セイファート銀河戦記

葛城修

6皇子・ティムの章

ティム皇子の章の1 アタック・シフト

 双子の太陽が青空に輝くその下に、どこまでも爽やかな緑が広がる大草原があった。

 その草原の海を疾走する陸上船ランドシップがあった。陸上船とはホバークラフトの要領で走る、船と車を合わせたような乗り物である。

 陸上船には男が2人乗っていた。運転手の男は黒いサングラスと金髪のポンパドールにリーゼントで頭部を彩っており、軍服のようであり特攻服のようにも見え王族の服にも見える白いスーツに身を包んでいた。彼は陸上船のハンドルをしっかり握り締めアクセルを程々に踏み込み、サングラス越しに正面を中心に状況を見据えていた。

 もう1人の男は甲板の上で呑気に寝転がっていた。鮮やかな紅の髪を短く切り揃えた頭を両腕枕にして、運転席の男とは対照的にサングラスなしに瞼を閉じて双子の太陽の光を受け止めていた。服装はやはり王族のような軍人のような、しかし運転手の男よりも高貴でありつつ動きやすくラフな格好をしていた。

 彼は厳密には甲板の上につけた簡易的なチェアの上に寝転んでいた。運転席の男に信頼と信用を置いている事はその体勢からもわかる事である。

 この男2人旅と言った様相の陸上船、キャラット号の後部には巨大なコンテナが繋がれていた。このコンテナは恐らく男2人の居住区であり、大事なものを積み込んでいるようにも見える。

 かなりの重量と大きさのものがあるのだろう。少し揺れるたびにずしんと振動が男2人に伝わるが2人とも焦る事なく淡々と運転と休息を続けている。

 2人が目指す場所はどこか。どこまでも続く大草原には果てがないように見えたがやがて、見た目には煉瓦造りに見える巨大な城とその下に広がる街が見えてきた。


「……お、やっとか」


 運転手の男がサングラスを上げ碧眼の双眸で果てに見えてきた城を見据えた。目的地はあの城下町、或いは城だろうか。


「おーい、ティム! もうすぐお前の許嫁の城に着くぜ!」


「ン、そうか!」


 運転手の男からティムと呼ばれた、甲板のチェアで寝ていた男がゆっくりと、しかし迅速に起き上がった。開いた瞼の下の瞳は晴れ渡る空の色めいた蒼だ。運転手の男と比較するとそれよりも更に深い蒼は海のようでもあった。

 城に許嫁。このティムと呼ばれた男の身分は相当高いのだろうか。運転手もそれ相応の身分だろう。


「あの時から長かったな……」


「そうだな、お前さんが親父であるワール・ティーラー現皇帝サマに無理やりに出奔しゅっぽんさせられたのが3日前、あっという間とは行かなかったな」


「それを言うならアレン、わざわざお前に付き合ってもらって3日も経ったとも言うぞ」


「良いってことよ。おれは皇帝陛下は気に入らんがその息子のお前は好きだからな」


「その友情がこの3日間で凄くありがたく身に染みたよ」


 ワール・ティーラー。それはこの緑の草原、豊かな大地が広がる温暖な『惑星国家』、星の名になっている代表国家である。皇子と呼ばれたティムの身分はこの星の頂点に近く、運転手を務めている男……アレンの身分はだからと言って低いものでもなさそうで恐らく物凄く近い。

 そしてこの2人の間には、きっとどのような身分で生まれていても繋がりあっているであろう絆がある。

 と。ティムとアレンの懐から何かが飛び出してきた。

 ティムの懐からは虹色に輝く鳥の翼を背から生やした、桜色の長い髪をツインテールにした少女の姿をした、体長がおおよそ15cmほどの……妖精と形容すべき生物が羽ばたいてきた。その長い髪には青と白の髪も混ざっている。くりくりとした瞳は金色に輝いている。

