第10話 勇者の役割
勇者が部屋に来てから、少し話をする。そのほとんどが、勇者の元いた世界に関することだ。
私のことはなにも聞かずに、自分のことばかり。きっと、自分のことを知ってもらおうと思っているのだ。
それだけじゃない。異世界の話は、カロ村から外に出たことがない私にとって、とても輝いた話だった。
私の興味を惹く話として、ちょうどよかったのだろう。
「リィンって、結構シャイ?」
「シャイ……とは?」
「あー……内向的、ってことかな。あんまり自分から喋らないからさ」
前の時間軸の私は、勇者の話の一つ一つに、やりすぎなくらいの相づちを打っていた。
でも、今の私は……表面上では、話を聞くふりをしながら、実際には聞き流している。
ただ、勇者にはあんまり、通用しないみたいだ。
勘がいい、ってことなんだろうか。
「ずっと、故郷から出たことがなくて、長旅で疲れたのかもしれません。
それに、国王様や王女様……勇者様と話して、緊張しちゃって」
「あはは、まあ無理もないか。って、様付けはしなくていいってば」
あははは、と勇者が笑った。
「じゃ、俺はそろそろ失礼しようかな。しっかり休んでよ」
「お気遣い感謝します」
「気にしないで」
勇者が部屋を出ていくのを確認して、私はベッドのシーツを剥ぎ取った。
私に魔法が使えれば、ベッドのシーツをきれいにできるのに。
取り替えるシーツもないけど、仕方がない。あんな奴が座っていた場所を、そのままになんかしておけない。
「はぁ……」
勇者と、少し話しただけで……こんなに、疲れるなんて。
私が勇者を殺す未来に至った、"あの事件"。それを回避するには、勇者と二人きりにならないのが、絶対条件だ。
なら、ずっとひきこもる? ううん、私がここにいる理由を忘れてはいけない。
ずっとひきこもってたら、私に備わっている力とやらを磨くことができない。
勇者を殺して首を斬られなくよくなっても、魔族に対抗できずに殺されたんじゃあ、意味がない。
「……私の力、か」
天井に手をかざす。そして、手の甲を見つめる。
私が、
神紋が刻まれた、六人の勇者パーティーメンバー。
それぞれ、勇者、女賢者、武闘家、弓使い、魔法使い……そして、私が猛獣使い。
女賢者とは王女のことで、その能力はヒーラー……回復能力とのことだ。回復系統以外の魔法は使えない。
一方魔法使いは、回復系統以外の魔法が使える。こちらは、攻撃や防御と多岐にわたる。
勇者はオールラウンダー。武闘家と弓使いは名前の通り……
結局私は、魔法使い、武闘家、弓使いには会ってはいない。聞いた話だと、魔法使いが女で、武闘家、弓使いが男らしい。
「猛獣使い……って、なんか物騒だよね」
手の甲の、神紋。これは、刻まれた人によって微妙に違うらしい。
まあ、どうでもいいことだけど。
猛獣使いとは、このあと国王に聞くことになる、私の役職だ。
どんなものだろうか、と思った。説明を受けた感じだと、魔物や魔獣を操る存在、ということらしい。
この国に来るまでの間、モンスターを見かけた。モンスターで試さなかったのは、まだ力が安定してないところで使うのは危険だとか、なんとか。
なのでこのあと、正式に力の使い方を覚えていくことになる。
「でも、結局その力はあんまり使わなかったんだよね」
猛獣を操ることができるなんて、それはすごい力だ。
前の時間軸では力の練習のために、このお城のモンスターで少し練習をした。
モンスターは私の望んだ通りに動いて、それを見て文字通り猛獣使いになった気分だった。
その真価は、魔王退治の危険な旅の中で発揮される……はずだった。
でも、旅に出る前に、あの事件があったから……結局その力の真価が発揮されることはなく、私は……
「……あと、三日……いや、四日後かな?」
勇者が、あの事件を起こすのは……今から、四日後だったはずだ。
それまでに、なにかしら対策を立てないと。
とはいえ、私には前の時間軸の記憶があっても体力までは引き継げない。
引き継ぐもなにも、いくら鍛えたところで今と四日後とじゃ体力にそんなに違いもないだろうけどね。体力面で私は勇者に劣る。
それに、勇者は異世界からこの世界に召喚された時点で、身体能力が大幅にアップしているらしい。
性別の差もあるし、私じゃ勇者には勝てない。
「勇者とは、二人きりにならない。それしかないっ、か」
改めて、決める。勇者とは、二人きりにはならないことを。
大丈夫。私は、場所も時間も把握している。そこに気をつければ、あんな事態は避けられるはず。
あんなことがなければ、私は……少なくとも、今の勇者に嫌悪は抱かない。
「それにしても……ふぁ、あ……」
窓の外から差し込む日差しが、いい感じに当たって……私の眠気を、誘ってくる。
旅の疲れとか、いろんな緊張感から解放されたせいかな。すごく、眠いや。
考えることは、たくさんある。だけど今は……寝よう。
「……すぅ」
目を閉じる。そして、睡魔に身を委ねると……あっという間に、私の意識は落ちていった。
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