ティム皇子の章の2 フェア・リリィ
キャラット号はケイオス軍との戦闘を終え、再び目指すべき場所へと向かい出した。
そのまま真っ直ぐに、城に向かおうとしていたアレンにティムが声をかける。
「アレン、ちょっといいか?」
「どした?」
「リーナクライン城に向かう前にフェア・リリィの里に向かっていいか?」
リーナクライン城。それは目の前に迫っていた城下町、その中心となる城の事だ。
フェア・リリィの里とは……その城ならびに城下町から少し離れた場所にある花畑であり、その貴重さとそれだけに留まらないとある理由からリーナクライン小王国立の保護センターがある。
「……あんまり寄り道するとさっきみたいなのがまた来るぞ」
「寄り道しなくたって来るだろ、よほど俺の事が気に入らないらしいからな」
それもそうかと溜息をつくアレン。と、話を聞いていたレイとアンズが嬉しそうに喋り出した。
「里に行くの? やった、久々にみんなに会える!」
「それに里でちょっとだけ、のんびりできる……うれしい」
きゃらきゃらと鈴のように騒がしいレイの声と、そよ風のようにおとなしいアンズの声が男2人の頭上で響く。
「はーん、そゆこと。なるほどね、んじゃまあ仕方ない! その代わり、着いてから滞在できるのは30分だ」
「ありがとうアレン、それじゃ悪いが進路変更ヨーソローだ」
は? それじゃのんびりできないが? アホか? とアンズが鋭く毒づいた気がしなくもないが、アレンは冷や汗をかきつつも無視して里へと進路変更する。
……その後方から。ケイオス軍とは明らかに異なる雰囲気の、しかし敵とわかる面々が静かに近づいていた。
距離はずっと、2km前後でつかず離れず。気づかれていようといまいと問題はないように尾行している。
「……この星の皇子の動向、謎だな」
胸元に野薔薇を携えた貴公子めいた男が双眼鏡を覗いて言う。恐らくこの軍勢のリーダーである。
その顔立ちはともすれば美女ともとれるほどに整っているが、声すらもまた備えるべき男の色気と若さに釣り合わぬほどの渋さを兼ね備えていた。
「諸君、彼らが里についてから時間差でまず私1人が向かう。保護センターのものには友好的なフリでな」
「ドッティ殿、我々のタイミングは」
「その時になれば知らせる。諸君らは気長に尚且つ迅速に戦闘準備をしてもらえると非常に助かるぞ」
部下の兵士の質問にドッティと殿つけで呼ばれた長い緑の髪を三つ編みにまとめた、やけにガタイの良い貴公子は気さくに答えた。
この軍勢はどこの手のものだろうか? 今は何もわからないまま、時間は進む。
それからしばらくして、ティム達の陸上船はリーナクライン城下町から程近いところにある森の中……フェア・リリィの里についた。
ドッティ達の陸上船はやはり2km前後の絶妙な遠距離に停泊。ドッティはそこから単身で飛び出し、二輪の超小型ホバー車両で静かに里に近づいていった。
「ごめんください」
皇族らしからぬ民草じみた挨拶で保護センターのインターホンを鳴らすティム。何者かが静かに近づいている事など考えていなさそうな、しかし常に警戒もしているような素振りで反応を待っているとインターホン越しに初老の女性が応対してきた。
「どなたかしら? ってあらあら、ティム皇子ではありませんか! 失礼致しました、すぐお通ししますね」
すぐさま保護センターの大きな木製の門が開く。左右、前後を確認してティム達が保護センターの中に入る。監視モニター越しにティム、アレン、そしてレイとアンズが完全に入ったのを確認した先ほど応対した女性職員が門をすぐに閉じる。
それからおおよそ15分後。ドッティが追跡者とは思えぬほど優雅に到着した。
「ふむ。では皇子殿下の友人として振る舞うとしよう……あの様子では警備は不自然なほどにザルのようだからな」
そうして友人を名乗り接触しようとする不審な貴公子が不躾にも保護センターの警備不全を指摘しながらやってきた時、ティム達は既に保護センターの中心にある、花畑へと辿り着いていた。
ここまでの道のりは伝統的な遊歩道、それもこれもこの保護センターが守っている花畑に影響がないよう配慮されたものである。
フェア・リリィ。この太陽系に住まう妖精のような姿をした生命体、フェミリーは皆この花から生まれ出でる。
リリィの名はユリを連想させるがユリの花のようなものだけではなく、例えばチューリップやヒヤシンス、アマリリスやスイセン、サクラの花を咲かせる樹木として存在するフェア・リリィまである。
