第7話 王との謁見
カロ村を出発して、四日目の朝。
私たちの目の先には、大きな壁が見えた。なにかを囲うように、ぐるっと円上に建ててある壁。
それは、王都を囲っている壁だ。あんな大きなもの、どうやって建てたのだろう。
「わぁ、大きな国……」
私は、この国に来るのは二度目……だけど、それは前の時間軸を含めてだ。
そのため、今回は初めて訪れる。
村から出たことのない平民が初めて、大きな国を見たんだ。
初めて見た、っていう雰囲気を出さないと、怪しまれるかもしれない。
「あれが、ロベルナ王国……これから、
ロベルナ王国は、近隣諸国でも特に大きな国のようだ。
この国の王様が、異世界から勇者を召喚して……"神聖の儀"で選ばれた人たちを、各地に迎えに行く。
勇者パーティーのメンバーは、私と勇者を含めて六人いる。
その中に、ロベルナ王国の王女も混ざっている。
「……」
国にたどり着き、大門を通る。門番がいるけど、兵士たちに連れられた私は特に怪しまれることなく国へと入れる。
ま、この髪の色を見て門番が表情をしかめるのを、見逃さなかったけどね。
門をくぐると、そこ先に広がっていたのは、たくさんの人と建物……賑やかな世界。
カロ村とは、まったく違う景色だった。
「うわぁ、すごいんですね」
「ここ、王都は商人の行き来も盛んで、盛況なんですよ」
ロベルナ王国は、商人の行き来にちょうどいい位置にある国だ。
だからたくさんの商人や旅人が来るし、それを目当てにまた人が集まる。
王都パルソア……ここが、私にとって運命を変える、場所と言える。
「このまま、王様に会うんですか?」
「えぇ。国王様にお目通りしてもらい、他の神紋の勇者様が集まるのを、待っていただきます」
異世界から召喚された勇者、この国の王女。……二人はすでに、この国にいる。
私が、残る四人の中で一番早く、この国に来たのだ。
これから会うっていう、国王。初めての時は、そりゃ緊張したものだ。
これまで、小さな村で懸命に生きてきた私が。いきなり王様に会うだなんて。
礼儀作法は、ここに来るまでに兵士に習った。それでも、不安は残るものだ。
「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ。国王様は人柄のよいお方だ、相手が平民でも分け隔てなく、接してくれる」
「……」
この人に、悪気はないんだろうな……だからこそ、質が悪い。
この人は、貴族と平民という身分で明確に差別している。今の言葉が、いい例だ。
私は村を出るまで、貴族だ平民だという差別があるなんて、考えたこともなかった。
この国でだって、"表面上は"そんなことはない。
「ねえ見て、あれ……」
「うそでしょ、あの髪って……」
あぁ、周囲からの言葉が、ちくちく刺さるな。
ひそひそ声に敏感なのは、私が神経質なだけか。それとも、わざと聞こえるように、言っているのだろうか。
聞こえるように言っているのなら、兵士にも聞こえているはず……でも、私を庇う言葉は、出てこない。
注目の原因は、平民の私が兵士と共に馬に乗っているから……ではない。
この紫色の髪……私が、"
「……はぁ」
貴族でも平民でも、関係ない。この髪の色を見て、みんな嫌悪の視線を向けてくる。
前の時間軸では、そもそも陰口に気付いていなかった。なのでこんな気持ちにならず、のんきに街を眺めていたっけ。
それから、人々の視線にさらされつつ、私たちは大きな城の前へ。
「わぁ、大きいですね」
「王都の中心部に位置する、王城です。
さ、行きますよ」
お城の門の前にも、門番がいる。
それも、国の入り口を守っていた門番より、強そうだ。王様が住んでいる場所なら、当然だろう。
馬から降りて、私たちは城の門をくぐり敷地内へ。
首が痛くなるほどに大きなお城は、全体的に白い外壁で塗り固められている。このお城も、周囲の建物も、全部木造だ。
そのせいか、お城の中に入ると少しひんやりする。
中にいた案内係の老人を先頭に、私たちはそのあとを進む。
「こちらが、王の間でございます」
この老人は、私のことを見ても動じることはなかった。
それどころか終始丁寧な物腰で……これが、年の功ってやつなのだろうか。それとも、私にもわからないようにしているだけで本当は……
……なんて考えていても、仕方ない。
開かれる扉。私は、老人に続いて王の間へと、足を踏み入れた。
「国王様。神紋の勇者様リィン殿をお連れしました」
「んん、ごくろう」
兵士に続いて、私も膝をつく。こういうのは、王様から声がかかるまでは顔を上げたり、声を出してはいけないと習った。
それと、話すことは全部兵士に任せ、私は聞かれたことにだけ答える。
しばらく、王様と兵士のやり取りがあり……
「そなたが、リィンか。よく来てくれた」
「は。国王様のためとあらば、どこへだろうとはせ参じる次第」
私を労うような、その言葉……
よく言うよ。迎えを拒否した場合、どうなるかわからないくせに……
「はは、そう身構えなくてもよい。こっちが頼みをしている立場なのだからな。
リィン、面を上げよ」
「はい」
……はじめは、この王様の優しい言葉遣いに、感動したものだ。
王様って言えば、偉そうに玉座にふんぞり返っているものだと思っていたから。
王様の言葉があり、私はゆっくりと、顔を上げる。豪華な椅子に座っている、白ひげを蓄えた、優しそうなおじいちゃんといった印象。
本当なら従いたくもない相手だけど、ここで王様の反感を買えば、どうなるか……最悪、この場で首をはねられてもおかしくない。
そんなことになれば、また死に戻れるのか? それがわからない以上、命を賭けた行動はできない。
というか、戻れるとして、あんな痛い思いは二度と味わいたくない。
「よく来てくれたな。わしは、カロライル・バーナー・ロベルナじゃ。
一応、この国の国王をやっている」
「お初にお目にかかります。私はリィンと言います」
ここで、好印象を抱かせておきたい。
王様は、私を見ても表情一つ変えない。私が"忌み人"であることを、どう思っているのだろう。
……それに……
「あなたが、リィンさんね。わたくしはリミャ・ルドルナ・ロベルナよ。よろしくね」
金色の髪を輝かせ、人懐こい笑顔を浮かべる女が……王女が、王様の隣に立っていた。
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