第6話

 何が何やら分からぬ内に、視界いっぱいに広がる刃が全身を貫いた。


 右手の炎は霧散し、代わりと言わんばかりに鮮血が現れる。


 確認するまでもない、俺の血だ。


 どう考えても致命傷で激痛にのた打ち回るか、思考する間もなく死んで然るべき傷だが、痛みはなく全身を燃えるような熱が支配していた。




「ガッ、ウボェェェ」




 口から聞いたこともない声と血反吐が飛び出す。


 このままでは拙い事は明白、悪足掻きで出せる限りの炎を放って牽制する。


 声もなく燃え尽きる仲間達に構うことなく、騎士達は突撃してきた。




「魔人は弱っている、必ず殺せ! 我らの働きで人類の未来が決まるのだ!!」




 口々に罵倒を吐きながら向かってくる連中を焼きながら考える。


 何故だ、何が悪かったのだ。


 前世なら兎も角、今世で悪行を成したことなど一切無いぞ。どうして、こんな仕打ちを受けねばいけないのだ。


 畜生、せめてアイツだけは。たかが一回、偶然助けただけの恩で今日まで世話になったアイツだけは巻き込みたくない。


 どうせ俺はここまでだ。特大の炎で敵を一人でも多く道連れにしてやるが、彼が近くにいないかだけを確認したかった。


 俺と別れる直前まで心配してくれた心優しい彼だけは助かってほしい。


 そう思って周囲を見れば、信じたくない事実があった。




「早く死ね! 化物がっ!!」




 そこには騎士達と同じく、俺を見ながら罵る彼の姿があった。


 事ここに至って、ようやく理解した。


 なぜ初対面の時に酷く狼狽したのか、なぜ貧しい身で働かない男一人を養ったのか、なぜ出合った時のように見回りをしてる様子がなかったのか、なぜ今日やたらと緊張していたのか。


 全て、俺を殺すためだと理解出来てしまった。




「……そうか、そういう事かよ」




 どうやら俺は、まだ懲りていなかったらしい。


 前世で四十年もの間『良い人』で有り続けた結果、あれほど追い詰められたというのに、まだ人間関係に希望を持っていたのか。


 俺は孤独だ。相手の心を読めぬ身では心を通わせるなど幻想に過ぎない。それが、やっと分かった。


 感情が錆つき、心が沈むのが分かる。深く深く底のない沼へ。それに比例して体が黒炎に変化・・していった。


 異形である筈の体は何故か心地よく、狂うほどの憎悪は心に馴染んだ。まるで、それこそが本来の形だと言わんばかりに。




「俺達は、間に合わなかったのか……」




 俺の変化を見て、周囲全てが絶望したように座り込むも、やる事は変わらない。


 同情など有りはしない、手心など加えない、命乞いなど価値はない。


 ああ、お前達───




「灰も残ると思うなよ」

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