フェア・リリィは森の星ビートビートを中心にこの太陽系に繁栄している特別な植物種『セフィラウト』の一種である。ここは風の星において数少ないフェミリー達の故郷のひとつなのだ。
この太陽系に生きる人類において複数種ある種族の中で人間……ティムやアレンのような一般的なホモ・サピエンスの見た目を持つ者たちの事をマアトと呼ぶ。
マアトに限らず他の種族もだが、ルネス・フロントの人類は妖精を従えている者達が多くいる。
何も彼女達がおてんばで悪戯好きで可憐で愛らしいからだけではない。彼女達は人類を超越した強い生命力の化身である。よって、最高級の
妖精達と機械騎士は同じ時代に生まれたものと推測されている。……彼らは天球暦の冗長的に数を重ねた歴史よりも更に古い時代からこの太陽系に存在している。天球暦を生きる今の人類に機械騎士や妖精の全てを知る者はいない。
そんな小噺を挟みつつティム達の様子を見てみよう。
「わー! マアトのお兄さんだー!」
「レイちゃん、アンズちゃん、久しぶりー!」
ティム達が花畑に入るなり、たくさんのカラフルな妖精達が歓迎ムードで飛んできた。
それに対してティムはにこやかに笑顔で迎えるが、アレンは少しと言うか大いに引いていた。2人の妖精に対する視線はまるで違うものを見ており、ティムは女性として扱っているがアレンは妖精達を何か虫のようなものとして見ているような様子である。
「みんな久しぶりだね、元気してるようで良かったよ。なあ、アレン」
「お、おう、そだな……おれ、あんまりたくさんの妖精に囲まれるのちょっと苦手なんだよな〜……」
「? 何か言ったか?」
「やー、別に! 何もないよ〜」
光が色とりどりの花々を綺麗に照らす。そこから生まれ出でた妖精達は故郷の花の色そのままに受け継いだ外面と内面の個性を持つ。
ティム達を歓迎して囲む妖精達の中に、レイと同じ鳥の翼を持つ子はひとりもいない。皆、アンズのようにトンボのようであったり、或いはアゲハチョウやオオスカシバ、オオミズアオやウスバカゲロウのような昆虫の羽根を背から生やした子ばかりである。
ただ、レイがこの花から生まれたのだろうと言うのがわかるフェア・リリィは花畑の真ん中に鎮座していた。
咲き乱れる花々の領域の中に急な草原の空白が生じ、その真ん中にピンク色の花を咲かせるユリのような植物があった。
「私はあのフェア・リリィから生まれたんだよね」
「そうだな、あの花はレイなんだ」
懐かしさに浸るティムとレイ。そんな2人にアレンとアンズは先に戻ると言って、一方通行の順路の先へ向かった。
それからしばらく、双子の太陽の光に照らされて凛と立つ花を眺める2人。……するとその後ろから気さくに馴れ馴れしく声をかける者があった。
「やあ、ティム皇子だな」
ざわめきが起こる。レイ以外の周りにいた名も知らぬ妖精達の集団がその者の出現と同時に、霧散するように逃げていった。
「気さくが過ぎる奴だな、誰だ?」
当然の返答、当然の反応。疑問を投げかけると同時に振り返ったティムの後ろには顔だけは女のような印象だがやたらとガタイの良い野薔薇の貴公子がいた。
「我が名はドッティ・トッカドウ・ミッティ! ティム皇子、はじめまして、そしてさようなら!」
貴公子ドッティは律儀に自己紹介をした後、即座に懐からマアト用携行ディバイドセイバーを展開し、切り掛かってきた!
敵がいつ襲ってくるかわからない状況の旅をしていたティムもまた、妖精の集団が逃げ始めた瞬間から取り出していた同規格のディバイドセイバーを展開し、その一撃を受け止める。
「ドッティくん、丁寧な自己紹介、恐れ入る! だが生死レベルの一期一会はお断りだ!」
「そうか! 私としては今すぐにでも消えて欲しいんだがね!」
「こんなところでやめて! 殺し合いならせめて外でやってよ!」
何度か互いに切り結んだところでレイが叫ぶ。
「それもそうだ、レイ達の故郷を穢すわけにはいかん!」
「くっ! 妖精達の故郷の土になるのは本望だろうに!」
「俺の本望を勝手に決めるな!」
ぐるりと回りながら光の剣を打ち付け合い、順路に沿ってドッティを押し込んでいくティム。ここはレイ達の故郷だ、目の前の相手がどこの何者かはわからないがドッティの勝手にさせるわけにはいかない。
ここでティムを殺すつもりだったドッティは思いの外強く対応してきた彼の剣捌きに押された。
そしてそのまま、保護センターの出口に乱暴なかたちで辿り着きティムがドッティを蹴り飛ばすかたちで外に出た!
