目覚め
「……お?何だ。どこだここは」
ふと気が付けば、俺は見たこともない様な森の中に居た。
幸いそんなに深い森では無いらしく、所々から木漏れ日が差し、少し見渡せば湖の様なモノが有ることも見て取れる。
これなら遭難していたとしても多少は生存率は上がるんじゃなかろうか……じゃなくて。
「なんでここに居るんだよ」
気付けば現状を受け入れていた脳を疑問をぶつけることで無理矢理元に戻した。
我ながらすげぇ順応性高いんだよな。
とまぁそれはさておき、だ。
取り敢えず現状確認といこう。
俺の名は糸崎 和弘。
この世のお荷物を世話せざるを得なかった哀れな一般ピーポーだ。
うん、取り敢えず自分に関しての記憶は大丈夫っぽい。
……まぁ、それ事態おかしい訳だが。
そう思いつつ、俺は自分の部屋を想起していた。
俺が最後に見たあの燃え盛る部屋だ。
あの時ってまず間違いなく……
「俺、死んだよな?」
死ぬ前にも思った気はするが、あの業火の中救助を期待するのは無理があると思う。
だってドアなんか溶けてくっついてたし。
それに……だ。
俺はゆっくりと自分の身体を触っていく。
そこには薄く毛の生えた腕と足。
髪の毛は元の通り、クルクルとうねった癖っ毛だった。
これもおかしいんだよなぁ。
痛みこそ無かったものの、死ぬ前の身体は間違いなく酷い火傷を負っていた筈だ。
少なくとも右腕は火に舐められ、焼け爛れていたのはバッチリと覚えている。
もし、奇跡でも起きて俺が救助され、完璧な治療を受けたのだとしても毛穴まで焼き潰されているであろう右腕に毛が生えているのはおかしい。加えて、目を覚ますのは病院のベッドの上でなければならない筈だ。
だが実際問題、俺は今何故か毛も生え、こうしてここに立っている……と。うーん。
「……これもう訳分かんねぇな」
と、最初は思わず匙を投げようとしたんだが。
……まぁ、取り敢えず生きてるんだ。
これが夢にせよなんにせよ、現実に見つかる前に上手い料理に楽しいこと。
色々やってみようじゃないか。
ふと思い立ってそう考えることにした。
折角の機会だ。
ポジティブに行こうぜポジティブに。
ってな感じで取り敢えずは森を出ようと思うんだが……
「どーやって出りゃ良いんだよこれ……」
俺は辺りを見渡し、思わずそう呟いた。
なにぶん「気付けばここに居た」だからなぁ。
現在地はもちろん、方向感覚すら掴めていないのが現状だ。
他より高い木があれば登って辺りを見回すことも出来るのだろうが……この辺りの木は殆ど同じ高さらしく、仮に登ることが出来てもさして遠くは見渡せまい。
ただ唯一運が良かったとすれば、水場の有無だろうか。
今見えるアレが綺麗にしても汚れているにしても、水の有る無しでは大分話も変わってくると思う。
寄生虫対策さえ出来れば安全に飲めるんだが、今ばっかりは現状整理が優先だ。
また後で考えるとしよう。
さて最後は食事だが……どーすっか。
当然、基本家でペットどもの面倒を見ていた俺に、獣を狩った経験なんて当然無いし、罠の作り方なんてもちろん知らない。
というかこの森に肉食獣が居ないかを心配する方が先だろうか。
スポーツなんかもロクにしたこと無いからなぁ。
熊なんかに出くわす=死に直結しかねない。
死んだフリが有効だって話は聞いたことは有るが……流石に噂話に命を掛ける勇気は無いからなぁ。
熊鈴でも有れば話は別なのだろうが、生憎音の出る構造なんて知らねぇし……
「はぁ……」
そこまで考えたところで思わずそんな溜め息が漏れた。
我ながらなんと言う無い無い尽くしなのだろうか。
如何に世間を知らずに生きてたかが身に染みるよ。まったく。
ここまで足りない物だらけだと身一つで探すしかないじゃないか。
内心そうぼやきつつ、俺は初めの一歩を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます