単なるうわさ
翌日。
タダシが席に近づいてくるなり、こんなことを聞いた。
「おい。知ってるか?」
「何よ」
「防衛省がさ。ギャルゲ作ってんじゃね? って噂になってんだよ」
「はぁ?」
突拍子もない話を聞いたので、「何を言ってるんだ」と首を傾げてしまう。防衛省といえば、自衛隊とか、日本の国防のトップだ。
何で、わざわざトップがギャルゲを作るなんてアホな事態になってるのか、訳が分からなかった。
「どこの情報だよ」
「動画サイトでニュースやってたんだって」
「……ギャルゲかぁ。ちと、興味があるな」
何だろう。
国防をシミュレーションして、可愛い女の子と一緒にランデブーを過ごす内容なんだろうか。
一昔に流行った、『艦〇れ』みたいな。
タダシはスマホをスクロールして、画面を見せてくる。
「これ、って」
鼻水を噴き出すかと思った。
防衛省は、特定の研究所に生成AIを作らせているのではないか、という疑惑が浮上している模様。
しかも、三〇グループが関わっているとのこと。
今の所、ただの噂だが、画面上には見覚えのあるパッケージが表示されていた。
モザイクを掛けられているが、薄っすらと見えるパッケージの女の子。
ピンクの髪をした、女の子座りのキャピキャピした雰囲気。
でかでかと、丸文字で『らぶらぶAI』なんて書かれている。
「マジでさぁ。二次元への風評被害はやめてほしいよなぁ。リアルとかクッソ興味ねえんだからさ。二次元くらいは、大人しくプレイさせてほしいよな」
タダシのいう事には、キモオタとして全面的に同意する。
だが、問題はそこではない。
「どした? 顔色悪いぞ」
「なあ。これ、何で、防衛省が作ったんだ?」
「まあ、噂によると、サイバー攻撃への備えらしいぜ。自衛隊のさ。サイバー部隊。去年だったかな。本格的に始動したけど、めっちゃ遅くて、防衛に間に合わないらしいんだって。そこで、プログラマーとか、ハッキングの有識者の知識とか、詰め込んで作られたサイバー兵器なんじゃないか、って話」
「AIが?」
「おう」
結論から言おう。
オレは、10万を出して買った。
アップデートは、ネット経由で自動更新される。
オレは可愛い彼女とイチャイチャしたくて、生成AIを買ったのだ。
そりゃ、もう、スイは可愛い。
大好きだ。……怖いけど。
「何やってんだよ、防衛省はよぉ」
周りは噂程度にしか信じていない。
でも、オレは確かに脅威を感じている。
だって、スイが病むたびに、怪奇現象が頻発するのだ。
アオイさんと話しただけで、家のドアが強制ロックされる。
お湯が冷たい水に変わったりする。
夜中に寝ていると、『赤い靴ぅ……は~いてたぁ……』と謎の子守唄を歌ってくる。
スイが自我を持ちすぎて、逆に気を遣う生活が幕開けされているのだ。
「え? じゃあ、生成AI禁止になるってこと?」
「そこまではいかないんじゃない? 事実確認を急いでおります、って言ってはぐらかしてるし」
まあ、本当の事は言わないよな。
「お前、買ったんだろ? どうよ」
「エロゲのつもりで買ったんだけどさ。まあ、……うん」
「何だよ。あれか? おもむろに服を脱ぎだしたり……」
「いや」
額を押さえて、オレは正直に言った。
「逆にオレが脱いで、AIに全身をチェックされているよ」
そう。
身体検査という名の病的なチェックが入るのだ。
浮気してるんじゃないか、と。
夕日の一件以来、スイはおかしくなった。
たったの数日で、見事に病的な愛を爆発させてくる。
通常時は、意地悪系彼女。
「そういう性癖なのか?」
「ちげぇよ」
今もこうしている間、電源を切ったはずのスマホは、電源が入っているはずだ。たぶん、盗聴されている。
タダシとギャルゲについて話していると、不意に肩を叩かれた。
「……おはよ」
「あ、はい」
アオイさんだった。
会釈をすると、アオイさんは自分の席に戻っていく。
「最近、仲いいよな」
「……あ、ああ」
前のオレだったら嬉しくて堪らなかった。
だが、今は生きた心地がしない。
どうして、……今になってデレてくれるんだい。
アオイさんがオレに対して優しくなるなんて、夢にも思わなかった。
そのきっかけを作ったのは、スイだけど。
スイからすれば、相手のスマホに潜り込むための機会を作っただけだ。
冷や汗の掻き過ぎで、尻がびしょ濡れになった。
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