第4話 義賊入門

スラムのゴミ溜めに捨てられていた俺が拾われ早5年。

俺は5歳になっていた。


捨てられていた俺の手には、「この子の名前は『レイ』訳あって育てられなくなりました。どうかこの子を救って下さい」という紙が握られていたと、俺の父は教えてくれた。


スラムでは割とよくある話だ。

もっとも多くは孤児院か教会へ行くが俺は違った。


 そんな俺を父として引き取り育ててくれたのは、あの雨の日にゴミ溜から俺の命を救い出してくれた命の恩人ともいえる、『イーサ=ネストル』で、彼はこのスラムで活躍している『義賊』だ。


義賊が何をやっているかって?それは盗みさ!

おお~っと慌てちゃいけない。父さんは正義の泥棒なのさ。


この俺たちが住んでいる領地『エリーナ公爵領地』は広い。だから、数人の子爵や男爵が管理を分割している。

その中で公爵には判らないように悪いことをしてる子爵や男爵の屋敷から、不当に巻き上げた住民の血税を奪い返している正義の泥棒なんだ!

でも、父さんは常々言っている。「悪い奴から盗み良いことをしようが泥棒は泥棒だ。お前はまっとうな生き方をしろ!」と。


 でも、俺は5歳になり父さんに言った。「義賊になりたい。僕にも泥棒を教えて欲しい。父さんの!スラムの皆の!役に立ちたいんだ!」と。父さんはとても困惑していたブツブツと「やっぱし俺が育てちゃいけなかったんじゃないか?」などと言っている。


でも、俺は前世の記憶も含めてこんなに誇れる人間はいないと思った。

義理の父でありあがら、俺のことを一生懸命に育ててくれて、人の役に立っている。

俺の理想だ。だから俺は5歳の誕生日の日から父さんが「わかったよ」と折れるまで何か月もお願いをしたんだ。


 「おい、レイ!今日から約束通り義賊になるためのイロハを叩き込んでやる!やるからには妥協はしねぇ!徹底的に教え込むから泣き言いうんじゃねぇぞ!」

「はい!父さん」

「バッキャロー!父さんじゃねぇ!師匠と呼びやがれボケナスが!」

「はい!師匠お願いします」


 それからは特訓の日々だった。

最初は抜き足差し足の練習から始まり、体捌きを覚えるために平民街の市場までいき街行く人の間を誰にもぶつからぬ様に歩くことから始まり、全力ダッシュまで。

気配の消し方を覚えるために場末の酒場へ行き飲んだくれてるオヤジ達の手元から誰にも気づかれずに酒を盗み、水に変え、また酒に戻す等。色々やった。

ぶつかったり見つかったりして、「スラムの餓鬼だから」と言って、ボコボコに殴られることすらあった。

でもそれすらも特訓の一環(どう動けば致命傷を負わないか、どうやればこの状況から逃れられるか、そもそもこの状況に陥った原因はなんだったのかetc.)だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る