ティム皇子の章の4 ロードオブケイオス

 アレンはテレビをつけたままベッドに横たわり眠りこけていた。枕元のフェミリー用ベッドにはアンズがいる。

 アイドル特集を流していた深夜の音楽番組はとうに終わっており、民間向けの惑星国家間ニュースが流れているのを夢と現の間にある脳で認識している。

 ……ティムが風呂に向かってから1時間ほど経っているだろうか。


「……遅くね?」


 まあ別に良いがと、アレンは薄目を閉じて眠りにつこうとした。

 その時、脱衣所のドアが開く音がした。今あがったのか。随分と久しぶりの風呂を堪能してきたように思える。

 現れたティムもまた、裸のままうろつくような事はせず既にパジャマであった。


「ふぅーっ……さっぱりした」


「良い風呂だったろ……んん?」


 頭をバスタオルで拭きながら現れたティムに寝転がりながら声をかけたが、なんだか妙にツヤツヤしているように見えた。


「なんかあったか?」


「どういう意味だ?」


「や、いや……」


 気のせいだったわと掛け布団を被り直す。

 そうか、と言ってティムもまたベッドに腰掛ける。


「お風呂、長かったね?」


 レイが不思議そうな顔で覗き込みながらティムに聞く。


「久しぶりだったからな……落ち着いてゆっくりと湯船に浸かれるのは……」


 本当にそれだけ?

 レイはその疑問をぶつけるまでもなさそうな雰囲気のティムを怪訝そうに見つめていたが、ベッドに寝転んで数秒で寝息を立て始めた彼の姿を見てしまったならまあいいかとその疑問を心に収めざるを得なかった。


「色々あったものね……私も寝ようっと」


 小さなフェミリー用のベッドの中に潜り込み、外を見る。

 双子の太陽アマテラスが照らしていた昼の空とは全く違う夜のワール・ティーラーの空。

 その天の帷にはいくつもの星々が瞬いている。惑星国家独自の文化で結ばれた星座は我々の知るところではないが、とにかく沢山の光が遥か遠くからその輝きを示していた。

 そしてその中でとても大きく、青く輝くワール・ティーラーの月……ルファルーナがあった。ルファルーナとはこの星で信仰されているルネス神話に登場する、月の妖精女神の名前でありいつしかその女神の名前が月の名前となっていた。

 ちなみにルネス・フロントの惑星国家に昼夜の明暗とエネルギーを与える双子の太陽の名、アマテラスも同じ神話に由来する。アマテラスは全ての星と全ての神の生みの親であり男神にして女神でもあるもので、始まりと終わりを一手に担うものとされている。

