第5話
居候すること数日、外に出れる事は少なかったとはいえ新たな発見が多々あった。
代表的な例では、前世では眉唾だった魔法が一般的に知られていたり、エルフやドワーフのような亜人種がいたり、体が若返っていたりとバラエティ豊かながら、ある意味で聞き慣れた発見である。
まぁ、死んだ筈の俺が生きている事に比べれば大した事はないので、どうでもいいが。
今日も今日とて惰眠を貪ろうと布団に突っ伏していると、ガシャガシャガラガラと喧しい音が聞こえてきた。
これでは眠れない。
ボーッとするだけなのも勿体ないので、暇潰し用に編み出した黒炎遊びをする。
転生直後から世話になってるこの炎は俺が燃やしたいもの以外には焦げ目すら付けない利便性をもつ。
何も燃やさない設定にしたコレを使って鳥や魚等を形作り宙に浮べる遊びである。
若返ったとはいえ、いい歳して粘土遊びのような事をするのは抵抗はあるが、誰も見てないため構わないだろう。
……まぁ、このまま嵌まれば人前でも構わずやるかもしれないが。
「なぁ、あんたに客だ。出て来てくれ」
「……客? 俺に?」
いつも通りの雑なノックで声を掛けてくるのは家主だ。
身寄りのない俺に客がいることや、何故か彼の声が震えているなど不自然な点はあるが居候たる者、多少の不満は飲み込むべきだろう。
なにせ大した手間でもない事を恩に感じて数日衣食住を面倒をみてくれたのだ。多少の情も移る。
「分かった、すぐ行く」
前回より難易度を上げてドラゴンでも作ろうと思っていた黒炎を握り潰し、頬を叩いて目を覚ます。
扉を開ければ緊張した様子の彼がいたので肩を叩いて、落ち着くよう促す。
「まぁ、落ち着けよ」
「あ、ああ。悪いな」
家主が緊張して居候が堂々としている様がおかしく、苦笑が漏れた。
思えば俺も随分と表情が温になったものだ。前世では地獄のような職場の影響で無表情と作り笑いしか出来なかったというのに。
「いつも世話になってるんだ。気にしないでくれ」
これは気遣いなどではなく、嘘偽りのない本心である。
照れ臭くて軽口のような体でしか言えてないが、いつかここから出る時は真剣に伝えたいと思う。
そして、この世界にもあるらしい定番職たる冒険者で金を稼げれば仕送りなどもいいかもしれない。
この集落はお世辞にも裕福とは言えないのだから、きっと喜んでもらえるだろう。だからどうか、それまで待っていてほしい。
暗い顔をする彼の背中を文字通りの意味で押し、道案内を頼む。
やがて着いたのは、この集落で一番面積のある広場である。
いかにも頭が良さそうな見た目と男と全身甲冑の騎士(?)達が所狭しと並び、その全員が俺達に注目していた。
「その、なんだ。身分が高い方々だから失礼のないようにな」
身分が高いとは役人だろうか?
昨日までの会話で文明レベルは中世ほどだと察しはついている。
その時代なら『不興を買う=死』の方程式が成り立つだろうから、雑さが服を着て歩いてるような彼でも緊張するのは無理ないだろう。
未だ緊張した面持ちの彼に安心しろと言ってから騎士達へと進む。
「ご苦労、お前は帰っていいぞ」
「あ、はい」
俺だけ前へ進んだ事により後ろに控える形となっていた彼は役人(?)の指示に従い帰って行く。
なんとも険しい目を向けられているが、やはり経歴不明の記憶喪失の人間への扱いはこんなものなのだろうか。
「お前は珍しい魔法を使うそうだな。見せろ」
「え?」
最悪、問答無用で罪に問われるかと覚悟していたが意外と大した用ではないらしい。
なんなら異世界転生お決まりの成り上がりフラグの可能性すらあった。あれか? あの黒い炎は千年に一度の固有魔法とか、そういうヤツなのか?
「分かりました。よく見てて下さい」
期待に高鳴る心を隠し、努めて冷静に魔法を発動する。どうせなら、さっき作り損ねたドラゴンでも作ろう。
そうして指先ほどの炎を出した時、役人らしき男が叫んだ。
「こいつを殺せぇぇぇ!!!」
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