第9話 認めたくはない

「おっと、忘れるところだった。ギルドに行かなきゃだったわ。あ~面倒くせぇなぁ」

「ジン兄、出掛けるの?」

「ああ、ちょっとギルドまでな」

「いつ帰るの?」

「あ~すぐだ。すぐ!」

「お土産あるよね?」

「お前達次第だな」

「「「ケチ!」」」

「文句言う前にエミリアの言うこと、ちゃんと聞けよ」

「「「は~い!」」」

「じゃな……」


 ジンがゲートを目の前に出現させると、アル達は「あっ!」と声を上げたので、ジンはゲートを消し「どうした?」と二人に向き直る。


「あの……」

「ん?」

「それ、魔法ですよね?」

「ああ、そうだが。それが?」

「いやいやいや、みたいに言ってますけど、そんな簡単なもんじゃないでしょ!」

「は? お前は何を言いたいんだ?」

「フィー、そんな風に言っちゃダメだよ」

「でも……」

「まあ、気持ちは分からないでもないけど、まずは落ち着こう」

「ごめん、アル」

「謝るなら、僕じゃないでしょ」

「ごめんなさい!」

「いや、いいんだけどよ。何が問題なんだ?」

「それは……」


 ジンが魔法を使って見せたところでオフィーリアがジンに対し何故か憤る。アルはそんなオフィーリアをなんとか宥めてジンに対し謝罪させてから、何に対して怒ったのかを説明する。


 オフィーリアが言うには、ジンの様に呪文スペルを唱えることなく魔法を発動させることは有り得ないし、ましてや発動を促す杖も使っていないことに対し魔法に一家言あるオフィーリアとしてはジンの魔法の使い方に対して「巫山戯るな!」と言いたくなったと言うことらしい。


「なんだ、そんなことか」

「そんなことって、言うけど誰もがしたくても出来ないことをあなたは……ジンさんは、まるで当たり前の様に魔法を行使しているのが信じられないのよ!」

「いや、信じられないと言われても、出来るし……ほら、な?」

「だから、『な?』って言われても『はい、そうですか』って受け入れられないの!」

「でも、俺達も出来るぞ」

「へ?」

「俺も!」

「俺もほら!」

「えぇ!」


 ジンに対し見当外れな物言いをするオフィーリアに対しジンは無造作に小さな火球ファイアボール右手の手の平の上に出してみせるが、オフィーリアはそれでも受け入れられないと地団駄を踏んでいる横でギルが俺も出来ると水球ウォーターボールを無言で出して見せれば、ビル、ジルも「ほら!」と同じ様に水球ウォーターボールをオフィーリアに出して見せれば、アルも驚くしかない。


「嘘よ……嘘よ。これが現実なら僕が今まで信じて習ってきたことはなんなの!」

「フィー、気を確かに」

「アル! アルは平気なの?」

「平気……とは言えないけど、子供達まで使っているのだから、そういうモノだと理解するしかないだろ」

「でも……」

「あぁ言いたいことは分かった。なら、お前達もギル達と一緒に習えばいいだけだろ」

「「へ?」」

「「「仲間だぁ!」」」

「「え? えぇ!」」

「じゃ、後は任せたぞ。エミリア」

「はい、いってらっしゃいジンさん」


 まだ何か言いたそうなオフィーリアに対しアルは現実を受け入れるしかないと説得を試みるが、オフィーリアはまだ何か納得出来ないでいるとジンが一言「一緒に習えばいい」と言えば、ギル、ビル、ジルの三人が二人を歓迎する。いきなりの展開に二人が戸惑っているとジンはゲートを出し、いつの間にかそこにいたエミリアに「後は任せた」とゲートの中に消えて行く。


「「……」」

「では、そういうことで、お二人もいいですか?」

「あの、習うと言うのは?」

「習って出来るモノなんですか?」

「出来ますよ。ほら、この通り」


 エミリアは右手に水球ウォーターボール、左手に火球ファイアボールを出せば二人は目を見開いて凝視する。


「ふふふ、練習あるのみですよ」

「「……はぁ」」

「姉ちゃん、頑張るんだぞ」

「最初はキツいけど、そこさえ乗り越えられれば大丈夫だから」

「エミー姉ちゃんは厳しいから……」

「ジル!」

「な、なんでもないです!」


 エミリアの言葉に二人は気の抜けた返事をするが、ギル達は口々に二人に対し励ましのエールを送るが、ジルの言った言葉に少しだけ後悔してしまう。


「まあ、今日今すぐには無理でしょうね。先ずは体調を整えてからにしましょうか。ほら、あなた達も手を洗って、ライムお願いね」

『ピッ!』

「「「ライムさ~ん、お願い!」」」

『ピピッ!』

「「えぇ!」」


 子供達五人がライムと呼ばれるスライムの体の中へと両手を突っ込む。それを見たオフィーリア達二人は驚愕するが、エミリアが何も言わないので危険はないのだろうと納得するしかないが、どういうことだろうかと思案しているとエミリアが説明してくれた。


「ふふふ、何も心配はいらないのよ。ああやって、皮膚の表面に付いた細かな汚れをライムに食べてもらっているだけだから」

「いや、でも……」

「だから、ライムは何もしないって説明したでしょ。ね、ライム」

『ピッ!』

「ほら、ね?」

「「はぁ……」」


 エミリアの説明になんとか納得は出来たが、でも魔物だしと言おうとした二人に対しエミリアがライムに声を掛ければライムが敬礼の仕草をして見せる。


「なんだろ。なんだか色んなことがあり過ぎて整理出来ないよ」

「フィー、無理せずにゆっくり進めよう。僕達には……」

「そうね、アル。何も焦ることはないのよね」

「あら、纏まったの? それにあなた達はエルフなんだから、時間的余裕があるでしょ」

「あ、はい」

「え?」

「アル、どうしたの?」

「フィー……もしかして話したの?」

「ん? なんのこと?」

「だから、僕達がエルフだと言うことだよ!」

「アル! そんな大声で言ったらダメでしょ! 私達がエルフだなんて……あれ?」

「どうやらフィーは言ってないみたいだね」

「そうね。その子は何も話してないわよ」

「なら、どうして僕達がエルフだと分かったんですか!」

「ふふふ、知りたい?」

「「……」」


 朝から色々なことがあり過ぎて頭の中の整理が追い付かないとオフィーリアが言えば、アルが焦らずにゆっくりと言えばエミリアがなのだからと声を掛ける。


 するとそれに対しアルが反応し、まさか自分がベッドで横になっている間にオフィーリアが話してしまったのかと責める様に聞けば、オフィーリアもという単語に焦った反応を見せたことでアルはオフィーリアが話していないことは確信出来た。


 だが、ならばなぜ自分達がエルフであることが判明したのかと目の前にいるエミリアを見れば、彼女は右手の人差し指を顎に置き「知りたい?」と聞いてくるので二人は無言で頷く。

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