第7話 ビビリじゃないし!

 既に幼女二人の定位置となったジンの両膝の上でうとうととし始めた幼女二人をどうしようかと思案していたジンの耳に玄関扉を『カリカリ』と引っ掻く音が聞こえたので、ジンはエミリアに頼むと言えば、エミリアが頷き玄関に向かおうとしたところで「あ!」と何かを思い付いた様な顔になり、でアルにちょっとと頼む。


「はい?」

「エミリア」

「大丈夫なんでしょ?」

「大丈夫ってなんですか?」

「いいから、ほら! 早く出て!」

「ホントに大丈夫なんですよね?」

「大丈夫だ。多分な……」

「多分ってなんですか!」

「もう、いいから。ほら、相手も待ちきれなくなってるでしょ! はい!」

「あ、ちょっと……」


 エミリアの企みに気付いたジンがエミリアを咎めるが、エミリアはジンに対し大丈夫なんだからと言い返すが、それを聞いたアルは急に不安が沸き上がってくる。


 だが、エミリアが言うように扉の向こうでは不機嫌そうに『カリカリ』と引っ掻く音が少しだけ強くなったような気がしたアルは、ビビリながらも玄関扉を「どちら様ですか?」と内側に開くと、そこにはいなかったのだが、いなかったのは人でアルが開けた隙間からノソリと大きな黒豹が体をスベらせ家の中へと入って行く。


 アルは恐怖のあまり動けなかったのだが、直ぐに意識を取り戻し「フィー!」と家の中を振り向けば、さっきの黒豹がジンの足下にごろりと横たわり、ジンの膝に顎を乗せ嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「「え?」」


 アルだけでなく、アルの様子を不安気に見ていたオフィーリアもその様子に驚愕しているとジンから声を掛けられる。


「アル! ぼぉっとしてないで、玄関の外に置かれている獲物をエミリアに渡してくれ」

「は、ハイ! えっと……え?」


 ジンに言われ、アルが玄関の外に目を向ければ、そこには少し大ぶりな野鳥が五羽とボアと呼ばれる猪型の魔獣が横たわっていた。


「え……」

「あ~まだ無理か。エミリア、悪い」

「はい」


 ジンに言われてエミリアが玄関に向かうと「あ~ジンさん、大物がいます。お願いしますね」と声を掛ければ「あぁ? 面倒くせぇなぁ」と幼女二人を膝から下ろすと幼女も目を擦りながら「ん?」と目の前の黒豹に驚くが、次の瞬間には「ねこちゃん!」と床に寝転がる黒豹に飛び付く。


 ノエルも「……ねこ」とボソッと呟くと「……むふぅ」と、そのモフッとしたお腹にダイブする。


「リルル! ノエル! 離れなさい!」

「危ないわよ! こっちに来なさい!」

「「やぁ!」」

「嫌じゃないでしょ!」

「大丈夫だ」

「「へ?」」

「アイツも家族だ。なあ、クロ」

『ガウ!』


 黒豹に飛び付いた幼女二人にオフィーリアとアルはソファの陰から幼女二人に黒豹から離れるように言うが、幼女二人は黒豹のモフモフを堪能したいのか二人に対し「嫌!」と言う。オフィーリアはそんな幼女二人を窘め「危ないから」と言えば、その後ろからジンが「クロも家族だ」と言い、その黒豹クロも分かっているからとばかりに一声鳴いてみせる。


「いや、でも……魔獣ですよね?」

「アル、気持ちは分かるが、危険なら家の中に入られた時点で俺達は今頃、生きてはいないぞ。それよりもだ。外の獲物を解体するぞ」

「「え?」」

「「「分かったぁ!」」」


 ジンがクロが狩ってきた獲物を解体するぞと声を掛ければ、オフィーリアとアルは「自分達が?」と素っ頓狂な声が漏れるが、その後ろからギル、ビル、ジルの三人にティア、レナの二人が解体道具を手に持ち、家の外へと出ていく。


「エミリア、その野鳥の内臓ワタは適当に下洗いしてから、いつものようにクロに食べさせてくれ」

「はい。クロ、ちょっと待っててね」

『ガウ』


 ジンに頼まれたエミリアがクロに声を掛ければ、クロは太い尻尾を嬉しそうにパタンパタンと床に打ち付ける。


「おぉ!」

「……すごい!」


 そんなクロの様子に幼女二人もキャッキャと更にクロの尻尾に飛び付く。


「「あ!」」

「だから、心配するなって」

「「「ジン兄! 重いぃ!」」」

「おう、今行く。面倒くせぇなぁ」


 ジンが玄関扉を閉めると、オフィーリアとアルは改めて床に横たわり尻尾で幼女二人を遊ばせているクロと呼ばれる魔獣である黒豹を静観している。


「アル、あなた男でしょ」

「男でもアレは無理!」

「なんでよ!」

「フィーも見たでしょ。立っている俺とほぼ同じ……いや、俺よりも大きかった……」


 アルが言うように玄関を開けた時にクロは座って待っていたのだが、その時点で身長一五〇センチメートルを少し超えていたアルの頭よりも大きかったのだ。


 そんな大きな黒豹が今、アル達の目の前で幼女二人にキャッキャと好き放題にされているのだ。ジンがいくら大丈夫だと言っても、正直心臓に悪い光景だ。


 そんなアルの目の前にエミリアが「はい」とボウルを差し出す。


「え? うわっ!」

「え、エミリアさん……これは?」

「クロの食事よ。はい」

「いや、はいって言われても……」


 アルにエミリアが野鳥の臓物を処理しただけの物が入れられたボウルをアルにで差し出すのだが、アルはアルでなんで自分にを差し出してくるのか訳が分からず困惑するが、結局はエミリアの圧しに負け受け取るのだが、今度はクロの金色に光る縦に細長い眼がアルを射貫く。


「ひっ!」

「ほら、待ってるから」

「い、いや……待ってるからって……え、まさか……」

「そうよ。ふふふ、怖いなら克服しないとね」

「いや、そういう克服方法は遠慮したいんですけど……」

「男の子が何、言ってるの! ほら、早くしないと不機嫌になるわよ」

「あ……」


 エミリアが言うようにクロはアルの持つボウルに集中しているが、尻尾は『ビタンビタン!』とさっきより大きく床板を打っている。


「あ~もう、どうとでもなれ!」

「アル……」

「そ、ガンバレ、男の子!」


 アルは両手でボウルを持ち直すとそぉ~っとクロに近付くと、クロはやっと持って来たかと尻尾を振るのを止め、大人しく待っている。


「落ち着けぇ~大丈夫だから……」

「ある?」

「……びびり?」

「ち、違う! 怖くなんかないから!」

『ガウ』

「ひっ!」


 アルはクロから遠く離れた位置にボウルを置くとサッとその場を離れる。


「アル……」

「ある……」

「……へたれ」

「ぐっ……」


 オフィーリアの何か言いたげな眼と幼女二人の容赦ない言葉に傷着いたアルだが、クロはそんなことよりも離れた位置に置かれたボウルを見ながら『面倒くせぇなぁ』という雰囲気を醸し出しながらノソリと起き上がるとボウルの元へと向かい、その中へ顔を突っ込む。

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