第8話 六人の勇者パーティー



 リミャ・ルドルナ・ロベルナ……彼女こそ、このロベルナ王国の第一王女にして、勇者パーティーのメンバーの一人だ。


 腰まで伸びた、金髪のストレート。見るだけでため息が漏れるほどの、美貌。

 それでいてスタイルもいいってんだから、文句なしだ。……少なくとも、前の時間軸の私は、そう思っていた。


「よろしくお願いします」


「まあ、そんなにかしこまらないで。

 これから一緒に旅をする、仲間じゃないの」


 ……平民で、"びと"の私にも、別け隔てなく接してくれる。

 彼女の掲げる目標、それこそが……


「わたくしの目指すものは、差別のない世界ですもの。

 あなたが平民であっても、気にしませんわ」


 ……差別のない、世界。

 それを聞いた私は、ひどく感動したものだ。美人で、中身も完璧なんて、こんな素敵な人がこの世に存在するのか、と。


 あのときの私は、なにも知らなかった。だから、見るもの与えられるものを、素直に受け取った。

 村を出たことのない、世間知らずの娘。彼らにとっては、さぞ御しやすかっただろう。


「さて、リィンよ。話は、聞いているな?」


「はい。ここに来るまでの間、兵士の方から説明を受けました」


 馬に揺られ、移動している最中……兵士から、説明を受けた。

 私はこれから、勇者とともに勇者パーティーに加わり、世界を救う旅に出るのだと。


 世界を危機に陥れる魔王。それを討てるのは、異世界から召喚した勇者だけ。

 私たち勇者パーティーは、彼をサポートし共に苦難を乗り越える、仲間になるのだと。


 もっとも、この説明自体は前の時間軸でも受けた。


「うむ、勇者パーティーのメンバーは、六人。異世界からの勇者、我が娘、そしてそなたを含め、今この国に三人集まっている」


 六人中、揃っているのは現在三人。

 それが、異世界からの勇者。ロベルナ王国の王女。そして私……平民のリィンだ。


 残る三人は、今各地に迎えに行っている。

 私たちが旅に出るのは、六人が揃い親交を深めたところで……という段階らしい。


 らしい、というのは、それは私が経験していないものだからだ。

 なぜなら……この国に六人が集まる前に、私は勇者を殺してしまったのだから。


「……っ」


 そのとき、ざわっと……言いようのない、寒気がした。

 部屋が寒い? いや、むしろあたたかい。


 だったら、この感情は……この、胸をかきむしりたくなるような、気持ちは……!


「早速だが、お主にも紹介しておこう。

 入りたまえ」


 紹介……それは、誰に誰を? そう、覚えている。

 部屋の外に、あの男がいる……


 今まで、意識的に忘れようとしていたのだろうか。

 私は、国王に会い、王女に会い……そして、この部屋で、勇者に会う。


 ゴォォ……と音を立てて、扉が開く。

 扉の向こう側にいる、人影……それを見て、王女の表情が明るくなった。


「失礼しまーす。

 国王様、勇者パーティーの三人目が来たって……彼女のこと?」


 その声を聞いた瞬間……私の心臓が、激しく高鳴った。瞬間的に、振り向く。

 その顔を見た瞬間、心臓が握りつぶされそうな感覚に、なる。


 この世界では珍しい、黒髪を持った男……異世界から召喚された勇者が、そこにいた。


「うむ。カズマサ殿、こちらへ」


「へーい」


 国王に対しても、軽い感じで対応するこの男……こいつが、勇者だ。

 見た感じは、ひょろっとした感じの、黒髪を除けば特徴のない男。


 勇者は、国王の隣……王女とは逆の位置に立つ。

 それを見て、王女が不服そうに頬を膨らませたのに、彼は気づいているのだろうか。


「はじめまして。俺は……あー、この世界じゃカズマサ・タカノのほうがいいんだっけ。

 ま、気軽にカズマサって呼んでくれ。俺も、この世界じゃ平民みたいなもんだからさ」


「リィンです。お会いできて光栄です」


 平民と同じだと語る勇者……それは、とんでもない謙遜だ。

 異世界から召喚された、世界を救う勇者。彼には、この世界の人間だという物的証明ができない。


 だけど、彼が王族が呼び寄せた人物だというのは、紛れもない事実。

 そのため彼は、平民どころか貴族よりも、立場としては上だ。


 私は頭を下げたまま、応えた。


「へぇ、リィンか。いい名前だね」


 優しく、私の名前を呼んでくれる。

 特徴のない彼だけど、顔は整っている方だ。それに、声が優しい感じがする。なんというか、安心するのだ。


 彼に名前を呼ばれると、胸の奥が熱くなるのを、感じる。

 そして、彼の視線は私を見つめて……その視線が、全身に注がれているのを、今の私は感じていた。


「残り三名が揃うまで、リィンにはカズマサ殿とリミャと交流を深めてもらいたい」


 共に旅をするんだ、それも当然。

 そして、私がやるのは当然それだけではない。魔族との戦いの心得とか、旅について必要なことも教わる。


 そして……勇者パーティーに選ばれた私の、その本当の力についても。


「まずは、長旅ご苦労であった。細かなことはまた後日としよう」


「リィンさん、あちらでお食事を用意しています! 一緒に食べましょう!」


 私をもてなしてくれる、国王たち。

 これでも、私は勇者パーティーに必要だ。だから、機嫌を損なわないようにしているんだろう。


 まあ、私が非協力的なら、力付くで従わせることもできそうだ。

 以前の私は単純だったから、流されるままに行ってしまったわけだけど。


「本当ですか? ぜひ、ご相伴に預かりたいです」


 今回私は、彼女たちの好意をありがたくいただく……ふりをする。

 彼女たちが、心の底ではなにを思っているのか、知っているから。


 案内されるまま、料理が用意された部屋に移動して、少し早めの昼食をいただいた。

 さすが王宮のご飯だ、カロ村では味わえなかった料理ばかり。


 ご飯に、罪はない。なので、ありがたく食べていくこととする。

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