第10話 学ぶことにしました

「ふふふ、じゃあ言っちゃおうかなぁ」

「「……」」


 イタズラな目付きでオフィーリア達を見ながら、エミリアがそう囁けば二人からは『ゴクリ』と生唾を呑み込む音が聞こえる。


「じゃあ、その前に……」

「「?」」


 エミリアが話すのを待っていた二人をエミリアは陽光に対し背中を向けるように立ってもらうが二人は自分達がさせられていることがなんの意味があるのか分からず、エミリアに対し質問しようとしたところで逆にエミリアからは「まだ分からない?」と質問されてしまう。


「「え?」」

「ほら、もう答えは出てるのよ」

「「へ?」」

「兄ちゃん達、変なの」

「変だね」

「変だよ。だって、耳が長いもん!」

「「! ……」」


 エミリアは二人が子供達にエルフであることを見破られあたふたしている様子を可笑しそうに見ているが、当の二人は耳を抑えながら「なんで、なんで」と繰り返す。


「嘘よ! 子供達にまでバレるような『擬装カムフラージュ』ではないわよ」

「だけど、実際にはバレバレだね。それにエミリアさんは答えは出ているって言ってたよね?」

「でも、僕もアルもまだ『擬装カムフラージュ』は掛かったままよ」

「……確かに」


 オフィーリアとアルは互いの顔を見てしっかりと長い耳ではなく普通の人族の耳の形に見えることから『擬装カムフラージュ』が掛かったままなのを確認する。


 アルはエミリアのが引っ掛かっていたので、それが何なのかを思案しながら、ふと地面を見ると「あ!」と思わず声を出してしまう。


「どうしたの、アル?」

「フィー、確かに答えは出てたんだよ。ずっとね」

「え? どういうことなの?」

「ほら、これがだよ」

「何? 地面がどうしたの?」

「そうじゃなくて、よく見て」

「もう、ちゃんと言って貰わないと分からないわよ! ん……あ!」

「分かったみたいだね」

「うん……」


 アルに言われオフィーリアが地面を見れば、オフィーリアとアルの頭の横から何や長いものが飛び出している影がそこにあった。


「ふふふ、答えは見付けられたみたいね」

「はい……」

「でも、あんなの普通は気付かないわよ!」

「あら、私は気付いたわよ?」

「くっ……」

「フィー、止めなさい」

「でも……」


 エミリアが揶揄う様に二人に声を掛ければ、アルは素直に返事をするが、オフィーリアは認めたくないのか苦しい言い訳をするが、エミリアには意味がなかった。それにオフィーリアは自分が掛けた『擬装カムフラージュ』を簡単に見破られたことがただただ悔しかった。


 そんなオフィーリアにエミリアが声を掛ける。


「そんなに悔しいのなら、ちゃんと習えばいいのよ」

「「え?」」


 悔しがるオフィーリアにエミリアは軽く「習えばいい」と言い、言われた二人は思わず聞き返してしまう。


「そんなに不思議なことじゃないでしょ。擬装カムフラージュが不完全なら、それが完璧になるように練習すればいいだけの話しでしょ」

「いや、でも……」

「フィー、どうやら僕達が知っている魔法形態とは色々違うみたいだから、エミリアさんに習った方がいいんじゃないかな」

「アル……」

「纏まった?」

「はい、お願いします」

「お願いします!」

「ふふふ、分かりました」


 エミリアは二人からのお願いを聞き入れ、ちゃんと教えるのは幼女二人を含めた四人の体調が快復してからと言うと、子供達と一緒に「お昼の準備をしましょうね」と家の中へと入る。


 冒険者ギルドに入ったジンは「ジュリア……ん?」と受付カウンターに座るジュリアを見付け、声を掛けたところで回りにいる冒険者達がジンに注目する。


「なんだよ。面倒くせぇなぁ……」

「あ、ジンさん! 約束通り来てくれたんですね。じゃあ、少し早いですけどお昼ランチでも食べながら、お話しましょうか」

「は? 何言ってんだ。俺は昨日のことで呼ばれたんだぞ。メシは帰って食うからいらない。それより用があるなら早く済ませてくれ。面倒くせぇ」

「もう……」


 あわよくばジンと一緒にお昼ランチでも食べたいと企んでいたジュリアの思惑はけんもほろろにジンに一蹴され、隣にいる同僚はそれを見て笑いを堪えるのに必死だ。それに気付いたジュリアは頬を膨らませ不機嫌アピールするが、ジンは「早くしてくれ」と言う。

 ジンのそんな態度にジュリアはあざといアピールすら一蹴されてハァ~と俯き嘆息してしまう。

 そして同僚達はと言えば「もう、辛抱堪らん!」とお腹を抱えてカウンターをバンバン叩く。


 ジンはカウンターの向こう側で何が行われているのか全く分からず、どうでもいいから早く用事を済ませてくれないかなと思っていると、奧の方でギルマスがジンに対しちょいちょいと手招きしているのに気付く。


 それに気付いたジンは、一応自分なのかと自分を指差してギルマスに確認すればギルマスは黙って頷く。


「分かった。ジュリア、またな」

「あ、ジンさん……」

「「「ぷっ……」」」


 ジンがギルマスに呼ばれギルマスの執務室へと行くのを見ているジュリアの隣では同僚達が口を抑え笑いを堪えている。それをジュリアはキッと睨み付けるが、同僚に肩を叩かれ「ファイト!」といい笑顔で声を掛けられハァ~と俯いてしまう。


「手続きならカウンターじゃないのか?」

「まあ、そう言うな。先ずは座れ」

「ったく……」


 ギルマスに促されジンがソファに座れば、体面にギルマスが腰掛ける。


「で、何?」

「そう、急くな。昨日の報奨金はいつも通りにギルドの口座に振り込んでおいた」

「なんだよ。なら、来る必要なかったんじゃないか」

「まあな。普通ならここギルドで昨日捕まえた『ゲパルツ団』の捕獲証明書なり色々と手続きをしてもらうつもりだったんだがな……」

「何かあったのか?」

「まあな。まだ、公表はされていない話だが、ハァ~」

「聞かない方がいい話か?」

「いや、知っておいた方がいいだろ。実はな……」

「えぇ~何それ。面倒くせぇ」

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