 また、そのルファルーナに迫る大きさで薄ぼんやりと見える惑星が近くに見える。レイは小さな手でその星を指差しながら言った。


「タカマガハラね、あの星は……ルーコちゃんがいるっていう……アレンとアンズの話を聞いてたら……私もファンになっちゃったかも……会って……みたいな……」


 更に時間が夜に進めばきっと他の惑星国家の姿も見える。だがレイの瞳はその姿を捉える前にとろりと溶けるように閉じられ、夢の世界に誘われたのであった。


 隣室。ラーナの部屋。

 ラーナの心臓の鼓動は寿命まで全力全開に突っ走るかのようにドンドンと彼女の中で響いていた。

 蒼き月ルファルーナが照らすだけの薄暗い寝室、皇族のためのベッドの中でラーナは久しぶりに会えた愛するひとの事でいっぱいになっていた。

 その様子を側で黙って見守る青い髪のフェミリーがいた。彼女の名前はリリィナ。ラーナの事は幼少期から良く知っている、種族違いの姉のような存在である。


「……」


 ラーナはその再会の事情が戦争でなければもっと素直に喜べたのにと、きゅんきゅんと高鳴っていく鼓動の音量を抑えるように目を瞑っていた。

 リリィナはただ黙って彼女を優しく微笑みながら見守っていた。


 そしてその内に夜が明けた。


「ふわぁ〜……おはよう」


 ルネス・フロントの時計はその惑星ごとの独自の時間と暦、全体的な統一された時の流れである天球暦を内包した基準となっている。

 そうした複雑な仕組みを内包した時計はこの太陽系のどこの惑星、どこの国のどこの家にも決まって存在している。

 天球暦ルネス・イラ9401年5月16日の午前8時00分。そしてワール・ティーラー独自の暦である風星暦ワール・イラは2055年4月29日の午前6時00分。

 部屋の時計とカレンダーはそれぞれの時を示していた。基準時間24時間運用の天球暦時間に対して、風星暦時間は28時間運用でありそれは即ちワール・ティーラー星の1日が28時間でありなおかつ基準時間との誤差は2時間前後である事を示している。


「ん、早くもなく遅くもないか……」


 考えると頭が痛くなりそうな複雑な暦と時間の事はさておき、この日の朝に一番最初に起きたのはティムであった。

 あと2日。ケイオス国への出奔までの束の間の平和。この平和の中で自分が戦い勝つ意味に少しでも近づけるのならそれはきっと良い事だ。


「着替えて、朝食を食べて……それから搬入のチェックに国民の皆さんに挨拶をして……」


 言いながらアレン、レイ、アンズの順番に起こしていき、それから既に綺麗になって乾いているいつもの服に着替える。

 あれよあれよと言う間に全員の身嗜みが整い、一行は朝食へと向かう。


 当然、その行きがかりでラーナとも合流する。ティムは普段通りにラーナと挨拶したがラーナは挨拶をしたきり顔を赤らめてあさっての方向を見て歩き始めた。

 アレンもレイも「昨日の夜中に何かあった」と悟ったがあえて何も言わなかった。ちなみにアンズは何も気づかなかった。

 そうして城内にある食堂にて朝食を終え、午前中の搬入作業のチェックも終わり、民達と交流する。

 ケイオス国の情報を仕入れる事も兼ねた民間人との交流でティム達は改めて、平和こそが全てに優先される事であると認識しつつ午後の搬入チェックへと向かう。

 そして搬入の無事を確認しつつクルー達とも話し込み、ケイオス国での立ち振る舞いを考える。

 それが終わり次第また部屋に戻り束の間の平和な日常を叩き込むようにして眠りにつく。

 こうしてまた1日、2日と時を過ごしながら準備が完了し……天球暦9401年5月18日、或いは風星暦2055年4月31日。

 ついにアルティナがケイオス国に向けて出航する時が来た。


「皆様、行って参ります!」


「ラーナ姫様ー! ご無事で帰還を祈っておりますー!」

「ティム皇子、アレン皇子、姫様をよろしくお願いしますぞー!」

「ケイオスのバカ皇子をしばいてやってくだせえ!!」


 ラーナの一声に民衆が次々に答える。ティム達も皇子として手を振って笑顔で答えつつ、内心1人の人間としては「好き勝手な事を言うね」と苦笑していた。それでもやるべき事なのでやるのだが。


 そうして光の十字星の船が空中へと飛び、荒地の方向に向かっていく。

 あくまでも武で力を示すとはしたものの、まずは対話である。ティム達は皇族としての礼装の下に普段から着ているパイロットスーツを仕込みケイオス国での対話に備えた。


「同級生なんだよな、ダッキスは?」


「ええ、そうです。ですが奴は……容赦できる相手ではない」


 管制レーダーを担当している中年の男性クルー……ティム達が子どもの時からお世話になっている工場長のおじさんでもあるミハルが、我が子の話を聞くように尋ねた。

 そのミハルの問いにティムは悲しそうな顔と声で答える。容赦できない相手にはなって欲しくなかった。それが彼の本音である。


「正直なところ、あまり仲良くはなかったかもしれない……それでも。こんなに憎まれていたとは」


 少し髪を残したスキンヘッドにつけたゴーグルをかけ直し、毬栗のように生やし整えた髭を撫でながらミハルはまたティムに問う。


「ティム坊……おっといけねえ、皇子はどうしたい?」


「皇子ではなくティム坊で大丈夫ですよ、ミハルおじさんには昔からそう呼ばれてるしその呼び方は好きなんだ、皇子である事を忘れられるようで。……できるなら、本当にできるなら命までは奪いたくない。だがそれはそれとして落とし前はつけさせるつもりです」


