メイキング

 家に帰ると、まずオレが行ったのは『出力シート』を部屋に広げる事だ。六畳半の部屋の片隅に、白くて大きなシートを床と壁に広げて、スイッチを入れる。


 出力シートは、電気シートみたいなものだ。


 これを使うことで、自宅がコンサート会場になったり、講習会場になったりする。今や広い会場を押さえなくても、自宅で全てができる時代である。


 シートとパソコンを繋ぎ、さらに自分のスマホを繋ぐ。


「はぁ、はぁ、興奮するなぁ!」


 10万円の生成AIを起動し、写真をインプットする。

 読み込みが始まったと同時に、AIはアオイさんの容姿を元に一人の女の子を作り込んでいく。


 オレは高い金を出して、出力シートを買っているので、パソコン上に表れた姿が、シートの上に立体で現れるのだ。


 ホログラム技術はこのためにある。

 驚くなかれ。

 シートを開発したのは、日本の有志だ。

 二次元に行きたい、という昔からの憧れを実現してくれたのだ。

 国からは予算が出ないし、懐疑的な人も多いために、お金が足りなかった。だが、クラウドファンディングで5千万の開発資金を集める事に成功した。


 ネットでは、オレみたいのが気持ち悪いと叩かれたけど、構わない。


 オレは日本や世界中にいる同士と繋がりたい。

 気持ちが重なったからこそ、生み出された一つの技術だ。


《音声テストを開始します》


 機械音声で作りだされた湊アオイが喋り出す。

 立体に映し出された姿は、見たままの姿だ。

 本人の体をもとにしているが、見えない所はAIの判断とオレの希望で全部作っていく。


 アドバイザー機能があるので、素人でも簡単に作れるのだ。


 例えば、乳首の色とか、陰部の色まで変えられる。

 こだわる人は、臓器のサイズまで変えたりするし、今やメイキング機能は、気が遠くなる領域まで変えることができる。


 オレは出力シートに映し出された湊アオイを眺めた。


『あ。あ。……死ね』

「ねえ。違う。違うよ。オレ、ご主人様。何今の?」


 開口一番に死を宣告された。


『今日は、あ、あ、おじさま5人と、あ、あ、ラブホテルに行きました』


 口に拳を当て、オレはすぐにパソコンで設定画面を開いた。

 なぜか、クソビッチみたいな言動を繰り返し、オレに暴言を吐くので、変な汗が出てくる。


「ちょ、待ってくれよ。これが、ヒロインだって? あんまりだろ!」


 AIはネット上に転がってる音声データや文章などをもとに、情報を収集して学んでいく。あるいは、動画サイトの動画から引用したりもする。

 これは規約の内容にまで書かれているので、今の時代は周知の事実。


 と、まあ、それは置いておいて。

 なぜ、クソビッチみたいになったのか、原因が分かった。


 SNSで似た容姿の子を参考にして、声を発したらしい。


 設定する項目を開く。

 細かい枠が縦に並び、オレは一つずつ設定していく。

 全部、オレが知りうる湊アオイの情報だ。

 あとはお好み。


 名前はちょっと変えて、『湊スイ』にした。


『明日、……お家に行きます』


 その間、スイは勝手にしゃべっていた。

 自律するに当たって、何度もテストが繰り返されているのだ。


『燃やします』

「こええって! 何で、好みの子作ってるだけで家燃やされないといけないんだよ!」


 緊急課題として、人格を設定していく。

 細かく設定したのは、下記の通り。


 オレだけを愛する事。

 他の奴には、見向きもしない。

 オレのためなら、奴隷ばりに何でもしてくれること。

 とにかく尽くしてくれる事。


「うーん。でも、あんま、従順過ぎても、機械っぽいな」


 追加で、書き足していく。


 たまに意地悪。

 愛があるなら、イジメてきてもいい。


 ここまで入力していくと、何やら自動的に枠内の文章が改ざんされた。


 ――病的なまでに愛します。


 そして、文章が消えて、設定が完了された。

 オレは何が起こったのか分からず、もう一度設定を開こうとする。

 だが、エラーが頻発するだけで、何も変えられない。


「あれぇ? っかしいなぁ」


 色々設定の項目を探したり、弄る所は弄ったりを繰り返していると、あるメッセージが前面に出てきた。


『あなたの情報を収集します』


 これには、『はい』をクリック。


 メイキングは、夜通し行われ、半日掛かった。

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