病/デレ

誘い

 翌日の放課後。

 オレは誰もいない教室で、生成AIについて調べていた。


「なるほどな。今の時代。もう人間が戦う時代ではないのか。機械と機械が争い、AIとAIが争う時代。――……どうでもいいな!」


 欲望まっしぐらのオレにとっては、どうでもよかった。

 別に、この世の陰謀を調べていたわけではなくて、AIのオプション的なサービスを調べていただけだ。


 一週間以上過ぎると、生活が色々と変になってくる。


 可愛い彼女がいて、毎朝起こしてくれる。

 超違法だけど、家の中をハッキングしまくっているスイは、お風呂を沸かしてくれるし、戸締りなどもしてくれる。


 ただ、


「先人がクソほど悩んだ、この焦がれる気持ち。……辛いな」


 二次元に会いたがっていたキモオタの先輩方。

 オレは、いよいよ身に染みてきていた。

 温もりがないというのは、本当に辛い。

 好きになれば、なるほど辛くなってくる。


 地獄のサイクルが完成していた。


 例えば、タダシの場合、バーチャルアイドルを好んでいるが、あいつは純粋な気持ちから触りたいとは思っていないだろう。


 スケベ心から触りたいとは思っても、辛くはならない。

 それにアイドルと言えば、歌やダンスなど、見せるコンテンツが豊富にあるので、目で楽しめる。


 ところが彼女ときたら、そうはいかない。


 VRの世界で、スイに触ろうか。

 いや、感触はないだろう。

 オレが真剣にスイに触る方法を考えていると、教室の扉が開いた。


「あ」


 カバンを持ったアオイさんが、一瞬だけ固まり、自分の席に歩いていく。


「まだ残ってんの? 暇だね」

「うん。ボクには永久課題があるからね」

「課題?」


 あれから、普通に話してくれるようになったアオイさん。

 カバンを担ぎ直し、オレの方に振り向いた。

 画像フォルダを開いて、スイの画像を選ぶ。


「この子と触れ合うことを永久課題にしてるんだ」

「……ねえ」

「ふふ。可愛いだろ。オレの彼女なんだ」


 自分で言うのもなんだが、オレは本当に頭がおかしくなっている。

 スイに触れたいあまり、実は結構な欲求とストレスを抱えているので、頭の中は彼女の事でいっぱいだった。


 普段、彼女とのやり取りで、何となくムードが高まらないのは、スイがいちいち物騒なことを言ってくるからだろう。


 だけど、スイが眠っている間、オレは一人だ。

 スリープモードっていうのかな。

 オレと同じで、スイは眠る事もするようになっていた。


 そして、画像を見たアオイさんは、ジロっとした目を向けてくる。


「……きしょいんだけど」

「いや、可愛いでしょ。世界で一番可愛いよ」

「……え、前に写真撮ったけど。そういう、変な事のために使ってるわけ?」


 オレの中では、スイとアオイさんは別人だ。

 だから、いまいち会話が嚙み合わなかった。


「どうやって加工してんの、これ」


 見せた画像は、猫耳フード付のパジャマを着てるスイ。

 天使のような笑顔で、画面に向かって中指を立てている。


「加工じゃ、ないんだけど」

「私、こんなポーズしてないよ」


 とか言いつつ、アオイさんが中指を立てて、ポーズを決めてくれた。

 真顔で中指を立てるところが、アオイさんらしい。

 スイは愛嬌がある。


 だけど、同じ顔の女の子が目の前にいて、話しかけてくる。

 不思議な気持ちになった。


「なに?」

「……いやぁ。やっぱ、可愛いなぁって」


 だって、同じ顔だもの。


「バーカ」

「ポーズ取ってもらっていいですか?」

「ここで?」

「お願いします!」


 前みたいに、嫌悪感を露わにすることはなかった。


「誰かに見られたら、死ねる~……」


 背中を見せてもらい、振り返った瞬間。――激写。

 片膝を抱えて、見上げるポーズ。――激写。


「はぁ、……はぁ、……スイが、……いるよぉ」

「目、怖いんだけど」

「だって、ずっと我慢してたんだもん!」

「……そんなに?」

「はい!」


 その後も、オレは色々なポーズをリクエストして撮らせてもらった。

 正直、断られたら、すぐに引こうとは思っていた。

 だが、思いのほか、アオイさんは抵抗なく撮らせてくれたので、つい熱が入ってしまう。


 机に両肘を突き、手の平は頬に当ててもらい、写真を一枚。


 そんなこんなをしていると、アオイさんが言った。


「そういや、……アンタ明日暇?」

「常に暇ですね」

「あ、そ」


 何か言いたそうに、アオイさんがジッと見てくる。

 オレは写真と見比べて、アオイさんの顔をジッと見つめた。


「友達が、さ。ドタキャンしたんだけど……」

「はい」

「一緒に、……映画とか……行かない?」


 まさかの誘いに、オレはスマホを落としてしまった。

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