「そうか、うむ……」


 頑張れよ、と言うのも何か違うなとミハルはただ頷いてティムの意思を肯定するのみとした。

 そうして話しているうちに周りの風景がただの荒地でなくなっていく。

 穏やかな草原地帯から続いていた青空が次第に薄汚れた灰色になり、あちこちに廃棄されたマキ・レーバーの残骸がある。

 爽やかな風の匂いは消え去り、血と油の入り混じったような汚濁した臭気が蔓延しているのがアルティナの中からでも誰にも解るようになってきた。

 既にリーナクライン小王国との国境は超えている。外交官により対談を行なうための連絡は既に行っており迎撃の動きはないのだがどこまで行ってもケイオス国側の平和的な動きはない。

 そんな不気味な雰囲気のまま、果たしてアルティナはケイオス国の軍港に到着した。

 対談場所はこの軍港の国賓歓迎場との事だがどこなのだろうか。

 多数の警護兵を従えて降りていくティム、アレン、ラーナの三皇子女。もちろん側にはレイとアンズ、そしてラーナの相棒のフェミリー、リリィナもいる。

 この間襲ってきたケイオス国正規軍の手合いと同じような、略奪と凌辱が生きる目的と考えているような武装兵がただ黙ってこちらを奥へ奥へと通していく。不気味、不可解、不愉快を揃えて暗い奥底へと案内していく。


「ロードオブケイオス! リーナクライン小王国皇女ラーナ・リーナクライン様一行をお連れしました!」


「通せ!」


「ハッ! ……ラーナ様、ティム様、アレン様、我が当主の無礼をお許しください」


「君は優しいんだな……ありがとう」


 存外に堅気な挨拶をする武装兵に、安直に乱暴な返事が扉の奥から響く。

 ……何故か、申し訳なさそうに武装兵がこちらを一瞥してから扉を開けるのを見て、ティムはこの世紀末、修羅の国じみた混沌と暴力の国にも僅かばかりの気遣いと優しさがあり、それゆえにダッキスはこの国を支配しきれていないと感じた。


 そうして通された場所はこの国の治安を度外視して用意したかのような見せかけの豪華絢爛。民達から搾取して用意させたとしか思えない、そうでなければこの荒野と廃墟の国のどこにそんなものがあったのかと疑うような食事がずらりと並ぶ円卓。

 その部屋の奥、中心となる席に奴はいた。


「おお! ラーナたん久しぶりぃ〜! ついに僕様と婚約するつもりになったぞえ?」


 顔だけは良かったであろう面影を残す怠惰な体の、黒衣の皇族服に身を包んだダッキス皇子が赤ワインの入ったグラスを片手にラーナ『だけ』を歓迎した。

 その側にはボロボロの布切れだけで作られた服を着せられ羽はむしられ傷だらけの怯え切った様子のフェミリーがいた。

 ダッキスにはラーナしか見えていない。それどころかティム達が思っていたのとは違う対談内容で合意していたかのような態度である。学院時代、ダッキスがティムの事を一方的に嫌っていた理由は彼がラーナと婚約していた事だった。ダッキスからしてみれば、彼女は自分こそが相応しいと思っているのだ。


「開幕早々、話の場を荒らしたいのですかダッキス! 私はあなたなどに傅くつもりはございません! 私の体も心も魂も一切合切全てこちらのティム様に尽くすものです!」


「そんなぁー、ラーナたぁん! あんな男の何が……いいや本人がいるのぉー!? ティム・ルネス、貴様ァ!」


 ラーナに強く拒絶されて豚のように情けなく泣きかけたダッキスがティムの事を認識した瞬間、オーラが変わった。

 ワイングラスが弾け飛び、養豚場から出荷される運命を知らない哀れな家畜めいた彼の表情が激変し、野生の本能の赴くままに獲物を追跡する執念の塊である猪のように変貌した。

