第3話 新しい家と新しい家族?
「リルルいちば~ん!」
「……にばん」
「「「え?」」」
「おい、そこで止まるなよ。面倒くせぇ」
「「「……」」」
初めて見るジンのゲートに物怖じすることなく飛び込んだリルルとノエルの後から勢いで飛び込んだオフィーリア達が目の前の光景に思わず立ち止まる。そしてアルを抱えたジンに注意されるが、開いた口が塞がらない。
「あ! ジンさんお帰りなさい。あら、また可愛いお客様ですね」
「おう、ちょうどよかった。エミリア、コイツらを風呂に入れてやれ。それと、コイツを寝かせるベッドを頼む」
「分かりました。ギル、ジル、ビル手伝って」
「「「え~」」」
「あっそ。じゃ頼まない。ティア、レナ、悪いんだけど手伝って」
「「は~い」」
エミリアはティアとレナにオフィーリア達をお風呂に入らせるように頼むとジンに向かって「こちらへ」と案内する。
そんな二人の様子を面白く無さそうに見ていたギル、ジル、ビルの三人にジンがボソッと「お前らおかず抜き」と呟けば三人は揃って「え~そりゃないぜ」と反論する。
「なら、メシ抜き」
「オニ!」
「今日から三日間な」
「アクマ!」
「プラス便所掃除一週間だ」
「……」
「もう、いいのか?」
「「「ごめんなさい!」」」
「分かったら、手伝え!」
「「「はい!」」」
さっきとは違い元気よく返事をする三人にアルのベッドを用意するように頼むと三人は先を競うように走り出す。
「ふふふ、やっぱり男の人……ジンさんには適いませんね」
「お前が優しすぎるだけだ。もう少しキツくしてもいいんだぞ」
「そうは思うんですけどね。どうしても今までのことを考えてしまうと……」
「そうだな。だから、『メシ抜き』は嫌だけどな。だが、何も手伝わないのを見過ごすのはもっとダメだ」
「分かりました。今後、気を付けます」
「ほどほどでいいんだぞ。ほどほどでな」
「はい! ほどほどですよね。ええ、今までの分もありますから。ふふふ」
「……まあいい」
エミリアが今空いている部屋がここですからと部屋の扉を開けると、既にジル、ビル、ギルの三人がベッドメイキングをせっせとしていた。
「「「終わったよ」」」
「ああ、ありがとな。あと、いつもの『経口補水液』をたっぷり作ってくれ」
「「「分かった!」」」
ジンはベッドの上にアルをそっと寝かせるとエミリアに「柔らかい食べやすい物を用意して欲しい」と頼めばエミリアは笑顔で「お任せ下さい」と部屋を出て行く。
「う……うぅ……」
「何もこんなになるまで無理することないだろうによ。ホント、面倒なもん拾ってしまったな。これから大変だぞ。あ~ホント、面倒くせぇなぁ」
ジンはアルを診察する際の鑑定結果を思い出し、思わず目を塞ぎたくなるが、知ってしまった以上は放っておけない。ただ、アルがこういう状態なので、実際に動き出すのはまだ先の話だなと頭の隅に追いやる。
「ジンさん、持って来たわよ」
「おう、ありがとな。じゃあ、少し体を起こすから飲ませてやってくれ」
「分かりました」
エミリアは鍋にタップリと入っている『経口補水液』をジンお手製の水差しに移し替えるとアルの口元にそっと近付け、水差しの先をアルの口の中へ入れ、ゆっくりと水差しを傾ける。
『ゴク……ゴク……』
「うん、自力で飲めるなら、心配はいらないな。後は腹が減れば目を覚ますだろう」
「そうですね。でも、どうしてここまで……あ! 聞かない方がいいですよね」
「そうだな。今はソッとしておいてやれ。特にお前ら!」
『『『ビクッ!』』』
部屋の扉の隙間からジン達の様子を窺っていたギル、ジル、ビルの三人がビクッとなり部屋の扉を開けるとバツが悪そうに俯きながら部屋の中へと入ってくる。
