第5話 勇者が勇者である理由

「なんか、ついてきてないと思ってたけど、ザイズも脱獄できたんだ。良かった、良かった。」


 俺は、その声の主に、おそるおそる振り返る。


 ラミーダだ。何でこいつ、ここに居るんだ。強行突破とかいって、牢獄の看守の相手をしてたはずじゃないのか。


「……ラミーダ、看守たちはどうしたんだ?」


「え?全員、倒したに決まってるじゃない。倒さないと出られないでしょ?」


 倒したにしたって、早すぎるだろ。精々、五分くらいじゃないか。


 ちょっと、強すぎだな、こいつ。勇者って、こんなチートキャラだったっけ?もしかして、こいつすでにレベルカンストしてるんじゃないのか?だとしたら、俺でもタイマンで倒せるかどうか怪しいぞ。


 こうなってくると、こいつを倒して世界を支配している魔皇帝っていうのは、どんなチートキャラだ。そもそも、そんな奴、このゲームにいただろうかと、疑問を抱く。


 しかし、今は考えている時間はない。とにかく、領地に急いで戻らなければ。


 俺は、全速力で、町の出口を目指した。


「ねー、どうしてそんなに急いでるわけ?お腹が痛いとか?」


「うるせー、今はお前の冗談に付き合ってる暇はない。」


 というか、なんでラミーダは、俺の全速力についてこれるんだよ。正直、こいつを振り切る意味もあって全速力で走り始めたのに。


 ラミーダという存在を最高に面倒くさいと感じながらも、走り始めて、三分もしないうちに町の出口に着く。その出口を抜けようとしたところで、上から、何か巨大なものが降ってきた。


 それを察して、急ブレーキをかける。当然のように、ラミーダも、急ブレーキでそれを避けた。


 ……そのまま、潰れてくれれば良かったのに。


 俺が、そんな事を考えて、隣のラミーダを見ていると、頭上から、やけに響く声がした。


「お前たち……、この町から逃げれると思っているのか……?」


 見上げると、そこには巨大な岩の塊に顔が浮かんだ生物がいた。端的に言えば、巨大ゴーレムがいた。


 全長はゆうに三十メートルはあろうかという大きさだ。くぐもった声には、他者を圧倒する迫力がある。


 急いでるのに、面倒くさい奴が現れたものだ。ただでさえ、ラミーダ一人で十分面倒だというのに、これ以上、俺に仕事を増やさないで欲しい。


 ラミーダが、こいつを倒してくれないかなと、思ってラミーダの方を見てみたが、「すげー、岩が喋ってる。」とか言って、感心している。全くもって役に立ちそうにない。


 とにかく、できるだけ早くこいつを始末しなくてはと思い、俺は巨大ゴーレムを見上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る