 その様子に恐らくダッキスのパートナーをやらされている奴隷のフェミリーが悲鳴をあげて怯える。

 交渉は開幕で決裂した。


「ここがどこか知ってわざわざ面出しに来たかァ!」


「無論だ! 貴様にラーナは何があっても絶対に渡さないしこれ以上の横暴と怠惰による治安維持の放棄も許さん!」


「貴様ァ〜! 僕様に対して中心皇国の皇子だからとてどれだけの狼藉を働くつもりだァ〜!!」


「俺が皇子と言う立場を振り翳してお前と接していたと思っていたのならがっかりだな! ただでさえ地の底に落ちていたお前の印象はもうついに上がる事はない!」


 平和的な対談などどこにもない。しかし内心、最初からこうなるとは思っていたとティムは穏便に事を収めようとはしない。


「自分のフェミリーすら大切にできないお前が国の頂点とは烏滸がましい! 恐怖と混沌で国を支配しロードオブケイオスと兵士に呼ばせて悦に浸るだけの無能が俺の級友だとは、こんなに虚しい事はない!」


「言い過ぎでは……ないか。うん。ダッキスの野郎にはむしろ言い足りないくらいだな……」


 あまりの剣幕に引いていたアレンもティムに同意する。


「クソがァ! ならば望み通り戦争だ! 僕様が勝てばラーナたんは僕様の嫁で貴様は死に、元首統一戦争の代表の座も軍事力も僕様のものだァーッ!」


 単純明快、予想通りにダッキスは我儘に宣戦布告した。


「良いだろう! だが俺が勝てば貴様の命はない! この国はラーナの同意の元リーナクライン小王国の領地となるしこの国の軍事力も我がものとするし、その怯えている子も保護させてもらう!」


 互いに、負けるつもりはない、負けるはずはないと立ち上がる。


「しゃらくせえェーーーッ!! テメェら、対談は終わりだァーーッ! MCMR戦を行うッ!!」

「ウオーーーーーッ!!」


 周りを囲んでいた武装兵達が勝鬨を上げてから奥へと引いていく。それに続いてケイオスも奥へと引いていく。


「MCでの戦いで僕様に優位に立てると思うな!」


 去り際にダッキスは奴隷のフェミリーを乱暴に引っ掴み走っていった。


「どこまでもカスだな!」


「……あんなでも昔はああじゃなかった、その昔からラーナに言い寄っていたからそれだけは死守してたが、それ以外は良いやつだった。良いやつだったはずなんだよ!」


 だが今は違うと言うことがハッキリ改めてわかった! と、ギュッと拳を握りしめてティム達もアルティナへと戻ろうとする。


 ……と、扉のそばに先ほどの武装兵が立っているのが見えた。


「君は戦わないのか」


「まさか! ……私はダッキス様の事が嫌いです、今の会話で確信しました。万が一ダッキス様が勝って命令違反で殺されてもむしろ悔いだらけで化けて出てやりますよ!」


「そうか……だがお化けにはさせないさ」


 そう、反逆の意思と個人的な嫌悪を抱えていた武装兵に安心してくれとティムは声をかけて走っていく。


「ボロボロのあの子や、あの優しいおじさんのためにも勝たなくっちゃだねティム!」


「ああ!」


 軍港に停泊しているアルティナに入るとラーナはブリッジへ、アレンは陸上船ではなく今回の搬入で自分用に輸送してきてもらった量産型のMC……【イマージュ・ラヴァ】に乗り込む。その場で待機していたリーナクライン兵6人はそのイマージュの元機体である【ラヴァ】に乗り込む3人とサポートメカであるMR……武装戦闘機【キャバニエット】に乗り込む3人に分かれた。

