第25話 メモは役に立つ

 上條は目を覚ました。


 くらくらとしつつも、周りを見回してみれば全く知らない場所だった。扉はあるが、窓がない。冷たいコンクリートに囲まれた一室。しかも、かなり古びているような雰囲気だ。


 そして彼は考えた。なぜ自分はここにいるのか、、、。


(そうだ、サツキだ。アイツに殴られて私は、、、)


 その殴った張本人は上條の目の前で体育座りをしていた。

 部屋の隅ではツツジが上條の携帯をいじっている。


「あ、どうも。えっとおはよう。この部屋からじゃ分かんないけど、今日はいい天気だったよ!」


 サツキは目覚めた上條に早速挨拶をした。


「ここは、、、?ここはどこなんです!?」

「どこって言われても、、、。言ってもわかんないと思うし」


 確かにサツキのいう通りだ。

 だがまあこんなところに閉じ込められたところで上條にとっては何の問題もない話。


「まあ、いいです。あなたは今すぐ私を逃すことになるんですから」

「そうなの?」

「よく聞きなさい!私を、、、」


 命令を言いかけた時、冷たいものが上條の喉元に触れた。

 サツキが包丁を突きつけているのだ。


「命令とかするんじゃないぞ〜。君が不必要なことを喋ると拷問することに決めたんだからね!」


 拷問というより包丁で首を切れば即死だ。

 上條は流石に恐れた。なぜならサツキは特バツだからだ。もしかしたら本気で殺してくるかもしれない。


「といっても俺は拷問に慣れてなくて、、、。だから上司の沢城さんから教えてもらったことをメモしたものを参考にする。このメモ帳久しぶりに見るなぁ」


 サツキはポケットから取り出したメモ帳を指差した。

 そしてペラペラとめくりはじめる。


「あった!拷問の仕方」


 目当てのページを見つけて嬉しそうだ。


「えっとね、"電気はとても使える。まずはタコ足配線に銅線を剥き出しにしたプラグを挿し、銅線を釘に巻き付ける"だってさ」


 サツキは書いてある通りに床に置いてある、スイッチを入れれば電気をつけることができるタコ足配線を拾う。

 そして、途中でカットされて銅線が剥き出しになっているプラグをタコ足配線に挿す。

 仕上げに釘にぐるぐると銅線を巻きつけた。


「それから"この釘を使う時は対象者の手にブッ刺す"なるほど」


 サツキのその言葉を聞いて上條の背筋が凍った。


「まっ!待て!やめろ!やめてください!やめっ、、、」


 やめるように懇願した。

 だが、サツキは躊躇なく椅子に縛り付けていた上條の手に釘を刺した。


「ぎゃああああ!!」


 彼の叫び声をよそにサツキはメモ帳を読んでいると、あることに気づいた。


「あ、ごめん、、、。次のページに続いてた。"なんてことをしてはいけない"ってメモしてた。刺しちゃいけなかったのか。どうやら握らせておくのが正しいみたい。間違えちゃった」


 スイッチをオフにした状態でサツキはタコ足配線のプラグをコンセントに差し込んだ。


「あとは質問、答えなければ通電。オッケーオッケー」


 上條は震えた。

 まさか本当にやる気か?いや、特バツならやるであろう。こいつらは手段を選ばない。


(特にこいつ、、、。サツキは狂っている!!)


 自覚のない狂人が一番厄介だ。


「電気って痛そうだなぁ、、、。いやさ、一応ガソリン巻いて火をつけるか脅す方法も考えたんだけど、、、。ちょっとうっかり燃やしたら嫌だし怖いなぁと思ったからやめたんだ」


