第10話 デリカシーのない少女と勇者

「…あ、ザイズだ。」


 俺とラミーダが歩き始めて、しばらくした時、そんな風に声をかけられた。


 この声は、間違いない、ルリットだ。赤い髪をした、見た目通りに十六歳の少女。この領地において、キルと二人で二大変人と呼ばれてる、変わった少女。


 どんだけ今日はついてないんだ。まさか、キルだけじゃなく、ルリットとまで出くわすとは。


 とりあえず、ここは即退散だ。ラミーダとルリットを引き合わせて、面倒ごとにならないわけがない。


「おー、ルリットか。俺たちは、ちょっと用事があって急いでるんだ。今日は、これで。」


「……急いでるというのは、その隣の愛人と早くそういう行為がしたいから、邪魔をしないでくれ、ということ?」


「そんなわけないだろ。誰が、この異常者に欲情するんだよ。」


 思わず、足を止めて言い返してしまった。これが、ルリットの少し変わっているところだった。ルリットは、思ったことをすぐに口に出してしまうのだ。言いにくいことなんも躊躇わずに言ってしまうから、皆にデリカシーのない人間のように扱われている。


「そう、顔は悪くないように見えたのけど。」


 ルリットが、そう言うと、ラミーダが間髪入れずに口を開いた。


「…83!私と良い勝負ができそうじゃない。」


 また、やってる。もしかして本当に会う人全員にそれをやっていくつもりなんだろうか。


「…もしかして、その数字は私の胸囲の事を指しているの?もしそうなら、初対面の人には、失礼すぎる態度だと思わない?」


「え?いやー、別にいいじゃない。減るわけじゃないし……。」


「あなたは別に良いかもしれないけど、言われた方は、不快だということを知っておいた方が良いわ。あなたが、そんな簡単なことすら出来ないほど、コミュニケーション能力に欠陥を抱えているというなら、これ以上は強く言わないけど。」


「い、いや、あの、…ご、ごめんなさい…。」


 マジか、はじめてラミーダが押し負けたところを見た。意外と、ラミーダは防御力がないのかもしれない。それと、ルリット、お前も言われた方が不快だって事を理解して喋った方が良いと思うが。


 ルリットの発言は、完全にブーメランだが、ラミーダにも刺さったらしい。珍しく、黙っている。


「それで、ザイズ、急に外に出て行ったと思えば女を連れて帰ってくるなんて、あまり感心しないと思うけど?」


「お前、さっきの自分の発言のことどう思ってんの?それ言われて、俺が不快じゃないと思った?」


 流石に、ここは我慢できずに突っ込んでしまう。まさか、たかだか数十秒で自分の発言を翻すとは。手のひらがねじ切れんばかりに回転している。


「……そうなの?私は別に、言われて不快じゃないけど……。」


「あ、そう。」


 そう言われてしまったら、何も言えない。大体、今ここでルリットの態度を変える事なんてできないだろう。それこそ、何百回も注意しているが、一向に良くなる気配がないのだから。


 そんな風な事を思っていると、これまで、隣で黙っていたラミーダが急に口を開いた。


「ば、ばーか。ばーか。何、無感情系ヒロイン気取ってんの。そんな風な態度とってたら、笑えばいいと思うよ、みたいな事言われるとか思ってるんでしょ。そんな事、言われるわけないでしょ。そんな目立つ赤髪で、無感情系ヒロインやろうなんて無理に決まってる!」


 口を開いたかと思えば、そのまま走り去っていった。何か、少しだけ涙声だったような気がする。


「……何言っているのあの人。何だか、無性に腹が立つのだけど……。」


「その点に関しては、完全に同意だ。あれほど、むかつく奴も珍しい。」


 しかし、あいつを一人で放っておくわけにもいかない。暴走して、領地で破壊活動をされてはたまったものではない。あいつ、頭は弱いけど、強さだけなら、とんでもなく強いからな。


 俺は、ルリットに別れを告げて、ラミーダを追いかけた。


 後ろで、ルリットが、「弱っているところを慰めて……ということね。」とか何とか言っていたが、聞こえないふりをした。

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