 一方、アレンの懐からはトンボのような羽根を背から生やした、黒髪のショートヘアの少女の姿をした、やはりおおよそ15cmほどの妖精めいた生物が羽ばたいてきた。

 同種の生物のようでいて違うように見える彼女の瞳は茶色であった。


「もーっ、私たちの事忘れてなーいっ?」


 鳥の翼を持つ方の妖精が純真無垢な女児のような声で話しかけながらティムの周りを飛び回る。


「もちろん忘れてはないさ、レイ」


「よかったーっ、男の友情の世界に浸ってるように見えたからびっくりした!」


 レイと呼ばれた鳥の翼の妖精少女は安堵したのか、ティムの肩に乗って身を寄せた。


「うぉっと、アンズ! ごめんな、おれたち人間マアトだけじゃなくてアンズたち妖精フェミリーもいたもんな」


「酷い、こっちは忘れられてた」


「ごめんって! いたい! おれの髪をめちゃくちゃにしないで! アンズさまごめんなさい申し訳ございません運転中だから暴れないで!」


「むきーっ!」


 一方のアレンとアンズと呼ばれた黒髪の妖精少女はこんな感じで戯れていた。


「……そう、3日経ったんだ。ここまでの旅も短いようでたくさん色んな事があった」


 運転手組の喧騒を無視してティムが過去を振り返る。


『この戦争で、自分が創りたい新時代の確固たるヴィジョンを創り上げて勝つことができなければお前はマアト失格、皇位継承以前の問題だ』


 3日前。突如として現皇帝である父親から呼び出されたティム皇子は……天球暦ルネス・イラ……REと呼ばれる太陽系規模文明の暦が使われ出してから実に9401年経つこの世界において伝統的に定期的に繰り返される『惑星国家統一元首皇帝』を決めるための戦争にワール・ティーラーの代表として出ろと命じられた。

 皇子である以上、そして定期的にやってくる時期に生まれた以上、それは定めであった。ティム皇子はそれに反対はせずに出撃をすぐに決意し表明したのだが、その直後に言われたのがこの言葉である、

 ぐっとその事を思い出して唇を噛むティム。ぐうの音も出なかった。彼には彼よりも政治的な手腕の優れた弟のグレン皇子がいた。ティム皇子は皇子で嫡男でありながら、皇帝の座は彼に譲る気でいた。

 それが現皇帝の逆鱗に触れた。現皇帝としてはなんとしても、長男であるティム皇子にこそ皇帝の座、ひいては統一元首の座を継いでもらいたいと言う願いがあった。純粋な親心と、彼のある面での手腕と、彼が自信が無いと否定し続ける方面での才能を信じての事である。

 だが今の時点で勝利を収めても彼は統一元首にはなれない、ならない、なる気がない。故に現皇帝はただ勝つ事を許さなかった。多くの人の上に立ち共に未来を歩むものとして多くの事を学び、自分の理想を見つけて目指しその上で勝たなければならない。

 本意がわかるからこそ、ティム皇子はやるせなかった。戦争の手段である、『あるもの』で戦うことにおいての自信はある。だが、勝って叶えたい事がない。それ故に叶えたい事を、自分の内にあり外にもある未来への天望を見つけなければならない。何度も語ることであり語られることだがティムに望まれているのは皇帝としての良性な変貌であった。

 このルネス・フロント天球域と呼ばれる太陽系規模文明を持つひとつの太陽系にはワール・ティーラーの他にも惑星国家が4つある。

 竜の星タカマガハラ。

 鉄の星アイゾンステラ。

 砂の星ジューヌトリア。

 森の星ビートビート。

 そしてここは風の星ワール・ティーラー。

 他の惑星国家からも同じように代表国から皇子あるいは皇女が参戦してくる。彼ら彼女らはきっとティムと違って、確固たるヴィジョンを持っているのだろう。


「俺の創りたい新しい時代ね……それはこの『旅』で見つけるよ」


 そう呟いた瞬間、音が遠くから響いてきた。金属の塊が空気を引き裂いて高速で飛んでくる、生命の本能的に危機的なものを示す嫌な轟音だ。

 ティムがそれを目視するより前にアレンがその音の主……遥か彼方から飛んできた砲弾をかわそうとキャラット号のハンドルを全速力で切った!