 上條は自分のすぐ隣に置いてあった火のついた蝋燭とタンクに今更気づいた。おそらくこのタンクにはガソリンが入っているのであろう。

 汗をかいている上條にサツキは早速質問を開始した。


「さて君のその操る能力だけど、、、。エースと関係は?」


 上條は黙り込んでいる。

 サツキはそれをみてタコ足配線のスイッチを数秒ほどいれた。


「ぐあぁっ!!」

「黙っていると電気ビリビリしちゃうよ」


 サツキはスイッチを指で押さないように撫で回した。


「もう一度聞く。エースからその能力をもらったの?」

「そ、そうです、、、。これはエースが改造したことによって手に入れた力です、、、」

「改造?改造人間を作っているってこと?なんのために?」

「分かりません、、、」

「電気ビリビリ」

「本当に!本当に分からないんです!!やめて!」


 必死になって上條はスイッチを押そうとしたサツキを止めた。


「本当に?」

「本当です!」

「残念だなぁ、、、」


 サツキはどうしようというように床に座り込んだ。

 そして数秒ほど上條を見ると、突然あることを言い出した。


「、、、ごめん、話逸れるけどさ。これ本当に電気通ってるの?君、演技じゃないよね」

「え、、、?」


 上條は何を言っているのか一瞬理解できなかった。


「いや別に俺がサドってわけじゃないけどちょっと疑問に思っちゃってね」

「演技じゃない!本当に!本当に通ってるから!」


 このままではスイッチを押されると思い上條はそう叫んだ。


「本当かなぁ。君嘘つきそうだしなぁ」


 必死になればなるほどサツキは疑いの目を向けてくる。

 そこでサツキはある考えが浮かんだ。


「じゃあちょっと歌歌ってみて」

「は、、、?」

「歌だよ。何でもいいから」


 上條は何を言っているのか分からなかったが、とりあえずサツキのいうことに従うことにした。


「、、、きーらー、きーらー、ひーかーるー」

「あヨイショ」

「おーそーらーのほーしーよー」

「あソレ」


 サツキが変な合いの手を入れてくる。


「まばたきしてはー、みんな」


 みんなを、上條がそう歌おうとした時。

 全身の毛が勢いよく一気に抜かれたような痛みが襲った。


「をおぉぉぉぉ!??」


 電気だ。サツキが電気を突然流したのだ。


「演技じゃなさそうだね」

「あああがああぁぁ!!」


 上條は叫んだ。

 サツキはそれを確認するとスイッチの電源をオフにした。


 そんなやりとりをよそにツツジは上條の携帯をいじっていると、通話履歴からある連絡先を見つけた。


「あ、先輩。こいつボスから直接連絡もらってますよ」

「なんだって!?」


 サツキはツツジが持っていた携帯電話の画面を覗き込んだ。

 そこには確かに"ボス"とだけ書かれた連絡先があった。

 盛り上がる二人をみて上條はこの場を逃げ出す方法を思いついた。


「、、、お二人方」

「なに?電気ビリビリされたい?」


 サツキの言葉にヒヤッとしたがあまり表情に出さずに落ち着いて上條は話を続けた。


「貴方たちがこうしているうちに、エースはボスのために改造人間を作っていますよ?私ならエースの居場所を教えてあげれます」


 急に強気に出てきた上條。

 何か怪しいとサツキとツツジは思った。だが、それと同時に少し興味が湧いた。


「ちょっと待ってて」


 サツキはツツジを連れて話し合うためにドアの外に出た。


(チャンスだ!)


 計算通りだ。

 上條は逃げようともがいた。

 椅子に縛り付けられているが何とか抜け出すことは可能であろう。

 ガタガタと椅子をゆらす。

 左手が自由になった。これであとはもう片方の手の拘束をとり、椅子から抜け出すだけ。


(二人とも操ってやる、、、!)


 復讐を開始してやろう、そう思った。


 だがその時。


 椅子が横に倒れた。

 そして何かにあたった。その物体は倒れると、液体が中からドボドボと流れてきた。

 ガソリンだ。ガソリンが顔を濡らし、服に染み付く。

 これはやばい。

 必死に体を起こそうとする。

 しかし不幸の連鎖のように、うっかり蝋燭を倒してしまった。


 着火。


 一気に炎に包まれた。

 そんなことが起こっているとは知らずにサツキとツツジは相談をしていた。


「レオが特定するまでどれくらいかかるのか分かりませんし」

「手っ取り早く知れるよね」

「やっぱりエースの場所を聞き出しましょう」

「そうだねぇ。恐らく条件に逃すことを持ち出すだろうけど、、、」


 結論が出たので二人は部屋の中に入った。


「分かったじゃあ、、、」


 だがもう遅い。

 上條に交渉をする時にはすでに彼は炎に包まれて異臭を放って焼かれていた。


「おい嘘だろ!?」


 燃え上がる炎にサツキは目を丸くした。


「やべえよコレ!キャンプファイヤーだ!!」

「そんなノスタルジーなものじゃないですよ!!」

「ちょっと!消防車!消防車呼んで!」

「いや先輩今からじゃ遅いですよ!?先に消火しましょう!」


 急いで隅においてあった消火器を使った。

 しかし火を消し終わった頃には完全に上條は動かなくなっていた。

 黒焦げになっていて顔が分からない。そもそもそれが人だったのかも分からないほどだ。


「死んだかな」

「死にましたね」

「マジかぁ、、、」


 サツキがこれからどうしようかと頭を抱えていると、突然携帯が鳴り始めた。

 レオからだ。


「もしもし、、、」

「あれ?サツキさんなんか元気ないですね」

「まあね、、、」


 鍵となりそうな人物が何故か死んでしまったのだ。そりゃ落ち込むに決まっている。


「精神的なものですか?そんな時はホットミルクとか飲むと落ち着きますよ!」

「いやもう十分にホットだから大丈夫。むしろホットすぎたくらい」


 サツキは焼死体を見ながらそう言った。


「無理はしないでくださいね。でもいいニュースがあります!」

「なに?」

「エースの場所分かりましたよ!」

「え!?まじで!?」


 思いがけない幸運が舞い込んできた。

 いやまあ、そもそも彼女に頼んでいたことなのだが。


「場所をメールで送っておきますね」

「ありがとう!」


 サツキは通話を切るとホッと胸を撫で下ろした。


「ボスの連絡先を俺の携帯にも記録しておこう。でもまずは、、、」


 そして覚悟を決めた。


「エースに会いに行くか」

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