第16話 考えていなかったのかよ

「ジンさん、少しいいですか」

「ああ、いいぞ」


 昼食を食べ終わった後にアルはジンに声を掛けると「お願いがあります」と告げてから話を続ける。その内容は凄く単純シンプルなもので、ジンの元で強くなりたいとうものだった。だが、ジンは嘆息するとアルの顔を見ながら話す。


「まあ、アルがしたいことは分かった」

「では「まあ、待て」……ですが」

「だから、気持ちは分からないでもないが、お前はまだ病み上がりだ。さっきも言ったがお前が焦る気持ちもなんとなく分かる」

「なら「だから、焦るな」……はい」


 ジンはふぅと嘆息すると、アルの気持ちは分かったが、先ずは出すモノを出してからだと言う。


「まあ、そういう訳だ。だが、出したからって俺に見せる必要はないからな」

「しませんよ!」

「そうか。そっちのお嬢さんも一緒だ。それともうは止めてもいいんじゃないか。というか、止められるのなら止めて欲しい」

「僕に命令するのか!」

「ハァ~面倒くせぇ。これは命令じゃない。単なるお願いだ」

「イヤだ! 僕は僕だ!」

「そうか。なら、お前はアルに愛していると言われたらと応えるのか? それってある種の人しか萌えないと思うがな」

「ば、バカを言うな!」


 ジンが揶揄う様にオフィーリアに言えば、オフィーリアの顔がみるみる内に赤くなり、つられてアルも赤くなる。


「あ、アルもそう思うのか?」

「ん~そうだね、出来ればフィーには止めて欲しいかな。だって、それだけ綺麗なんだから勿体ないよ」

「そ、そうか。アルが言うなら、考えなくもない」

「うん、ありがと」

「ふふふ、いいですね。初々しくて」

「エミリアにも覚えがあるのか?」

「ありますよ。ですが、私の場合はお相手の方が私の好意を全て跳ね返すものですから、多少挫けそうになりますけどね」

「そ、そうなんだ」


 アル達の様子を見たエミリアがはぁと溜め息と共にジンを見ながら、そう言えばジンもエミリアが何を言いたいのか分かってはいるものの、エミリアは妹なんだからと自分に言い聞かせる。


「私のことはいいですが、オフィーリアのお願いはいいんですか?」

「そ、そうだった。ぼ……私の願いも聞いて欲しい!」

「どうせ、言い寄ってくる婚約者候補をどうにかして欲しいとかそういう類だろ」

「な、なんで分かる?」

「お! 当たりか」

「だから、なんで分かったのかを聞いている!」

「なんだよ。急にお姫様になりやがって。まあ、なんでかはアルだ」

「僕?」

「ああ、姫様と護衛騎士が一緒になって逃げているんだ。そのくらいを予想するのは難しくない。あと、護衛騎士と一緒に逃げるならエルフの国が乱れているとか、戦火に晒されているとかを考えるが、そういう話も聞かない。だから答えはおのずと一つになる。だろ?」

「ええ、その通りです」

「アル!」

「フィー、僕はジンさん達に嘘を付くことは出来ない」

「でも……」

「安心しろ。俺がお前達をどうこうすることはない」

「だってさ、フィー」

「……分かったわよ」

「おいおい、そうじゃないだろ」

「そうね。アル君なら分かるんじゃない?」

「あ、そうですね。ジンさん、エミリアさん、これからよろしくお願いします」

「あ、アル?」

「ほら、フィーも」

「分かったわよ。お願いします。これでいいんでしょ」

「ったく。アル、やっぱり縁切りするなら早い方がいいぞ」

「……」

「ちょっと! アルも何を悩んでいるのよ。そんな必要はないって即答しなさいよ」


 オフィーリアのお願いに対しジンが容易に当ててみせれば、オフィーリアは焦るがアルはジン達を頼りにする以上、嘘は付きたくないと態度を改め、お願いしますと頭を下げる。オフィーリアも渋々と頭を下げるのを見て、ジンはアルに縁切りを勧める。


「オフィーリアよ。俺は冗談じゃなくアルの為を思って言っているんだ」

「どこがよ!」

「じゃあ、聞くがな。お前が国に戻った場合、アルはどうなる?」

「どうなるも何も私の護衛騎士に決まっているじゃないの。バカなの?」

「ほう、そうか。お前の国ではお姫様を国外に連れ出した男を無罪にするのか?」

「え……あ!」

「やっと分かったか。お花畑の頭でも少し考えれば分かることだろ。それにな、お前もそのままって訳にはいかないだろうな。よくてそのイヤなヤツとの婚姻か、幽閉だろうな。まあ、アルがどう考えていたかは分からないが、護衛すべき姫であるお前が無茶してなんとしてでも国外に出ようとするのは分かっていたんだろうな。ならば、自分を犠牲にしてでもとか考えて、ここまで来たんだろうよ。ホントに大した男だよ」


 オフィーリアはジンが言った内容を頭の中で反芻し、理解すると共に自分がしたことでアルに取り返しのつかないことをしてしまったことも理解する。


「アル……ホントなの?」

「フィー、そうだね。フィーがあんなヤツの元に嫁がされるのはイヤだったけど、イチ護衛騎士の立場じゃモノが言えなかった。でも、フィーが国を出るって言うから、僕はそれを手伝った。もし国からの使いに捕まったらどうなるかを考えなかった訳じゃない。でも、それよりもフィーが自由になるのを手伝いたかったんだ」

「アル……ごめんなさい! 私が……私がワガママを言ったばかりに……グスッ」

「フィー、泣かないで。僕は自分で選んで大好きなフィーと一緒にいるんだから。ね」

「アル!」


 アルに抱き着くオフィーリアを見て、エミリアが「羨ましい」と呟きジンを見るが、ジンは気付かない振りをしてアル達に声を掛ける。


「でだ。話は変わるがお前達は奴隷商に追われているのは分かるか」

「え?」

「なんで? 逃げられたハズじゃ」

「そうか、知らなかったか。お前達があの街にいたこと、そして俺が連れていることは知られていると思った方がいいだろうな」

「じゃあ、ここに居たら捕まるんじゃ……アル! 早く逃げましょ」

「フィー、落ち着いて。それに逃げるにしても僕達はまだ快復していないじゃない」

「あ……」

「それにこの森のことは知っているでしょ。僕達の力じゃ無理だよ」

「なら「だから、落ち着けって」……はい」


 ジンがアル達に奴隷商に執拗に追われていることを説明すれば、オフィーリアは途端に焦り出すが、アルは反対に落ち着いている。そんなオフィーリアをジンが一喝して黙らせた後に自分達が住んでいる家と、その周辺について説明するからと言うと誰かを呼び出す。


「って訳で出番だ。アリー、聞いているんだろ!」

「は~い、呼んだ?」

「「え?」」

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