「敵襲! なんだ、賊か!?」


 陸上船が大きく傾くと同時にアレンの声が響く! そして、2秒ほど前まで陸上船がいた場所に砲弾が直撃し、草原を吹き飛ばし直径1mほどの大穴を開けた!

 態勢を立て直した彼らの行く先に待ち構えていたのは、刺々しい改造を施した陸上船とそれを囲むようにして陣形を編成した全長5mほどの機械人形と形容すべき機動兵器の集団! 数にして陸上船が4隻、機械人形は陸上船1隻につき4体!

 その雰囲気はどこかの国の正規軍と言うよりはアレンが最初に叫んだ通りの賊である。


「いたぞォ! ワール・ティーラーの皇子サマどもだァ!」

「ヒャッホウ! 奴らを狩れば惑星元首が入れ替わるぜェ! この星の覇権をケイオス様に捧げよォ!」

「イェーイ! マイロードオブケイオス!」


甲板から運転席に移ってくるまでの間にそんな怒号が響いてきたのでティムは顔を顰めながらアレンの後ろに降り立った。


「……うぇーっ、聞いたかティム!」


「聞きたくなくても聞こえた! 奴ら、賊っぽく見えるがケイオス国の軍だ!」


「おれら倒して代表の座を取ろうって魂胆かよ!」


「薄ぼんやりしたヴィジョンも持てていない俺でもわかる、あんなの率いている奴に負けたら終わりだ! アレン、出撃する!」


「わかった、お前が負けることはないと思うが気をつけろ!」


 それに対して任せろと一言返すとティムは後部のコンテナの方に飛び移り中に入る。

 コンテナの中にはシートに包まれている、まるで安らかに眠っているかのように置かれた巨大人型兵器があった。


「サーガ・トリニティ・コア出撃準備だ!」


 ティムがそう叫ぶとコンテナに積まれていた自動整備システムが動き出し、シートを外して折りたたみ、サーガ・トリニティ・コアと呼ばれた巨大人型兵器を直立させていく。

 同時にコンテナの天井と壁が連動して扉のように開いていき、サーガの巨体を世に晒した。

 赤色の装甲に身を包みその巨体を大きく見せているサーガの姿は、重装甲に身を包んだ巨大な騎士とも言うべきものであり、ケイオス軍の使うそれらとはひと回りもふた回りも大きさが違った。

 およそ25m程の巨体を晒した機械騎士サーガ・トリニティ・コア。この胸部にティムが乗り込んだ空中バイクがドッキングする。

 もちろんこの間もケイオス軍の攻撃は止まらない。だがアレンはキャラット号のバリアを発動させることでその隙を抑えていた。

 そうしてケイオス軍の機械人形達の攻撃をいなしながらティムがサーガに搭乗完了。


「サーガドライバードッキング完了! ディバイドコンバーター、エンジン、バッテリー、稼働組織等オールクリア!」


 コックピットの計器類が緑色にランプを灯していく。各電子制御機器や生体機器、現代では失われた技術や現代生まれの技術などの組み合わせからなる機械騎士の内部全てが正常である事を示していく。

 それらを素早く目視と指差しで確認しているティムのパイロットシートの隣にレイがちょこんと専用台座に座る。


「私の準備もオーケーだよ、ティム!」


「よし、レイ、サーガ! 共に戦うぞ! サーガ・トリニティ・コア、出るぞ!」


 そしていよいよコンテナからサーガが戦場へと飛び出した!


「ヒュッ!? 機械騎士マキ・キャバリエが出ましたぜヨミの姉御ォ!」


 その雄々しきサーガの勇姿にケイオス軍のモヒカン兵士が叫んだ!

