第8話 側近の少女と勇者
迷った挙句、俺はラミーダの要求を呑むことにした。
「分かった、家も飯もやる。その代わり、俺の言うことを聞けよ。」
「はーい、分かりましたー。何でも言うことを聞いてあげる。……何でもと言っても、あまりに人の道を外れたプレイは止めて欲しいんですけども!」
「どんな想像してんだよ…。」
「え?普通、男が女に何でも命令ができるなら、することは一つじゃない?」
中学生や高校生男子かよ、こいつは。というか、そういうの女側から言うのはどうなんだろうか?
「……私、初めてだから優しくしてね…。」
「それで、よくそんな事言えたな。」
「あはははー。まあ、実際自分の身に何か起こりそうになったら、周りの人全員ぶっ飛ばすから、へーき、へーき。」
こいつ、ただ下ネタが好きなだけだな。多分、精神年齢が十四歳くらいで止まってるんだ、きっと。
果たして、こんな超弩級の馬鹿が、勇者の力なんて持ってても良いのか、疑問である。
「…っと、見えてきたな。」
ついに、領地に戻ってきた。まあ、領地を離れたのは一日にも満たないのだが、やっぱり、帰ってくると安心する。
こうして、俺は、魔皇帝の情報と、ラミーダを戦利品として、領地へ凱旋したのだった。
領地に着いて、はじめに俺たちを出迎えたのは、緑髪をした綺麗な顔のエルフの少女だ。見た目は、十九歳くらいに見えるが、実際の年齢は、千歳を超えている。俺が、この世界に転生したときから、俺の補佐をしてくれている、最も信頼のおける仲間だ。
「お疲れ様です、ザイズ様。」
「出迎えてくれて、ありがとう、リーファス。」
「いえいえ、当然のことですから、お礼なんて結構ですザイズ様。」
……安心する。ラミーダと比べて、あまりにも常識人かつ優しい性格をしていて、すごい安心する。なんだこれ、リーファスが女神に見えるぞ。
そんな、俺の心境など当然ラミーダが知るはずもなく、ラミーダはリーファスをじっと見つめながら口を開いた。
「……96、62、87…。……負けた、か。」
「何言ってんだよ、お前。」
急に何を言いだすかと思えば、とんでもないことを言ってくれる。……というか、それあってんの?……ぱっと見、正しそうに見える。
「何って、別にただ数字を言いたくなった気分なだけ!深い意味はない!」
「……お前が、そんなに数字が好きで、数字を呟く趣味があったなんてな。」
明らかな嘘には皮肉を返してやる。何が、深い意味はないだ。
「その通り!私は数字が大好きなの。特に好きな数字は、69!リーファスさんは、この69って数字の事どう思う?」
「やめろ、馬鹿!リーファスを汚すな!」
リーファスは、少し引き気味に、首をかしげている。良かった、リーファスが純粋で。
それより、この馬鹿勇者の暴走を止めないと。
「そろそろ、適当なことを言うのを止めろラミーダ。」
「はいはい、ここまで純粋だとからかい甲斐もないしね。……まあ、白を汚すっていうのも、悪くはないけど。」
やっぱり駄目だこいつ。早めに、ここを離れよう。でないと、リーファスが危ない。
「じゃあリーファス、俺たちはこれで。」
「はい、ザイズ様。…ところで、一つだけお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「別に良いけど、どうしたリーファス?」
「ザイズ様が連れて帰ってきたこの少女とザイズ様はどういう関係なのでしょうか?」
…何か、妙にリーファスに迫力がある気がする。正直、ちょっと怖い。これは、返答次第じゃ、面倒なことになる予感がする。
そう思って、俺が口を開くよりも早く、隣から声がした。
「私とザイズの関係なんて……言わせないでよ。一晩ザイズが帰ってこなかった……これで察せられない?」
「お前、本気で黙ってろ!……リーファス、今のはこいつの嘘だからな。」
思い切り、ラミーダの頭をはたく。ラミーダは、それに対して、「暴力反対ー。」とか言ってやがる。これは、無視だ。
問題は、今のラミーダの発言から、より一層怖さを増したリーファスの方なのだが……
一応、嘘とは言ったが、伝わってる感じが、まるでしない。これ、これ以上、弁明したとして信じてもらえるだろうか。……いや、無理な気がする。
とりあえず、ここは、より状況が悪化する前に逃げるしかない。
「じゃ、じゃあリーファス、俺はまだ用事があるから、これで!」
俺は、逃げた。リーファスが、後ろで何かを言っているような気がしたが、聞こえていないふりをしながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます