第9話 病気の少女と勇者
「……ふぅ。」
全速力でリーファスから逃げ切り、一息つく。
せっかくの自分の領地なのに、どうして、こんなに疲れなくてはならないのか。
「それもこれも、ラミーダの馬鹿のせいだ……。」
「何?何か言った?」
一人で、ラミーダに悪態をついていると、返っててくるはずのない相づちが返ってきた。
薄々、ついてきてるんじゃないかと思ってたけど、まさか本当についてきていたとは……。
早く、どっか行かないかな、この疫病神。俺は、早くもラミーダを自分の領地に連れて帰ってきたことを後悔し始めていた。
「……言ったよ。ラミーダって、どうしてこんなに馬鹿なのかって。」
「何?何か言った?」
「やめろ、こういうところでゲーム要素入れてくんの。」
はい。って言わないと先に進まない系の選択肢じゃないんだから。
そんな風に、俺がラミーダに翻弄されていると、前方から声がかかった。
「……久しいな、我が主よ。」
……ラミーダ一人で吐きそうなほど面倒なのに、さらに面倒な奴が来た。
黒髪に、無駄に眼帯をつけているキルという名前の少女だ。年齢は見た目通りに、十六歳。大分、面倒な病を患っている、この領地の二大変人の一人だ。
「キル、その喋り方は、もう止めとけ。数年後、後悔するのは自分だぞ。」
「何を言っておるか。主様とはいえ、我への侮辱は許さんぞ。」
やっぱり、何を言っても無駄か。一体いつ、キルは真人間に戻れるのだろうか、と頭を悩ませていると、ラミーダが口を開いた。
「……76…か。…ふっ、雑魚だな。」
「人と会うたびに、それやるの止めろ。あと、どうせなら最後まで計ってやれよ。」
「雑魚に興味なーい。私が求めるのは、最高のスタイル!そして、歪んだ性癖を共有し合える仲間!」
こいつ、終わってるな。
俺が、そう思っているとキルが、ラミーダに向かって不満そうに口を開いた。
「無礼者め。貴様如きに我の戦闘力が測れると思うてか。ちなみに、貴様の戦闘力は、2だ。取るに足らん雑魚は貴様の方だ。」
どうも、キルはラミーダが言った数字を戦闘力か何かだと勘違いしてるらしい。あまり、高くなかったのが、お気に召さなかったのだろうか、相当に不機嫌だ。
「んー。まあ、そういうことで、いいや。じゃあ、ザイズ、私の家に案内して。」
こいつ、キルが面倒な奴だと察するなり、躊躇わず逃げの姿勢だな。いっそ、清々しい。自分も、それ以上に面倒くさい人間だと自覚してくれれば良いのだが。
とはいえ、キルとの会話が面倒なのは同感なので、ここはラミーダに乗っかることにしよう。
「じゃあな、キル。俺たちは、まだ用事があるんだ。」
「……え?ちょ、ちょっと待ってよ。も、もうちょっと私とお喋りしない?」
素が出てるぞ、キル。どうせやるんだったら、もう少し、頑張れないか。
「……あのさー、ザイズが用事あるって言ったの聞こえなかったわけ?」
…何だ急にラミーダの奴。もしかして、俺がラミーダに乗っかったから、強気なのか?
「き、聞こえておったに、決まっておる!」
キルが、そんなラミーダに、少し調子を取り戻して、返す。しかし、ラミーダは、そんなキルを興味なさげに見つめながら口を開いた。
「聞こえてたんなら、邪魔しないでしょ普通。もしかして、そんな当然のことも分かんないわけ、ガキんちょは。」
「い、いや別に邪魔しようってわけじゃ……。」
「じゃあ、黙って回れ右して、自分の家で演劇ごっこでもしてな、ガキんちょ。」
ラミーダは、そう言うと、つばを地面に吐いて、スタスタと歩いて、こちらの方にやってきた。
ちなみに、キルは涙目だ。うちの領地は基本的に性格の良い奴ばかりなので、こんな暴言を言われたのは初めてのことだろう。
「おい、ラミーダ、さずがに言い過ぎじゃないか?」
「私、ガキって嫌いなのよね。それに、ほら、ああいう子は、こっちから押してかないと、会話にならないからね。」
会話にならないのは、お前もなんだが。
「よーし、じゃあ私の家に向かって出発!」
そう言うと、ラミーダは、俺の手をひっぱって歩き始めた。
キルのことが気になって見てみたが、すでにキルは居なくなっていた。まあ、キルも一晩寝たら、嫌な気分も忘れるだろう、あいつも大概馬鹿だから。
でも、後で、お喋りくらいはしてやってもいいだろう。そんな事を思いながら、ラミーダと一緒に歩き始めた。
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