第8話 今いる場所は?
『ゲフッ……』
「おわった?」
「……空っぽ」
クロがボウルから顔を上げ、軽くゲップをすると満足そうにペロリと口の周りを舐めた後にペロペロと前足を使い顔を洗っていると、クロが食べ終わるのを待っていた幼女二人は、もうこれ以上待ちきれないとクロに飛び付く。
「あ……」
「もう、無理だよ。フィー」
「でも……」
「ジンさん達が言うように、あの魔獣は僕達に害を与えるつもりはなさそうだよ。ほら」
「……」
アルが言うようにクロは自分の体に纏わり付く幼女二人に好き勝手にさせている。オフィーリアは幼女二人に食事中には側に寄らないようにとしっかりと抱きしめていたのだが、クロが食べ終わるのを確認した幼女二人はオフィーリアの手を振りほどいてクロへと突進して行くのを見ているしかなかった。
そして、アルはクロから大分離れた位置にボウルを置いただけだというのに何故かドッと疲れてしまい、少し不安げなオフィーリアの向かいに腰を下ろす。
「ふぅ~ん? なんか柔らかい物が腰に当たっている……クッションなのかな。でも、気持ちいいから「アル!」……え?」
「ジッとしてて!」
「え?」
「いいから、動かないで! お願い、ジッとしてて……大丈夫だから、僕がなんとかするから!」
「え? フィー……」
アルはオフィーリアが何を慌てているのか分からないが、腰に当たっている柔らかいクッションの気持ちよさにふぅ~と思わず目を細める。
「「「ライムさ~ん!」」」
「あら? ライム。呼んでるわよ」
『……』
「「え?」」
玄関の向こうから子供達が誰かを呼んでいる声にアルはまだ自分が会っていない、この家の住人がいるのかとキョロキョロと回りを見渡すが、『ライムさん』と呼ばれる人物は見当たらない。
そしてオフィーリアはまだアルの背中辺りを凝視している。そして、エミリアが「呼んでますよ。ライム」と言えば、アルの背中からスポンと何かが飛び出したと思ったら、その物体は床の上でプルプルと震えている。
「「えぇ!」」
「あら、ライム。そんなとこにいたのね。ほら、お外で呼んでいるわよ」
『ピッ!』
エミリアがライムと呼んだその物体は半透明のゼリー状でプルプルしており、大きさは直径三〇センチメートル程の半球状をしているそれは、どう見てもスライムその物だったのだが、アル達が知っているスライムとは少し違っていた。
そしてライムと呼ばれたスライムらしき物体はエミリアに対し触手を使って敬礼の様な動作をすると、玄関扉の隙間からニュルッと外に出て行った。
「え?」
「あ、アレは……」
「そ! スライムのライムよ。あの子も特にあなた達が心配するようなことはしないから、大丈夫よ」
「いや、でも……」
「そうですよ! だって、魔物でしょ! 何が大丈夫なんですか!」
アルは自分の背中にあったクッションだと思っていたのが、実はスライムだったことに驚くが、問題は自分達が知っているスライムとは形状が異なることと、スライムがエミリアの……人の言葉を理解しているように見えたことだった。
そして、エミリアはクロと動揺に人に危害を加えることはないと言うが、
「ひっ……」
「もう、ほら。あなたがバカにするからでしょ。分かっていると思うけど、クロも人の言葉を理解しているわよ」
「「え?」」
『ガウ!』
「ね?」
「「へ?」」
エミリアの言葉にクロが返事をするとアル達二人は驚くと同時にあることが気になる。
「あの……」
「何?」
「一体、ここは……」
「あれ? ジンさんから聞いてないの」
「はい。全く……で、ここはどこなんですか?」
「そうね。外に出れば分かるかもね」
「「はい?」」
「そういうことだから、ね?」
アル達は何が「ね?」なのか分からないが、エミリアの言うことも一理あるかと玄関を開き家の外へと一歩踏み出せば、そこには木々が生い茂っていた。
「「えぇ!」」
「ん? どうした?」
「あ、あの……ここはどこなんですか?」
「ここか。ここは『シュベリの森』のほぼ中央部分だな」
「「しゅべりのもり?」」
「ああ、そうだ。知らないか?」
「ん~聞いたことが……あるようなないような」
「あぁ!」
「アル?」
家の外に広がる木々を見て、ここがジンの言うように森の中であることは疑いようがないのは分かったが、ジンが言う『シュベリの森』という呼称は聞き覚えがあるようなないようなオフィーリアだったが、アルはどこかで聞いたことがあるようで、それがなんなのかをハッキリさせようと眉間に皺を浮かべ必死に思い出そうとしている。そして、それがなんなのかをやっと思い出したのか、いきなり声を上げる。
「どうしたの?」
「オフィーリア、ヤバいよ」
「ヤバいって何が?」
「ほら、アイツらが言ってただろ。『絶対にシュベリの森には入るなよ』って」
「あ……」
二人は今自分達がいる場所がどんなところなのかを理解したようで、急に顔が青ざめる。
「なんだよ。ぐっすり眠れただろ」
「はい……それはそうですが……」
「ここっていわゆる『魔の森』と呼ばれている『シュベリの森』なんでしょ。それもほぼ中央って……どう考えてもヤバい所でしょう!」
「まあな。だから、安全とも言える」
「「え?」」
アル達は自分達がどんなに危険な場所にいるかを理解したが、それと同時にジンが言うように昨夜は何もなくぐっすりと眠れたことも事実だ。そして、ジンが言う安全の意味が分からず二人の頭には大きな疑問符が浮かんでいる。
「なんだよ。分かんねぇか?」
「「はい。ちっとも……」」
「ハァ~なんだよ。面倒くせぇなぁ」
「「すみません……」」
「あ~別に謝る必要はないぞ。お前達、向こうの柵は見えるか?」
「柵?」
「ああ、そうだ。見えるか?」
ジンに言われ二人はジンが指を差す方向を見るが、柵らしき物は見当たらない。
「ジン兄、無理だよ」
「無理?」
「そうだよ。だって、ここから遠いよ」
「そうか?」
「そうかじゃないよ。ジン兄、三キロはあるからね」
「「三キロ……」」
「アレが見えないか。まあ、見えない方が幸せかもな」
「「「確かに!」」」
ジンの無茶振りにギルが無理だといい、ビルはその理由をここから遠いからだと教え、そしてジルがそこまで三キロあるからだと言えばアル達は驚愕するが、ジンはそれならそれで見えない方がいいだろうなとギル達はそれを肯定する。
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