「ちぃッ!」
外に出るなりアレンがキャロット号で駆けつけてきた。ドッティは舌打ちしながら不本意な後退を余儀なくされる。
「センターのおばちゃんから連絡を受けた! ティム、大丈夫か!」
「なんとかな! ……ドッティとやら、まだ俺を殺る気か! ならば騎士戦で決着をつけるぞ! 君のその身のこなし、剣の腕前……俺にはわかる!」
「フ、そうか……」
ドッティは言われるまでもないとばかりに右手を掲げ指を鳴らす。その動作に彼の腕時計型のガジェットが反応して何らかの通知をどこかに送る。
この動作を見てティムは彼がどこかの軍属であり今し方部下に招集連絡を取ったと判断した。
「答えはイエスだな、だがここで戦うわけにはいかない!」
「場所を変えると言うのか! ……確かにそれが良いのかもしれん。貴様が見つめていたあの花の尊さは私もわかる。だからその花の礎としてやろうとしたのだがね!」
胸元の野薔薇を押さえて同意するドッティ。フェア・リリィだったものかとティムは悟る。
「
先に戦場へ移動するぞとドッティは腕時計型ガジェットから超小型二輪ホバーバイクを射出展開した。クラインの壷を搭載しているであろうそのガジェットから出たそれに颯爽と乗ると、ついてこいと促しながら走り出した。
「……なんだかすっごくやべーやつに捕まったな、ティム!」
「な? 何にしたって来ただろ! 俺たちも急ぐぞ」
「って、オイオイオイオイオイオイオイ! なあなあなあなあなあなあなあ! あんなやべーのと律儀に戦うことないんじゃあないか!?」
「皇子に二言はない!」
「かぁーーー、だからお前の事気に入ってんだ!」
そうしてティム達もキャラット号に戻り、先んじて開けた草原と荒野の境目めいた場所に辿り着いていたドッティに追いつく。
この移動の間にサーガの出撃準備は整っていた。そしてドッティ側も先ほど襲ってきたケイオス軍など比べ物にならないほどの軍勢を後ろに従えて構えていた。
その軍勢を見たアレンは早速、敵軍を解析し始める。このキャラット号には戦闘に必要最低限でなおかつ最高級の軍事システムがその小さな船体に収まる程度に詰め込まれている。
アレンがそのシステムを使ってアクセスしたのはこの定期的な戦争に参戦している各惑星の軍の情報を誰にバレてもいい、むしろ共通認識でなければならない範囲で載せている、いわばこの戦争を競技大会に見立てた場合、選手名簿と解釈できるデータベースである。もちろん、ここには自分達の事も載っている。
「ワール・ティーラーはともかく……タカマガハラ、アイゾンステラ、ジューヌトリア、ビートビート……おかしい、どこの代表国軍や従属国軍とも一致しないぞ……ティム、気をつけろ! コイツらはデータベースのどこにもない! ……いやむしろ……」
この後アレンは小声で何かを呟いたようだがその呟きはティムには聞こえなかった。
「相手が誰でも勝つ! それが俺の成すべき事だ! ……わかってるさ、何かがおかしい。だがおかしくなくてどうする、戦いだぞ! ……やってみる事でわかる事はいくらでもあるさ、心配するな」
不安そうな顔をして側にいるレイ、相手の軍勢を訝しむアレンとアンズ、そして乗り込んでいるサーガ全員に言い聞かせるようにティムは語りかける。
ディバイドコンバーター、エンジン、バッテリー、駆動機関……コンディションオールグリーンのランプが点灯する。
一方、ドッティの軍勢も彼の出撃準備が整えられていた。
彼が乗り込んでいるのはBタイプと呼ばれる規格のMCの最高級機体のひとつ『ヴィオラ・ヴィーナス・ローズ』だ。
Aタイプ規格のサーガはこの太陽系に生きる巨大生物の生体組織を多く使用したMCであり、ジャッコやデーオなどのCタイプ規格は機械のパーツの割合が多い。つまりヴィオラのようなBタイプ規格はその中間である。
そのコックピットの中には白く濁った瞳のフェミリーがいた。
「ドッティ……戦うの?」
「我が愛しき姫君フロル……ええ、これから戦いです」
フロルと呼ばれた盲目のフェミリーは小さなバラの花の髪飾りを携えた紫色の長い髪を生やした可憐な顔つきの頭をドッティに向ける。その背には……かつて鳥の翼が生えていたであろう惨い傷痕があった。
そう。と小さく儚い優しい声で答える彼女をドッティは、レイに対するティムにも負けないほどの優しさで撫でてから野薔薇を携える自分の服の胸ポケットの中に入れた。
コンディションオールグリーンのランプを確認したのはその時であり、それはティム達と同じ時だった。
「……ドッティ・トッカドウ・ミッティ! ヴィオラ・ヴィーナス・ローズで出るぞ!」
「レイ、サーガ、共に行くぞ! サーガ・トリニティ・コア、出撃する!」
互いの陸上船から赤のサーガと紫のヴィオラが同時に飛び出した!
