第6話 魔門

50……いや、100体か……?!


目の前の光景が信じられないでいた。


街に程近い森に、100体以上のウルフが大発生していた。


バンチョーは斧、エリさんは細剣、ジラさんは僕と同じ片手剣を、それぞれ抜刀していた。


買い直す時間が無く、僕もボロボロの剣を構えた……


魔物討伐は慣れているはずだ……

でもこの数は未体験のものだった。


それでも、ここまで街に近い所に魔物が大発生していて、戦う以外の選択肢などない。


思い出せ……複数を相手する時のスタイル……

ハビトは深呼吸して、剣を上段で構えた。


バンチョー「ほぅ……分かってるじゃないか」

横に並んだバンチョーがそう呟く……


次の瞬間、

「うおぉぉぉ!」

バンチョーとウルフの雄叫びが交差する!


大振りの斧を軽々と振り回し、ウルフを次から次へと薙ぎ払っていく、この人は強い、いや、強すぎる。


エリさん、ジラさんも背後に見える街を守るためか、陣形を組みつつバンチョーから漏れたウルフを仕留めていく。


ウルフを確実に仕留める技術と、連携も的確。

もうこれ、3人だけで良くないか?と思いつつも、ハビトも負けじと足を進める。


来た!

ウルフは基本的に飛びかかるか、牙を剥き出しで突進してくるしか能がない。


上段斬りで脳天から斬る!

4足歩行の魔物に対しての、最適な戦闘スタイルだ。


ギャイン!と断末魔をあげて倒れていくウルフ。

エリ「しまった!」

ウルフを2体取りこぼしてしまうエリさん。

バンチョー「ハビト君! 追ってくれ! 頼む!」

ハビト「任せてください!」

そう叫ぶとハビトは街方向へ走るウルフを全力で追いかけた!


くそ! このままじゃ追いつかない!

それなら……


ハビトは走りながら剣を持ち換え、槍投げのように前を行くウルフに投げつけた!


鈍く突き刺さる音、1体仕留めた!


しかし、勘付いたもう1体が動きを止め、ハビトに対して牙を剥いた!


やばっ! 丸越し……


ウルフは魔物だ、待ってなどくれない。


素手でも戦える……そうだ僕はあらゆる状況下でも戦ってきた。

あの剣が特に性に合ってただけのことだ。


こちらを向いて唸りを上げるウルフ。

動きの速いウルフとの距離を的確に掴むには、

ハビトは左手を前に出し、手を広げた。

自分のリーチとウルフとの距離をこれで図る。

鋭くおぞましい牙を剥き出しに突進してくるウルフ、

集中して距離を見計らう……

ここだ!


渾身の右ストレート!


革と骨だけのウルフの頭部から、重く鈍い音がする、ハビトのパンチが炸裂していた!


やれる!

そう思った瞬間だった。

怯まず突進してきたウルフに思いっきり頭突きを腹に受けてしまった!


ぐほっ……!

旅衣装で軽装だった体に直撃は痛すぎた!


だが、このまま落ちる訳には行かないんだ!!

右足で踏ん張り、追撃の左フック!

さっきとは逆の頭部を殴られて吹っ飛ぶウルフ、これで鞭打ちとなっていずれ倒れる……だろう……

ウルフを仕留めれたかどうかを見終わらず、ハビトはその場に倒れ伏した……

腹への突進で内臓をやられていたのだ。


立って……魔物を……倒さな……いと…………


あぁ……まただ、また僕は死にそうなのか……

異国の地で……これで良かったのかもしれないな……


薄れゆく意識の中、またしても幻覚を見た気がした……


女性らしき冒険者の集団が、僕が仕留め損なったウルフにトドメを差している……


ここまででハビトは完全に意識を失った……


小柄な女冒険者「あらら〜間に合わなかったかな?」

獣人の女冒険者①「気絶しているだけみたい」

獣人の女冒険者②「あとは救護班に任せて殲滅しましょ」

人族の女冒険者「そ、そうだね……」


あれ?


人族の女冒険者は、倒れたハビトの頭の布が、解けかかっているのに気付いた。

人族の女冒険者「この人……」

ハビトに隠された真実に気付いた。


小柄な女冒険者「お〜い置いてくよ〜マイ! ウルフはまだいっぱいいるんだからね!」

マイと呼ばれた女冒険者「あ、待ってよー!」

咄嗟にハビトの頭の布を元に戻し、その場を後にした……


その後、無事討伐を終えたバンチョー達に発見され、ハビトは生還した……



つづく。

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