋よりずいぶん広い。

 ベッドの端などにはファンシーなぬいぐるみも置かれている。


 この王女は、かわいいもの好きなのだ。


「恥ずかしいわ、この歳になって」


「そんなことないですよ。素敵だと思います」


 ……前の時間軸では素直にそう思っていたけど。今では本心を隠して、告げる。


 恥ずかしいと思っている部屋に、人を入れるものか。

 こういう答えを、期待していたのだろう。


「さ、適当に座って」


「ですが、やっぱり恐れ多くて……」


「ふふ、かわいらしいわね。でも、立ちっぱなしというのも……

 フェーゼ」


「はい、姫様」


 フェーゼと呼ばれたメイドが、床に座布団を敷く。

 この座布団だって、私が想像もできないほど、高級なものなんだろう。


 恐れ多いからと断り続けるのも、相手に良くない印象を与えるな……


「お気遣い感謝します。では、失礼します」


「どうぞ」


 私は座布団の上に。王女はベッドの上に座る。

 フェーゼは、部屋の入口に立って待機したままだ。


 ……凛としていて、かっこいい印象のメイド。王女のことを姫様と呼び、なにを置いても王女の味方をする。

 そしてその王女は、あの勇者の味方をする。この人は、私にとって障害の一つだ。


 勇者ほどではないけど、この人も相当……


「では、お話しましょうか」


「……はい」


 こういうのを、女子会って言うんだろうか……相手と場所が、違えばなぁ。

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