6〜青色の校章の彼女〜
「本、借りますか?」
おそらく彼女は、璃仁が本の貸し出しで並んでいると思ったのだろう。貸し出し作業を終えたと思っていたところ、予想外にもまだ客がいた、というところか。璃仁は頭の片隅で冷静に彼女について分析をしつつ、もう一方で驚きと動揺を隠せずにいた。
図書委員のその人は、セミロング丈の茶色がかった髪の毛に艶のある瞳と唇が印象的で。なによりその顔に見覚えがあったのだ。
「いえ、大丈夫です……」
言葉と思考が合致しないまま、青色の校章をつけた彼女の質問に答える。
「そう」
璃仁の胸に視線を落とし、緑色の校章を見て相手が自分よりも年下だと分かったためか、砕けた口調で頷いた。それ以上は璃仁に関わろうとせず、返却された本を棚に戻しに行った。
その間、璃仁の頭の中は混乱と驚きでいっぱいだった。彼女が「SHIO」だということは目にした瞬間に分かった。一年前、入学式の日に見かけた彼女の姿を、璃仁が忘れるわけがない。彼女の放つ凛としたオーラは普通の生徒とは一線を画していた。それに、毎日のように彼女の投稿を眺めている璃仁にとって、彼女は二次元から飛び出してきたアイドルそのものだった。
5限目開始の予鈴が鳴り、図書室にいた生徒たちがぞろぞろと図書室から出て行った。璃仁も後に続くべきなのだが、まだ棚の前をうろうろする彼女のことが、どうしても頭から離れない。
話しかけられるなんて思ってもみなかった。ただ、ひっそりと陰から見ているだけで満足だった。でも、もし叶うなら一度だけでいい。彼女と挨拶だけでも交わしてみたいと思ったことは幾度となくある。
気がつけば璃仁は彼女の後を追っていた。図書館の中はそれほど広くはない。それに図書館の構造を熟知している璃仁にとって、彼女の元に行くのは簡単だった。
「あの」
普段、初対面の人に自分から話しかけにいく勇気など微塵もない璃仁なのに、この時ばかりは口が勝手に動いていた。「SHIO」はちょうどつい最近璃仁が読んだ医療ミステリーを文庫本の棚に戻しているところだった。呼びかけられたのが自分だと気づかないのか、彼女は璃仁の方に視線を向けようとしない。璃仁はもう一度深く息を吸って彼女に近づいた。
「すみません」
店員に話しかける客のような構図になってしまったのは否めない。だが、璃仁の諦めの悪さが功を奏したのか、「SHIO」はようやく璃仁の方を振り返った。
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