飛び出した瞬間には既にサーガはディバイドセーベルをライフルモードにして構え、空中戦を仕掛ける!
ヴィオラもまた、両腕に携えた外付けのガトリングビームランチャーをサーガに向け、バックパックブースターを噴射して空中戦!
互いの得物を確認したその瞬間、互いのパワービームが空に花を咲かせるように軌跡を描き始めた!
「出力差は弾幕で圧倒するッ!」
「ッ、たまったもんじゃない!」
気押されたような事は言いつつ冷静にヴィオラの攻撃を回避しながらティムは次にヴィオラ……ドッティがどこに動くか予想しながらディバイドセーベルからビームを放ち続ける。
ヴィオラはそのビームを常時展開しているバリアで弾きつつ……そのバリアが命中する箇所を微妙にずらしながら迫る。
「ならば、VDAキャストオフ!」
徐にサーガが赤い装甲の部分を全てパージ! その行動は手数を増やす、機動性の向上、更に次元干渉モードへの移行可能状態になった事などを意味する。
バラバラになった装甲はバリアを展開して本体を守りながらテントウムシのようなかたちに組み合わさっていく。その間、水色のサーガは自由落下のように見せて背面飛行をしており、隙を見ていつでも次元干渉できる余裕を見せながら……連射速度の上がったパワービームをヴィオラの下から放つ!
「小癪な!」
合体変形が完了したVDAから放たれるエナジーバルカンがパワービームと重なるようにして飛んでくる動きに対し、ヴィオラは両腕のガトリングビームランチャーを取り外しそれらをVDAに投げつける!
それが当たるか当たらないかに関わらず、とヴィオラは更にディバイドセイバーを展開!
VDAは本体を守るようにそのガトリングビームランチャーを受け止める!
その隙を突いてヴィオラがサーガに急降下して迫っていく!
サーガもディバイドセーベルに生命エネルギーの光刃を灯し次元干渉!
ヴィオラもまた次元干渉モードに突入し、光速次元の戦いが始まった!
「消えた、互いに次元干渉モードか!」
陸上船のアレンがレーダーを見る。そのレーダーは次元干渉モードに入ったMCの機影を捉える事が可能だ。
そのレーダーの表示上の点……青く光るサーガ本体と付随するVDAの2点と、赤く光る敵識別の点……サーガ本体を追跡するヴィオラ1点と……陣を組んで動かない謎の軍勢の陸上船が32隻。
アレンはティムの出撃前にこの陸上船の数を確認して背筋が凍っていた。この数は流石に戦力差が大きい。そして恐らくこの軍勢はいつからか解らないが自分達をこの数で尾行してきた。そこでアレンは陸上船の数を確認した時点である場所に救援通信を送っていた。
その救援がいつ来るか、レーダーから目を離し、眼前の風景を目視する。
無音の世界にただ風が吹き、光が見え隠れする。刹那、巨大な土塊がいくつも並ぶ荒野の方で次々とその土塊が爆発し始めた!
何か巨大なものが動く残像のみが常なる次元にその凄まじい戦いの軌跡を見せる!
