第24話 ヘッドショット!!

「さて死に顔を拝みにいくとしましょう」


 目的を達成した満足感に心が躍って上條は軽やかな足取りで死体へと向かう。


(楽勝な仕事。特バツといいつつも大したことないですね。それなのにボスは何を手こずってんだか、、、)


 上條は死体を前にすると、しゃがんで確認した。

 ふむ、しっかりと死んでいる。生きている感じはなさそうだ。


(、、、ん?いや待てよ何か変だ)


 上條は違和感に気づいた。

「なっ、、、!!これは!!」


 倒れていた死体をひっくり返し顔を見た。


 うそだ。

 馬鹿な。

 そんなことありえない。


 上條は目の前のものが信じられず震えた。


「サツキじゃない!」


 事前に渡されていた資料にあったサツキの顔とは全く違う。長めの髪型と長身の背格好は似てなくもないが顔が違う。


「どういうことだ!?奴は革ジャンを着ていた!私は確かにサツキをぶっ殺したはずだ!」


 ここで起きていることのあらゆる可能性を考える。


「ま、まさか!こいつは影武者なのか!?サツキのやつ、私が相棒の女を使って射殺しようとしているのに気づいていたのかっ!?」


 そこまで先の読めるやつなのだろうか?連絡で言われた油断をするなというのはこのことか?


「じゃあ本物はどこに、、、!!」


 上條が焦っていたその時。


「あの、、、。すみません」


 突然、後ろから声をかけられた。

 ゆっくりと上條は後ろを振り向く。


「その、殺すってなんです?なんか俺を殺すって言ってましたよね?」


 上條を彼が渡された資料にあった顔写真と同じ人物が不安そうな顔で見る。


「貴様は、、、!!」


 サツキだった。


「あ!い、いや間違ってたらごめんなさい!!もう黙ります!」


「見つけたぞ!サツキ!」


「え?は?あ、やっぱり俺のこと殺そうとしてた感じ?」


 上條は一瞬の間で一気に考えた。

 まずい。だが動揺で心が乱れているはずである。いそいでサツキを殺せる命令をしなければならない。


「命令だ!自殺をっ」


 だが、それはもう遅い。


 サツキのパンチが上條の顔面のど真ん中にブチ込まれた。

 たったの一発だ。

 だがその一発はとてつもない強さであり、上條はメートル単位で吹っ飛んでいき気を失った。


「なんだこの人、、、。コワ〜、、、」


 サツキは悪そうな人に絡まれやすいが、なんだかよく分からない変な人に声をかけられやすかったりもするので慣れている。しかし、名前を知っていてさらに殺すと言っていた変な人を殴ったのは初めてだ。


「よかった。やっぱり先輩じゃなかった」


 サツキに駆け寄ってきたツツジはほっと胸を撫で下ろした。


「え?いや俺は俺だが」


「そうじゃなくて、革ジャンを着ていたのが先輩じゃなかったってことですよ」


 ツツジは気絶をしている上條を見て、次に転がって頭からどくどくと赤黒い液体を流している死体を見た。


「それにしても先輩、、、。流石にあまりにも酷すぎるんじゃないでしょうか、、、」


「え?何が?」


「いやだって革ジャンを着させて影武者に仕立て上げたなんて。いくらあげたのか分からないですけどあんまりですよ」


「はあ?」


 サツキは何を言ってんだというように首を傾げている。


「君、何言ってんの?影武者?」


「じゃあ何で革ジャンを着てないんですか」


 確かに、なぜサツキは革ジャンを着ていないのか?

 実はその答えは今起こった上條を倒したことにつながる。


 それは遡ること数分前の話だ。


 トイレ室の手洗い場でサツキはなかなか落ちないコーヒーの汚れと格闘していた。


「あーもう!落ちないなぁ」


 バシャバシャと汚れた箇所を一点に集中して洗う。

 最初と比べて薄れたか薄れてないのかよく分からない汚れを見るのも飽きてきた。そう思っていた時。


 ふと、そこでサツキはあることに気づいた。


(いや待てよ、、、?よく考えたら水で簡単に落ちるはずがないよな?)


 普通は洗剤やら漂白剤やらを使って落とすものだ。なのにサツキはガキの水遊びのように、ただただ流水を布に当てて擦っているだけだ。こんなので汚れが落ちるはずがない。


 バカなサツキはそれに今更気づいたのだ。


 サツキは自分の頭の悪さに情けなくなり、「もうこういう柄なのだ」と自分に言い聞かせることにした。

 そして濡れた箇所は革ジャンで隠そう、そう思いながらびしょびしょのシャツを着たままトイレから出た。


 その時だ。


 目の前を男が通って行った。


 そいつの顔は知っている。そいつは確かにサツキにぶつかってきてシャツにシミを作らせた張本人だ。

 お前のせいだぞ、そう思いながら男を目で追っているとあることに気づいた。


(あれ?あいつ革ジャンなんて着てたか?)


 まさか。


 サツキは自分が革ジャンをかけておいた席を慌てて見に行った。


 予想は的中。革ジャンは盗まれていた。


「ちょ!ちょっと待って!」


 サツキはそう言って男を止めようとしたが男はすいすいと元からそれは自分のものだったというかのように革ジャンを着たまま店から出て行った。


 もちろんサツキはその男の後をすぐに追った。


 追いかける途中でまた人とぶつかってしまい、今度はホットココアが服にかかったので何度も何度も謝ってポケットのお金をいくらか渡した。


 そして外に出てみたら、、、。


「泥棒くんの死体を目の前に俺を殺すとか言っていた男がいたんだ」


「えっと、、、。つまりこういうことすか?先輩は別に影武者作戦を立てていたわけじゃなくて、コーヒーを溢したことにより始まったピタゴラスイッチで上條に勝てたと?」


「だからさあ、影武者って意味分かんないんだけど。っていうか上條ってだれ?」


「こいつです。ボスの刺客です」


 ツツジは気絶して完全に動かなくなっている男を指差した。


「ボスの刺客ねぇ、、、」


 そう言ってサツキはため息をついた。


「トイレから戻って来たら革ジャンは盗まれるわ、人は死んでるわでなんかヤバいことになってんだけど。なんなのこの状況」


「でも今は盗まれて良かったですよ」


「なんで?」


「着てたら私に撃ち殺されてましたよ。先輩がぶっ飛ばしたこいつは人を操ることができる力を持っています。その力を使って私のことを操り革ジャンを着ていた人に撃たせたんです」


「え、それマジで言ってんの?」


 サツキはゾッとした。


「はい。ですが本当は先輩じゃなく先輩の革ジャンを盗んだ窃盗犯。きっと服装だけで判断しちゃったんでしょう」


「この人革ジャン盗んだせいで死ぬとは思わなかっただろうなぁ」


 サツキは気の毒かつ自業自得な死体を見ながらそう言った。

 やはり悪いことは自分に返ってくるのでやってはいけないのである。


「で?先輩、上條はどうしましょう」


 ツツジにそう言われサツキは考えた。


「俺、沢城さんに言われたことがあるんだ。実害を出したやつに容赦はしちゃダメだって」


「へえ、そうなんですか」


「だから今回は実害出たしなぁ。あんまりやりたくないけど、、、」


 サツキは何かを決断したのか、大きく頷いた。


「沢城さん流でいこう」

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