「何か言うことがあるだろ? ん?」
「「「ごめんなさい!」」」
「まあ、お客さんが気になるのは分かるが、今は見守るだけにしてやれ」
「お客さん?」
「新しい家族じゃないの?」
「治ったら出て行っちゃうの?」
「「……」」
ギル達三人の男の子の発言にジンは何も言えなくなる。ギル達も六歳の頃に今のアル達と同じ様にスラム街で行き倒れになっているところをジンに拾われ、この家にやって来た。
その頃はジンの他にエミリア、ティア、レナの三人の女の子だけだったので、自分達の様な男の子がここにいてもいいんだろうかと考える間もなく風呂に連れて行かれエミリアに着ている服を剥ぎ取られ「これ、もう着られないわね」とその場でゴミ箱に放り込まれた。
その後は、ギル達三人はエミリア、ティア、レナの三人の手で文字通り頭の天辺からつま先まで綺麗に洗われ、浴槽に放り込まれると「体が温まるまで百数えなさい」と言われるが、ギルが「十までしか知らない」と言えば「なら、それを十回繰り返しなさい」と言われ三人で「い~ち、に~い、さ~ん……」と数える。
そんな風にジンやエミリア達には感謝の気持ちはあるが、時折さっきの様に憎まれ口を叩いて怒られることもある。だが、今ではジンのことを父親代わり、エミリアを若いお母さんとして掛け替えのない家族だと思っている。
そんな家にジンが新しい家族を連れて来たと思っていたギル達だったが、ジンからは「しばらくは様子見だ」と言われ黙って頷く。
「まあ、家族になるかどうかは別にしてだ。アルは今はこんな調子だ。直ぐにお前達みたいに走り回れるようにはならないんだ。だから、しばらくは大人しくしていてくれな。頼んだぞ」
「「「うん!」」」
「じゃあ、あなた達もお風呂の用意をして来なさい。そろそろ上がる頃でしょうから」
「「「は~い!」」」
ギル達が三人が部屋から出て行き、少しだけ部屋の中に静寂が戻ると『スゥスゥ』とアルの小さな寝息が聞こえてきた。
「うん、大丈夫だな」
「よかったですね」
「ああ、後は自分でメシが食えるようになれば、問題ない」
「ええ、そうですね。でも、ちょっと家が……」
「ん? 家がどうした?」
「いえ、あの子達も大きくなってきましたし、この家も少し手狭になってきたかなと思いまして」
「あ~そっか。そうだよなぁ~面倒くせぇ」
「ふふふ」
「なんだ?」
「いえ、ジンさんはそうやって『面倒くせぇ』と言いながらも結局は私達が困らないようにしてくれています。そういうところ、好きですよ」
「……ありがとな」
「もう!」
ジンは少し照れながらエミリアの頭をポンポンと軽く撫でると椅子から立ち上がり部屋から出て行く。
「もう少しね。いい? 今、見聞きしていたことは誰にも言っちゃダメよ。分かった?」
「……は、はい」
「うん、いい返事ね。じゃあ、夕飯は食べやすい物を作るわね。呉々も残しちゃダメよ?」
「……はい」
「よろしい。じゃあ、約束だからね」
「……」
エミリアが機嫌良く部屋から出て行くとベッドの上でアルは「ハァ~」と嘆息する。
尿意からボ~ッとしながらもゆっくりと目を開ければ大柄の短髪の男とフワッとした雰囲気の女子が甘ったるい雰囲気を醸し出している所に遭遇してしまい、今の自分の状況もそうだが、アル自身はどういう行動が正解かも分からず取り敢えず寝たふりを続行していたところ、エミリアに思いっ切りデッカい釘を刺されてしまい益々訳が分からなくなる。
「あ! トイレの場所、聞くの忘れた……」
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