視点は変わり光速次元にて。
互いに一歩も引かぬサーガとヴィオラが光の剣を斬りつけあいながら荒野の土塊を蹴り付け破壊しそれらを足場にして戦う!
「しつこい!」
「それが私の取り柄だからな!」
「褒めてないッ!!」
ティムとドッティ、互いの意地が互いの機体に伝わり合いどちらも引かない!
そしてその勢いは同時に次元干渉モードが切れて常なる世界に戻った時も止まらなかった。
砂煙をあげて着地し、互いに睨み合うふたつの機械騎士。
次元干渉モードに再び突入できるようになるまでのインターバルにおいても休む事はない。サーガはセーベルをライフルとして構え、ヴィオラは内蔵式ビームマシンガンを腕部から出して構える。
そして同時にまた光の弾幕が互いに展開される。サーガは一撃に込めるパワーを、ヴィオラは手数を重視していると言う傾向の違いこそあれど、放つ光は同じだった。
セーベルから放たれる光の一撃はヴィオラの展開するバリアのただ一点をロックオンし、今度はそこに追従するように連射される。そしてサーガ自身はVDAを呼び寄せ、二重にバリアを展開しつつ物理的にも防御を強化する事により、手数と正確性で上回るヴィオラの光の弾幕がバリアを突破し本体に一撃加える事を許さない。
「皇子というものは存外に生き汚いものだな!」
「当たり前だ、こんな俺でもまだ見ぬ未来を背負ってるからな!」
「ならばこれでどうだ!」
後少しでヴィオラのバリアを突破できる、だがドッティはそれを許してくれるほど弱い相手ではない。
ヴィオラから放たれる弾幕に更なる花が咲いた。脚部と背面部に増設されたポッドから生命エネルギーを火薬に変換したディバイドミサイルが発射される!
そのミサイルは次元転送システムを通じて陸上船から直接ヴィオラのポッドに装填されるものであり、弾切れの気配はない。
それらの狙いはサーガを狙うものと周りに着弾するものとで半々となり、爆風と熱がサーガの動きを大きく制限し、バリアを大きく揺さぶらんと仕掛けられる!
だがティムは戦いの最中に、ドッティがいつ次の一手を仕掛けてくるか、サーガの生体OSとレイとで計算しあっていた。
次元干渉モードへのインターバルが終了し再び移行できるようになるその時だと結果は出ていた。そして、実際にタイミングが一致した!
瞬間的にサーガが次元干渉モードに再突入し、光と熱の弾幕から脱出!
しかし相手も只者ではない、ヴィオラも同時に次元干渉モードに再突入!
また、周りの崖や山々が大きく弾け飛び、轟音と閃光を伴って著しく形を変え崩れていった。
程なくして再び現れたサーガとヴィオラの姿に素人目には違いはなかった。
だが互いの周りに展開されているバリアには穴や傷が開けられ、互いに渾身の一撃を与え合ったであろう傷が時間をかけて修復されつつあるのが見えるほどに戦闘の状況は変わっていたようだ。
尤も、どちらかが有利にことを運んだと言うことはやはりなく、サーガもヴィオラも睨み合うようにして立っていた。
「かくなる上は……」
「アレを使うしか……」
互いにまた何か隠し球を使おうと画策したその時。
リーナクライン城の方角から巨大な
「……何!」
「……あの船はラーナか?」
驚くドッティ、誰かの名前を呟くティム。
その反応から察するにどうやらこの空中戦艦はアレンが呼んだ救援だ。
「……興醒めだ。君が呼んだものではないにしろ邪魔が入った! ティム皇子、この勝負は預けたぞ!」
潔く武装を解除して陣営に踵を返して戻っていくヴィオラ・ヴィーナス・ローズ……ドッティを睨みながら見送るサーガ・トリニティ・コア……ティム皇子。
紫の騎士は陣営に戻り、しばらくして陸上船達が次々と地平線の彼方に消えるように高速移動していった。
「ティム様、大丈夫ですか?」
VDAをサーガ本体に戻し、顔中に流れる汗を拭っていたその時、通信機越しに少女の声がした。
「やはりラーナか、ありがとう! ……アレンから報せてもらったのか?」
「はい! ひとまずアルティナで合流しましょう!」
アルティナとはこのラーナと言う名の少女が乗ってきた空中戦艦の名前だ。
新たに敵が出る気配もない。ティム達はラーナの元へ向かう事にした。
この戦乱、どうやら単純な皇子達の戦いでは終わらないようだ。
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