 だがヨミの姉御と呼ばれた司令官であろう女性軍人は怯まない。


「落ち着きな! あたいらにも機械騎士くらいはある! それに見たところAタイプでランクは甲、最高級ではあるが……やれんことはない、相手がいかに強力であろうと数が違うんだよ! まずは従機械マキ・レーバー部隊で削れるだけ削るんだよ! あたいはあたいの機械騎士で出撃準備をする!」


 イェッサーと敬礼するモヒカン達に囲まれて陸上船に引っ込むヨミ。と同時に従機械と呼ばれる区分の兵器でドルクスと言う名前のクワガタのような可動式ブレードを備えた迷彩柄の機体と、センチピーと呼ばれるムカデめいたチェーンソーを備えた同型発展機と思しき機体がそれぞれ2体ずつの小隊が、地上に降り立ったサーガを囲むように走っていく!

 雰囲気こそ賊ではあったが同じ惑星の中にある従属国家の軍である彼らは世紀末に生きているかのような雰囲気とは裏腹に統率の取れた行動で迫っていく。

 まずドルクス側の小隊のうち前方に出た機体が高周波ブレードを展開、後方の機体はビームと実弾を同時に撃つマシンガンを構え、前方の僚機に当てず尚且つ大きな的であるサーガに確実に当てるような立ち位置と距離から攻撃してくる。

 センチピー側の小隊はサーガの後方に回り込み、高周波チェンソーを回転させつつ双方が同時に胸部にあるバルカンを放ちながら近づいていく。


「数と小回りはこちらの方が上だァ!」

「これだけ囲めば機械騎士と言えどただじゃすまんぞ!」

「B小隊、C小隊、D小隊もオレたちに続けェ!」

「ヒャハーーー!」


 後方から同じようなフォーメーションで次々と他の小隊も仕掛けてきた!

 だがサーガは……ティムはあえてそれを避けようとしない。赤い装甲、展開したバリア、それらの防御手段で射撃をそれぞれ受け止めつつ、接近戦を挑んできた機体それぞれに頭部からのエナジーバルカンを浴びせて応対する。

 バルカンを浴びたドルクスとセンチピーは一撃浴びせる暇もなく、あるいは一撃確かに与えたその瞬間に、バルカンに貫かれて呆気なく爆散していく。

 そしてその射撃は、遠くから射撃を浴びせてきた部隊にも当然のように向けられる。

 放たれる弾丸の質と速度と量、何もかもがサーガの方が上である。遠くのフォーメーションに位置しつつ接近してきた彼らもやはり呆気なく爆散していった。


「なんだ、そんなものか! 数が上と言うのならもっと連れてくるべきだったな!」


「クソが! やはりカテゴリの戦力差は同じじゃないと覆せないか! ヨミの姉御はまだでっか!?」


 刹那の間に16機、2種8機ずついた従機械の部隊が数では覆せない戦力差の前に散っていった。サーガが使った武装はエナジーバルカンのみであり、装甲で受け止めた弾丸や斬撃の傷はナノマシンが修復していた。


「待たせたねお前達! ッ、こんな僅かな間に……済まない! お前達のためにもこの道楽皇子を代表の座から堕ろしてやる! 全ては我が盟主、ロードオブケイオス……ダッキス様のためよ!」


 部下を失った憤怒と盟主への忠誠を込めた叫びと共に、ケイオス軍の陸上船からヨミを含めた司令官達の乗った機械騎士が飛び出してきた!


