第3話 名君と呼ばれる理由

 やばい!今すぐ逃げないと。初めての外出で勇者とエンカウントとかツいてないにもほどがある。俺は、運命の女神に悪態をつきながら、腰をあげようとして気づいた。


 ……もしかして、この勇者、俺が裏ボスだって事知らないんじゃないか。


 そうだ、そもそも俺は、急に生えてくるタイプの裏ボスだ。世界に平和が訪れたかと思えば、全ての黒幕は別にいたタイプの裏ボスだ。初対面が決戦の場だったはず。


 これなら、誤魔化せるのではないか?とりあえず、大人しくしていた方が吉かもしれない。そう思って、上げかけた腰を下ろす。


 そう言えば、まだ俺の自己紹介を終えていなかったなと思い、ラミーダに向かって口を開いた。


「俺の名前は、ザイズだ。よろしく。」


「……ザイズ?ザイズって、もしかして最後の砦のザイズ様!?どうして、こんなところに居るの!?」


 急に、ラミーダが大声をあげる。当然、その声は、周りの人たちにも聞こえており、ざわざわとにわかに騒ぎ立つ。


 一瞬、裏ボスとして、自分の名前が多くの人に知られていたのかと、警戒するが、この雰囲気はどうもそういう感じじゃない。


 一体、どうしたんだ?そもそも、最後の砦とは、何の事だろうか?


 分らない事は確認しておかなければと、ラミーダに声をかけた。


「最後の砦っていうのは一体何なんだ?俺の領地では、そんな言葉聞いたことがない。」


「えー!?まさか、最後の砦の名君自身が、そのことを知らないの!?」


「すまん、本当に知らないんだ。教えてくれないか?」


 愚直に頼み込む。知らないことは聞くに限るというのは、領主としての知識を何も持たずに転生してきて、領主として領地を治めていかなければならなかった俺の経験則だ。


「この世界って、もう魔皇帝の支配下じゃない。だから、唯一その魔皇帝の支配の及んでいない、ザイズ様の領地のことを最後の砦って呼んでいるの。」


 ……何か急に色々ととんでもない事実を言われた。何となく予想はしていたけど、思ってたより、世界征服間近だったんだな、魔皇帝さん。


 なるほど、これで合点がいった。最近、妙に魔獣の襲撃が多かったのも、ここの領地が俺の領地に攻撃する準備を進めているのも、魔皇帝とやらの世界征服のためか。


 だったら、俺がここの領主と平和協定を結ぶなんて不可能じゃないか。全くもって、ただの捕まり損だ。まあ、でもこの情報を得られただけ、ありがたいと思うべきか。


 そうなってくると、俺の領地が危険だな。一刻も早く、領地に戻って、魔皇帝軍の迎撃準備を始めなければ。

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