第27話 Α
大きくて冷たい両開きのドア。
この先にエースがいるのであろう。
入った瞬間にどんな罠が来たとしてもおかしくはない。実際経験がある。
(特バツの面接の時を思い出すなぁ、、、。入った瞬間に面接官が麻酔銃撃ってきてビビったわ)
あの時みたいに避けれるよう、覚悟しておいた。今回はそれに似たことがサプライズが起こるかもしれない。
ビクビクとしながらも扉を開ける。
「お邪魔しまーす、、、」
ドアを開けた瞬間は少し身構えたが、"扉を開けたら罠が発動"なんてことは起こらなかった。
「よく来てくれたね」
大窓を背にしたデスクに座っている男がこちらを見て微笑んだ。
(この人がエースか)
サツキは部屋に入るなり全体をざっと見てみる。
広くて白い部屋だ。ソファやライト、テーブル。テレビやピアノなど。どれも高そうなもので、色はホワイトで統一されている。
(白は好きなのにやることは真っ黒なんだな)
サツキがそんなことを頭の中で呟いた。
「あっはい、来ました」
「僕のこと嗅ぎ回っているみたいだけど、なんで?」
「ち、ちょっと質問があって、、、。話し合いをしたいんです、、、」
どうやら話し合いで済むかもしれない。争うのはいやだと思っていたがまさか本当にそうなりそうだとは。サツキにとってはこれはなんとも嬉しいことだった。
「いいよ。何が知りたい?」
「その、街で暴れたりしてる改造人間なんですけど、、、。それってあなたの仕業ってことであってますよね?」
「そう。僕が改造人間を作り、街に放って暴れさせている」
男はあっさりしてと白状した。
「なるほど、、、。でも、どうして?」
「実験さ」
サツキはその言葉に首を傾げずにはいられなかった。
「え?実験?」
「君には分からないかもしれないが、ビジネスの話だ。ボスから提案されてね。戦争をビジネスにしないかと」
男はサツキを小馬鹿にしたような言い方をしつつ、ワールドワイドな商売の話をした。
「驚異的なパワーを持った人間を作り、戦争を煽動させ国家に売りつける。想像してみなよ、改造された言わばスーパーソルジャーたちが集まった我が国を。たった一人で数分やれば何十人も殺せる兵士が何百体といるんだ。負けるはずがない」
「ふむ、、、。まあ、確かにそうかも?」
ちょっと納得がいきサツキは小さく頷いた。
「でもまだ改造人間の作成は完全ではない。だからどれくらいつかえるものかシミュレーションの意味を込めて犯罪者を街に放っているんだ」
「シ、シミュレーションって、、、。犯罪者に殺戮をさせてなんの罪もない人の命も奪わせるんですか?」
「偉大なことを成し遂げるための小さな犠牲だよ。この計画は成功させるべきだ」
「あっそう、、、」
サツキは何を言っているのかよく分からなかったが、理解できるのはきっと無理であろうと思い深く考えるのはやめておいた。
「じゃあ俺の命を狙っているのは、その計画を邪魔していてその上特バツだからということなんですね」
そこは納得がいった、とサツキは思っていた。
「いや違う」
しかし、男は即座に否定した。
「違うんですか」
「ああ、そうだよ」
男は当然と言った表情でそう言う。
それならばなんだというのだ、とサツキの中で更なる疑問が浮かんだ。
「良かったらですけど、その理由とかってもうちょっと詳しく教えてもらえたりは、、、」
「その答えは君が一番よく知っているはず」
男は遮るように答えた。
一瞬サツキは思考が追いつかなかった。
「、、、え?今なんて?」
「理由は君が知っている」
自分が?俺が何かしたのか?サツキは今までのことを振り返り、この言葉の意味を考えてみる。
「いや心当たりが全くないんですけど、、、」
「本当に?」
「うん」
「本当にないの?」
「そうですね」
「なるほど、、、」
男は立ち上がると部屋の中央まで歩いてくる。
「ボスから言われているんだ。君が何も知らないようだったら殺せって」
少し微笑んでいるが男の目は笑っていない。
「この僕、アルファが相手をするように言われているんだけど、、、」
「アルファ?」
男が名乗った名前に驚き、サツキは思わず会話を遮ってしまった。
「待て、あなたの名前アルファ?」
「そうだけど?」
なんてこった。サツキは頭の後ろをポリポリと掻いた。
そして少し気まずそうに男に周りから何と呼ばれているか教えてやることにした。
「あなた、エースって呼ばれているんですけど、、、」
「、、、なんだって?」
アルファと名乗った男は眉を顰めた。
「間違えるな。僕はアルファって言うんだ」
「じゃあ名刺変えた方がいいですよ。ギリシャ文字で小文字のαの方にするべきかと」
「アルファだ!僕の名前はアルファ!」
男は今までの冷静で何を考えているか分からないキャラだったが、サツキの中でそれが音を立てて一気に崩壊した。
「そんなムキにならないでくださいよ。エ、、、。アルファさん」
あぶない。今までエースで言っていたため、言い間違えでまたアルファを怒らせるところだった。
「その、、、。俺が嫌われている理由、本当に教えてくれないんですか?」
「僕がそんな簡単に話すわけないだろ」
アルファがそう言った直後、指を鳴らした。
すると、まるでテレポートしたかのように、アルファの横に人があらわれた。
「紹介しよう。僕の忠実なる右腕、レイラだ」
レイラと紹介されたその人物は、口元を覆うように黒いメタリックなマスクをつけていた。
スポーツウェアを身につけたその体は筋肉質であり無駄な脂肪が一切無い。
無言でサツキをじっと見ている。
「あっ、、、。どどどどうも、、、」
とりあえずサツキは陰キャなりに挨拶をしておいた。
「レイラ、客人を送ってあげてよ」
アルファはニコニコとしていたがすぐにその笑顔が消えた。
「あの世にね」
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