「ジャッコが2体、デーオとゴル・シルが1体ずつか! 階級は劣るがCタイプとは厄介な!」


「問題ないアレン、双方全く不足はない! だが勝つのは俺だ!」


 ティム達の前に現れた機械騎士……異なる3種の編成が数を成し威力を持って立ちはだかる。

 ジャッコと呼ばれた機体は軍人のイメージを掛け合わせたデザインをしており、雑魚を連想させる名前とは裏腹に堅牢な強さを持つ機体である事が見て取れる。

 デーオと呼ばれた機体はジャッコとは対照的に触手めいた武装、電磁アームウィップを両腕に備えたクリーチャー然としている機体であり、汎用性とバランスと外付けの武装による拡張性を重視したジャッコに比べ、接近戦に一点特化した攻撃的な性能を持つであろう事が見て取れる。

 そしてヨミが乗り込んだゴル・シルはジャッコやデーオよりも階級が高いらしく、背中に金と銀に輝く大型のディバイドコンバーターを備えていた。

 ディバイドコンバーターとは機械騎士に共通している規格であり、パイロットの生命エネルギーを動力として伝えるためのシステムである。サーガにも、もちろん先述のジャッコやデーオにも備えられている。

 そしてゴル・シルは右手に金色のディバイドアックス、左手に銀色のディバイドトマホークを持っており、力こそパワーを体現する者として正に鬼の形相で立ちはだかった。


「機械騎士で数を上回ればァ! 野郎ども、次元干渉モードで囲むよ!」

「イエスマム!」


 ゴル・シルに搭乗しているヨミが、他の機体に乗っているヨミと同階級の者達に叫ぶ。ヨミの司令とともにケイオス軍の機械騎士全機が周りの空気を陽炎めいて震わせて、そして。


「消えたッ、ティム!」


「わかっている!」


 ティムの耳元でレイが叫んだ瞬間、姿を消した4機の姿が朧げに見えた! そしてサーガが次々と打撃や射撃、斬撃を受けていく!


「ッ、ティム!? 何ボサっとしてんだ!?」


 思わず叫ぶアレン。だがサーガは動かない。

 次元干渉モード。それは機械騎士が持つ高速戦闘モードであり、通常とは異なる次元に身を置く事で他者を圧倒するスピードとパワーで殲滅戦を仕掛ける事ができる。

 だが、そんなものがパイロットに何も負担をかけないはずもない。サーガがあえて無防備に彼らの猛攻を受け止めていく間に、まずジャッコに乗っていた司令官達から限界が来たようだ。


「ぐふぅ! こ、これは優位に立てるかもしれんがき、きついッ……」


 血反吐を吐き散らかし、音を上げたジャッコ達が止まる。続いて数十秒後、デーオの司令官も身体に限界が来て次元干渉モードを止めてしまう。


「ぐわぁっ!」


「最初に出てきたお前以外は乗り慣れていないようだな!」


 やむを得ず次元干渉モードを止めたヨミに対してティムが叫ぶ! サーガは全身がズタボロの傷だらけになっている様を、敵全員に見せつけるようにして瞬時に無傷の状態に修復していく!

 ゴル・シルが持っていた2本の斧にはサーガの装甲を何度もズタズタに深々と引き裂いたであろう痕があったが、それらが無駄であると思い知らされるかたちとなった。


「ちょこざいな! お前達、体は大丈夫か? もう一度行くよ!」


「させるものか、今度はこちらから仕掛けさせてもらう! ヴァリアブルドッキングアーマー、キャストオフ! 次元干渉モード行くぞ!」


 瞬間、再び次元干渉モードに入ろうとした一団の動きを阻止するように、サーガの赤い装甲が弾け飛んだ! 赤い装甲はそれぞれ推進力を以って飛び立ち、ジャッコ2体とデーオに対して体当たりを仕掛けて吹き飛ばしながら空中を飛び回り、巨大な甲虫めいた姿となる!