 そしてティムはサーガドライバーを起動してサーガ・トリニティ・コアに乗り込む。


 ケイオス国軍の方も戦闘準備が進んでいた。

 こちらのフォーメーションはケイオス国軍兵が20人体制、それらはそれぞれMCのデーオ、ジャッコ、MRのドルクスとセンチピーとで5人ずつの編成である。

 そしてダッキスは専用の黒い巨躯のMC、【ケイオス・フォールン・ギガース】へと乗り込む。


「あんな奴にあんな奴にあんな奴に……負ける僕様ではなァーーいッ! おいっお前! 僕様のサポートをするんだ!」


「ひっ! う、うえぇぇ〜ん……」


「わざとらしく泣くんじゃあねえーーーッ!! テメェらフェミリーの仕事は僕様達マアトの生命エネルギーの代わりにMCにその命を捧げる事だろうがァーーッ!」


「ぎゃんっ!! うっ、うぅっ……」


 奴隷の子を殴りつけて満足したダッキスはギガースの操縦桿を握りしめる。


 そんな胸糞悪いやりとりがある事は知らないティム達と出撃タイミングが同期する。


「イマージュ・ラヴァ! アレン・チモシー行くぞ!」

「よし、レイ、サーガ! 今日からはラーナやアレン達も共に戦うぞ! サーガ・トリニティ・コア、出るぞ!」


「ケイオス・フォールン・ギガース! ダッキスが出るぞ!」


 機械騎士達が光の十字星と荒れた軍港からそれぞれ飛び出していく。戦闘開始である。


「数はあっちの方が有利か、だが機体は!」


 早速アレンがイマージュで次元干渉モードに入り、デーオの部隊にディバイドセイバーで切り掛かっていく!

 もちろんデーオ部隊も次元干渉モードに入り迎撃するが、アレンはイマージュを巧みに操りデーオの両腕の電磁ウィップを交わしながら奴らの頭上を切り裂いていく!


「ティムほどじゃないだろうけど俺だってやるだろ?」


「やるやる!」


 爆散していくデーオ達の上空でアレンとアンズが会話しつつ、キャバニエット部隊に合流していく。

 キャバニエット部隊はこの間に次元干渉モードに入ってラヴァ達を蹂躙しようとしたジャッコ達に一足早くミサイルの弾幕で迎撃しその動きを抑えていた。


 一方ギガースはドルクスとセンチピーの部隊からそれぞれ1機ずつを残して残り4機ずつをラヴァ、イマージュ、キャバニエットの部隊に差し向ける。

 残したドルクスとセンチピーにダッキスは指示を出す。指示を受けたパイロット達はそれぞれの機体をハサミとチェーンソーのように変形させるとコックピットブロックを分離して脱出し、武器のようになった機体をギガースが両腕に掴んで合体させる!


「お前達はマキ・レーバーの正しい使い方を知るまいッ!」


 漆黒の巨人が右腕に深緑のハサミ、左腕に紫色のチェーンソーを備えて……VDAを既に分離してその上に乗っていたサーガに向かって飛翔!

 そのまま次元干渉モードに入るギガースとサーガ! その後ろでイマージュとラヴァ達が危なげなくジャッコ達を、キャバニエット達はドルクスとセンチピー達を一方的に空から襲っていく!


「当たれば確かに危うい!」


 伸びてくるドルクスシザーをVDAから飛び降りて回避しつつディバイドセーベルからパワービームを放ちギガースの頭部を狙うサーガ!

 そのパワービームをセンチピーチェーンソーを中心に展開したディバイドバリアで弾き飛ばしつつそのままサーガに接近して切り裂こうとするギガース!

 サーガは冷静にティムとレイの意思を受けて光の刃をセーベルに灯してチェーンソーを受け止めて切り払い、後ろに飛んで距離を離す!

 同時に落下するように真下に移動していたVDAが急浮上してギガースの眼前に現れエナジーバルカンを放っていく!

