第4話 脱獄
俺が、そう思いながら、頭の中で脱獄の準備を進めていると、くいくいと俺の袖を引っ張る者がいた。
ラミーダだ。一体何の用事だろうか。こいつはできるなら今ここで、倒してしまいたいが、今は、こいつに構ってる余裕はない。
面倒だというのを隠そうともせずに、口を開く。
「……何の用だ、ラミーダ。話はもう終わったろ。」
「ねーねー、ザイズってここから脱獄しようと考えてるんじゃない?」
心臓が一瞬止まったように感じた。どうして、こいつは俺の事を呼び捨てで呼び始めたのかとか、そういうことを考える余裕もない。どうして、こいつは俺の考えてる事が分かったんだ?
「…何を根拠に?」
「うーん。説明しにくいんだけど、私って少し人の心を読むことができるスキルを持ってるんだよね。具体的に分かる訳じゃないんだけど、何となく脱獄したいのかなって。」
流石は、勇者だ。割とチートスキルじゃないか。というか、どうしてそれでこんな場所に捕まってるんだよ。そもそも、何で魔皇帝に世界を乗っ取られてるんだよ、という疑問が頭に浮かぶ。
自分の千年の知識を探ってみても、当然その答えはない。あまりに、自分の領地に引きこもりすぎたみたいだ。まあ、そのおかげで領地が発展して、最後の砦になっているのかもしれないが。
とりあえず、心が読める奴に嘘をついても仕方がない。
「まあ、そんなところだ。それで、ラミーダは何でそんな事をわざわざ聞いてきたんだ?」
「私も脱獄したいなって丁度考えてたからさ。だって、ここのご飯美味しくないんだもん。」
割とどうでも良い理由で脱獄したいみたいだった。できれば、勇者と協力なんて御免被りたいところだが、断るのもおかしいよなと思う。まあ、連れてけば囮くらいにはなるか…。
「分かった、協力しよう。それで、何か脱獄の作戦とかはあるのか?」
一応聞いて見る。こちらにも、脱獄の作戦はあるが、もしラミーダの提案する作戦の方が優秀なら、そちらを採用した方が良いからな。
ラミーダは、俺の言葉ににやりと笑みを浮かべると、自信満々に言い放った。
「もちろん、強行突破!!」
……あー、実は馬鹿なんだ、この勇者。
何となく、勇者のくせにこの牢屋に捕まっている理由や、魔皇帝に世界を乗っ取られてしまった理由が分かった気がした。
俺が、この馬鹿な勇者に自分の作戦を伝えようとした、丁度その時、牢屋の扉が開いた。
「点呼だ。囚人ども。」
この牢獄、点呼とかあるんだ、とそう思ったのも束の間だった。
ラミーダが、その看守に向かって飛びかかったのである。しかも、飛びかかる前に、目線で俺に意味の分からないアイコンタクトをしてきた。多分、作戦通りに、今から強行突破するぜ的なことを伝えたかったんだと思う。
……馬鹿すぎる。どうして、俺がそんな作戦にのらなければならないのか。とりあえず、ラミーダは放置だ。看守たちの目を引く良い囮と捉えれば、悪くないかもしれない。
そう思いながら、俺は転移魔法を唱えはじめた。この転移魔法は強力だが、移動距離が短いのと、詠唱に時間がかかるという難点を抱えている。ラミーダの馬鹿が目を引いてる今は、転移魔法を行う絶好の機会だった。
長い詠唱を終えて、転移魔法を行使する。瞬間、視界が真っ白に染まり、牢獄の出口まで、転移することに成功した。ひとまず、これで脱獄は完了だ。急いで、領地に戻ろうと、足を動かそうとしたところで、後ろから声がかかった。
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