第4話

「おーい、生きてるかー」




 雑なノック音と共に聞こえてくるのは、昨日俺が村に入れるよう便宜を図ってくれた自警団の人間だ。


 なんでも偶然焼き殺した魔物(仮称ゴブリンを含める謎生物の総称)に襲われていた最中だったらしく、恩に着た彼は礼をさせてくれと言ってきたので現在の形に落ち着いた。


 助けた(?)当初は酷く狼狽えていたため、動揺そのまま持っていた槍で突かれるかもと身構えたが、その直後に土下座で謝罪と礼を言ったのを見て安心したのは記憶に新しい。




「あー、悪い。今起きるから待ってくれ」




 村に入れてもらった後は彼の家に居候させてもらっており、いくら自分に正直に生きると決めたとしても最低限の礼儀は通すつもりだ。


 腹など一切立たず、粛々しゅくしゅくと支度する。




「いや、あんたも大変だろう。そのままここで休んでてくれ、飯は後で持ってくる」



「助かるよ」




 家事なり畑仕事なり手伝おうかと思ったが不要らしい。ありがたい限りである。


 まぁ、俺が記憶喪失だと説明したから心配に拍車を掛けているのかもしれないが。




「なにかあったら右の突き当りの部屋に来てくれ。危ないから勝手に出歩くなよ?」




 どうやら俺の対応のため、わざわざ仕事を休んでくれたらしい。何が「危ない」のか知らないが大人しく従おう。




「わかった。任せとけ」




 俺も俺で任されるほどの何かがあった覚えなどないが寝起き時の対応など、この程度で十分だろう。


 さて、思わぬ形で暇が出来てしまった。異世界に身一つで来た身としては、色々と情報収集したいところではあるが禁じられてしまっている。


 ならばやることは一つだろう。




「……寝るか」




 会ったばかりの他人の家で二度寝とは、我ながら図太くなったものだと思うが、暇潰しの手段すらないのだから仕方ない。ああ、仕方ないったら仕方ない。


 湧き出る幸福感で笑みになるのを自覚しながら、約二十年あたため続けた悲願の二度寝を実行した。








◆自警団員 side








「ヤツはどうしている?」




 扉を開けた時、村長に声を掛けられる。


 驚くことはない。なにせ自分で呼んだのだから。


 呼んだ理由は単純で、現在家に上げている恩人兼人類の敵・・・・たる魔人への対処方法だ。


 魔物に襲われた時は死ぬものだと思ったが、命が助かっただけでなく金貨の塊といって差し支えない彼を見付けられたのは幸運と言う他ない。


 黒い魔法が魔人の魔法だと彼は知らないのだろうか。雑な言い訳だと思ったが記憶喪失というのも意外と嘘ではないのかもしれない。




「客間で寝てますよ。何かあれば、この部屋に来るよう伝えてあるので小声でお願いします」




 伝説に残るほど魔人は恐ろしい存在らしいが、この家にいる魔人は温厚というか怠惰な部類なのだろう。


 他人の家で気楽に値腐ってるのが良い証拠である。




「そうか。魔人の懸賞金を逃すのは余りに惜しい。神殿騎士が来るまで残り三日、必ず引き止めるように」



「分かってますって」




 それから必要な物資の要求等、事務的な会話を終えてから村長は帰って行った。


 来てくれてありがとうよ魔人様。あんたのお陰で俺は英雄に成れるんだからな。

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