 歯軋りをしながらそれを回避するギガースに、急速的に前方に飛んだサーガがディバイドセーベルで切り掛かり、ドルクスシザーのついた右腕から切り裂き更にセンチピーチェーンソーのついた左腕も切り裂いていく!


「だが技量がなければ!」


「そんなっ!?」


 一瞬の隙を逃さない。VDAに対して迎撃をしていればサーガも後ろに引いたままだったろうし更にそのサーガ本体に追撃できただろうが。ダッキスの手元にはエナジーバルカンの威力等のデータがあった。あんなものに当たればひとたまりもない。

 だが実際にはサーガの武装はエナジーバルカン以外も規格外であった。ギガースの装甲には並のディバイドセイバーの光刃なら無力化する加工が施されていた。それがいとも容易く切り裂かれている。

 次の瞬間、拮抗するところまで戦力差を詰めていたラヴァとイマージュの部隊がジャッコ達をなんとかして斬り伏せたそのタイミングと同期するように、サーガの剣がギガースの頭部を貫く!


「がぁぁっ!!」


 急降下の角度で地面に叩き伏せ、セーベルを頭部から引き抜くと同時にまだ無事なギガースの両脚を根本から切り裂く!


「終わりだッ、ダッキス!」


「認めんッ、認めないぞ!ぼ、僕様がこんな!」


「ッ、いやあ!」


 その時、奴隷の子が隙を見て飛び出し自分だけ外に脱出! 羽がないなりに生命エネルギーの流れだけに頼ってサーガのコックピットに向かって飛び出した!


「ティム、あの子!」


「見えてる! こっちだ!」


「うううーーーっ!!!」


 涙を浮かべて必死に飛んでくる奴隷の子をサーガの左腕が自らの胸に抱きしめるようにして載せていく。


「お前ッ、部品の分際で僕様を置いていくのか!」


「そんな扱いをするから置いていかれる事くらい、良い加減わかれ!」


「よしよし、もう大丈夫だよ……うん、ティム! そんな奴やっちゃえ!」


「ごめんよ、ダッキス!」


 ああ、ついに最後まで自分はこんなものも友達だと思っていたのだなとティムは刹那のうちに思ったがしかし、もうこの男を生かす理由はなかった。

 そのままディバイドセーベルの光刃がダッキスのいるコックピットを……わずかにそれて切り裂いた。


「ぐあッ」


 肉塊と生体の間になってダッキスが吹き飛ぶ。かろうじて生存するように爆風と共にギガースの外、その真下に吹き飛んだかつての級友はもう、誰も助けるものはなかった。


 決着はついた。


「……ダッキス、お前が生きているうちに宣言する! このティム・ルネスは武を示してみせたぞ!」


「プギィーー……そ、そんなバカな……」


 地面に叩きつけられ、憎き男の宣言を聞き、ダッキスは無念のうちに息絶えた。

 やるべき事をやった。だがティムの心には罪悪感が巻きついた。強く強く、暗いものが。


「……本当にごめんよ、ダッキス……」


 サーガのコックピットシートにへたり込むように座り込んだティムの身体中に嫌な汗がへばりつく。

 運営はともかく、他の皇子を討った時に襲いかかる情念はきっとこんなものではない。

 自然と涙が溢れていた。


「ティム……」


「あんなのでも……俺の少ない友達のひとりだったんだ……皇子同士じゃあなければ……殺し合わずに済んだんだろうにな……わかってる……これから先はあいつの事も背負っていく……」


「ティムは……変なところで優しすぎるよ……そこが好きなんだけど私は心配だよ……」


 レイに寄り添われて、ティムは泣いた。

 その慟哭はアレン達が迎えにくるまでずっと続いた。


 さて、この物語の主人公の視点はあと5人ある。ここから先、しばらくティムの視点から離れて別の主人公の話を見てみることにしよう。

 その視点はタカマガハラ、竜の星……視点を持つ彼女の名はミルクレープ・ルーコ。

 次はタカマガハラのアイドルの物語である。

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