第15話 俺には関係のない話だ

 ジンを睨み付け、待てない理由が自分達にはあるんだと声を荒げるオフィーリアとそれをなんとか宥めようとするアルフレッドことアルに対しジンは面倒くせぇなぁと言いながらも口角の端を上げニヤリとする。


「待てない理由ってのは、第五王女としての立場からか?」

「そうよ!」

「ちょ、ちょっとフィー、止めなよ」

「何よ! アル、止めないで! 確かに助けてくれたことには感謝しているわよ。でもね、待てないのはアルも分かっているでしょ!」

「ハァ……フィー、その前に自分が何を言われたのか分かっているの?」

「何がよ」

「だから、自分が第五王女だってことが知られていることに関してはどうなのってことだよ」

「な、何を言い出すのよ! いくら、アルでも僕の身分を明かすのはダメでしょ!」

「いや、だからね。ソレを言ったのは僕じゃなくて……」

「え?」


 オフィーリアはジンが自分を小馬鹿にしていると感じ、激昂した様子でジンに食ってかかるが、アルがそれを止める。しかし、オフィーリアはアルが止める理由も分からずに更に食ってかかろうとしたところでアルがオフィーリアに自分がだと知られたのはいいのかと言えば、オフィーリアはアルに対し自分の身分を明かしたことを注意するが、アルは自分じゃないと首を横に振り、ジンを指差す。


 ジンは、その様子を見てから「『エンディリア国』の第五王女のオフィーリア、それの護衛騎士のアルフレッドだろ」と言えば、二人は「あ!」と言ったきり口を閉ざす。


「だから、ジンさんは鑑定える人だと言ったでしょ」

「でも、普通はそんな詳細な鑑定は出来ないハズでは……」

「いや、出来てただろ?」

「……はい」


 エミリアが不思議そうにしているアルにジンが鑑定出来ることは話していたでしょと言うが、アルが知っている鑑定では、物の鑑定は出来ても人に対しては出来ないものだと聞いていた。それを言えば、ジンから「出来ただろ」と言われれば肯定するしかない。


「しかしな、一つ俺からも質問してもいいか?」

「そんなの鑑定ればいいじゃない。どうせ、全部分かっているんでしょ」

「まあな。でもな、それでも鑑定えない物は鑑定えない」

「そうなんですね。分かりました。この際です。なんでも聞いて下さい」

「そうか。なら、聞かせてもらうが、なんでアルフレッドはアルと多少なり名前は変えているのに、そっちの僕っ娘は本名なんだ? 普通なら、身分の高いオフィーリアを優先して考えれば、本名を名乗るなんて有り得ないだろ」

「あ……」

「ハァ~それはですね……」


 ジンの質問に対しオフィーリアは顔を真っ赤にして俯き、アルはそれを見て嘆息してから話し始めた。アルはオフィーリアに対し名乗る際にはフィーと名乗る様に言っていたのだが、ジンと会った時には側にアルがいなかったことからオフィーリアはそれを失念し、ジンに本名であるオフィーリアと名乗ってしまったということらしい。


「色々、苦労しているんだな。アル」

「分かってもらえますか」

「ああ、分かるぞ。いっそのこと、そういう面倒ごと全部を放り出すのも一つの手だぞ」

「放り出す……」

「人のことを面倒ごとって……アル! ダメよ、その人の言うことなんか信じちゃダメよ!」

「アル。よく考えるんだな。お前、このままじゃ二十代前半で白髪のツルッツルだぞ」

「ツルッツルですか……」

「嘘よ! アル、耳を塞いで!」

「……」

「アル? 嘘よね。僕達、二人でここまで来たんでしょ。ねえ?」

「ハァ~面倒くせぇなぁ」


 ジンはアルを見て、今までこの僕っ娘オフィーリアに振り回されて来ただろうと安易に推測出来た。だから、アルに対しこのままじゃ心労が祟り、やがては心が潰されて白髪頭になり、終いには完全に抜け落ちるだろうと言えば、オフィーリアがアルに対しジンの言葉に耳を貸さないようにと腕を取るが、アル自身は腕を組み顎に手をやり、ジンからの言葉を自分なりに考えを纏めているようにも見える。


 そしてジンはそんな二人を見て頭を掻きながら面倒くせぇなぁと呟けば、昼の用意を終えたエミリアが出来たての昼食を並べる。


「はいはい、そういう話はお昼を食べてからでもいいんでしょ」

「まあ、そうだな」

「おひるぅ~」

「……たべる」

『ガウ!』

『ピ!』

「あ、クロとライムのご飯を用意しないとね。ちょっと待っててね」


 エミリアがお昼が出来たと皆に声を掛ければ、クロに遊んでもらっていたリルルとノエルの幼女二人組がトテトテと小走りでジンの元へと近寄れば、ジンの足に「よいしょ、よいしょ」とよじ登る。


 ジンはそんな幼女二人が定位置に着けば「ま、いっか」と呟き「いただきます!」と声に出す。すると皆も両手を合わせ「いただきます!」と言い目の前の昼食に手を伸ばす。


「アル、ずっと一緒だよね? アル?」

「……」


 昼食を前にして、アルはずっと考え込んでいるようだ。そして、そんなアルを不安そうに見ながらもオフィーリアは昼食を手に取る。

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