 そして変形し切った赤い装甲の下にあったサーガ・トリニティ・コア本来の姿が顕になる。空のように美しい水色の薄い装甲がフレームを包んでいるのが見て取れる、機械と生命体の融合体。


「ッ、美しい……だが、綺麗なだけでは!」


「ないと言う事、ここまででわかってるはずだ!」


 会話も一瞬、今度は本来の姿になったサーガが消えた。独立した機体となった赤い装甲も。


「お前達、次元干渉モードへ早く! ッ、あぁッ!」


 ヨミが叫んだ瞬間、次元干渉モードへ移行しようとしていたジャッコが一度に2体とも光の刃で斬られて爆発した。

 なんとかして次元干渉モードに移行できたデーオのパイロットはその様子をつぶさに目撃していた。

 サーガは高速の次元に突入すると同時に専用チューンナップされた武器である『ディバイドセーベル』を抜刀。棒めいたその刀身に生命エネルギーを走らせ、光の刃を形成。

 そうして態勢を立て直そうとしていたジャッコを一方的に斬り伏せた。

 たまらずデーオが仇を討とうと電磁アームウィップを展開、サーガのディバイドセーベルと斬り結ばんと迫った。その瞬間、振り向いたサーガは電磁アームウィップとは鍔迫り合いになる事すらなくセーベルで切り払い、そこから先ほど屠ったジャッコの爆発の中に自ら後退して飛び込みながらライフルモードに切り替えたセーベルからビームを放ち、デーオを撃つ!

 それに対しデーオは……攻撃一辺倒に見える外見にあるまじき対策、ビームに対するバリアを予め張って防御しながら前進しようとした。

 しかし、サーガの放ったビームのパワーが想定を上回っていた上に素早く同じ箇所に10連射された。バリアも装甲も貫かれて焼かれたデーオもまた爆散。

 更にケイオス軍の陸上船もついでと言わんばかりに射撃して全て撃墜する。

 呆気に取られたゴル・シルのパイロット、ヨミの前にサーガが次元干渉モードを解いて現れ、セーベルの切先を突きつけたのはその直後だった。


「背後もとった。……引き下がるなら今回の件、ロードオブケイオスには不問にしておいてやる」


「ッ、舐めるな! 傲慢と余裕を見せて、死ねぇっ!」


 ティムの言葉通り、ゴル・シルの背後には独立した姿になった赤い装甲が銃口を向けていた。

 だがヨミはそんな忠告は遅いとばかりに次元干渉モードに突入した。


「(いくらなんでも、次元干渉モードのインターバルは無視できまい!)……ッ、うおおッ!?」


 挟み撃ちにされようとも次元干渉モードのインターバルを突けば勝てる、傲慢と余裕を見せたティムに間抜けと言って殺しにかかったヨミだったがしかし、次の瞬間にはサーガも次元干渉モードの世界にいた。


「そうか、ならば仕方ないッ! すまんッ!」


 ゴル・シルが瞬間的に放ったディバイドアックスとディバイドトマホークの左右からの連撃をセーベルでいなすとサーガは、細身と言えるそのボディからは想像もできないほどのパワーで蹴りをゴル・シルの腹部に入れた!


「ごはッ」


 その軌跡の先には独立赤装甲。そこからいくつもエナジーバルカンが放たれる。それと同時にサーガはディバイドセーベルからパワービームを放つ!

 そして穴をいくつも開けられ爆散していくゴル・シルにダメ押しで光の刃の斬撃が入り、完全にトドメを刺した。


 次元干渉モードの世界から戻ると同時に赤い装甲がバラバラに戻り、サーガに元の形で合体していく。

 爽やかだった緑の草原は赤い血とそれによく似た油と炎に汚された。


「……すまない」


 襲いかかってきた者達にティムは鎮魂の意の黙祷を捧げた。


「ティム、大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫さ、俺は負けない。……外からも内からも敵はくる、だが負けられないんだ……いつか掴みたい未来が、今はまだかたちになってないけど俺にもあるんだ」


 レイの呼びかけに優しく答えながらコンテナにサーガの脚を向けさせるティム。

 戦いの旅は始まったばかりだ。待ち侘びるアレン達のもとに戻っていくサーガの背はこれから戦いに身を置き未来を掴もうとしつつもその未来が見えていない若者の不安を隠すように輝いていた。


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